導入事例
- 取材
- 長野県飯田市教育委員会
飯田市では「地育力による未来をひらく心豊かな人づくり」を教育ビジョンに掲げ、全ての子どもたちの可能性を引き出す未来志向の教育環境を整えています。その一環として、「総合学力調査」を活用し、 児童・生徒の学力保障・学力の向上を目指すとともに、教員の業務効率化も図っています。 飯田市教育委員会の木下耕一先生(教育指導専門主査)に、その取り組みについてお話を伺いました。
- 目的
- 学力保障・学力の向上に向けて、「総合学力調査」を活用し、全ての学校・学級で「具体的な指導改善と支援」につなげる。
- 課題
- ・【教員】結果返却後、分析資料をつくるところで終わってしまいがち。
・【教員】具体的な活用について、学校や学級間でばらつきが出てしまいがち。
・【児童・生徒】 「学力調査を受けて終わり」となってしまいがち。 - 効果
- 「総合学力調査」の実施から返却までの時間と手間を短縮しつつ、結果を具体的な指導改善や支援につなげることを実現。児童生徒が自らのつまずきを意識し、主体的に学んでいく姿勢を育むきっかけに活用。
導入背景・目的
これからの教育に合った、学びを止めない仕組みの導入
導入前の課題感
様々なテストは実施していましたが、 学校ごとの運用であったため、 学校や学年によって結果返却後の活用はバラバラでした。 市としても十分にフォローできておらず、 全体を把握しきれていない状態でした。
導入の背景・目的
まず、自分の答案や経年の結果が記載されている個人票がよいと思いました。これにより、子どもが自分で学習状況を把握することができます。また、「ドリルパーク」が連動することにより、子どもはつまずきに合わせて自分で復習に取り組むことができます。もし私が30人学級の担任だったら、全員分の復習プリントを用意したり、回収後つまずきに応じて支援したりすることはとても大変です。この仕組みにより、結果の返却から復習、事後の指導や支援までがとてもスムーズに進んでいく点が良いと思いました。
もう一つは、「総合学力調査」 に結果閲覧ポータルサイト (SYEN)があることです。 紙ベースで結果が返却されるとなかなか共有しづらい実態がありました。例えば、学年会や教務会等で扱ったあと保管庫に入れて管理します。こうすると、見たいときにぱっと見られなかったり、ほかの学級の様子を掴みづらかったりします。そういった悩みが、SYENだと解決します。学級や学年の状況を様々なデータから把握できますし、結果を経年で見ることも可能です。結果を担任に留めてしまうのではなく、チームで対応していくことに活用しやすいこれらの仕組みが、これからの学びに合っていると思いました。
「総合学力調査」の個人票(サンプル):各教科の傾向がつかみやすいように正答率の分布グラフが示されます。
導入後にされた活用の工夫
結果分析から取り組みまでを「見える化」し、先生の自走をサポート
令和6年度第一回飯田市研究主任会の様子
日々たくさんの業務に追われる先生方です。どのようにしたら結果を活用しやすいかを考え、「取組シート」を作りました。「取組シート」は、結果から指導を振り返り、何ができそうかを考えるきっかけとして活用してもらうものです。これを、クラウドで共有することで、市内各校の研究主任同士が参照し、互いに学び合うことができるようにしました。
年数回実施している市教委主催の研究主任会は、各校の取組をサポートする会です。 参集型の研修会だけでなく、チャットも活用し各先生や各学校の課題や取り組みを共有・参照できるようにしています。
「取組シート」活用の流れ(木下先生提供資料より抜粋)
【図版3】学校での取り組み共有例(木下先生提供資料より抜粋)
振り返りにつながる結果の見方
結果の見方について、 平均正答率を前年と比べて苦しむ声もありました。 平均正答率で全国と数%の差がある場合でも、問題数では一問以内の差という場合もあります。SP表を活用してポイントとなる一問を見つける等、 指導改善につながるような結果の見方を先生方に伝えたいと考え、動画を作成し市内の学校に展開しました。多くの子どもが間違う問題や、一部の子どもが解けていない問題をきっかけに、 先生一人一人が主体的に指導改善に取り組めるようになってほしい。結果返却時だけではなく、連続的、継続的な取組が拡がっていってほしい。 そう願っています。
帳票の見方だけでなく問題分析も先生方に促すことで、 指導への活かし方が変わってきたように感じます。 また、 結果を返却する時は、子どもたちに振り返りを記入させ、自分の学習状況を客観的に捉えられるようにもしてもらっています。
結果を踏まえて変化を起こすサポート
「総合学力調査」では「ドリルパーク」と連携させることで、一人一人の得意や苦手に合わせた学習に取り組むことができるようになっています。そのほかにも、飯田市で導入している 「まるぐランド」 は、 低学年から読み書きの土台作りを向上させるのに適しています。調査結果から読解力育成の必要性を感じる先生も多く、目的意識をもって活用することができます。 「総合学力調査」活用の今後について、教員が結果を具体的な指導改善や支援に活かすだけでなく、児童生徒が、結果から自分の学習状況を把握し、学習の進め方について試行錯誤するなど、自らの学習を調整しながら学んでいけるようにしていきたいと考えています。
学校の先生の声
「総合学力調査」 は、数値として 「見える化」することでこれまでなんとなくやっていたものがデータに基づいて根拠をもって取り組めるのは、 先生たちにとってとてもよい機会になっていると思います。 児童にとっても、 結果が 「ドリルパーク」 に紐づいていることで、 例えば 「自分は引き算があまりわかっていないんだな」 というように、 どこでつまずいているのかわかって取り組めます。全員に共通して出されている課題をやるよりも 、自分自身でどこが弱点かがわかって、その弱点について個別に復習に取り組めるのはよいと思います。
これまでは、結果が戻ってきても、担任に配ってあとは任せがちでした。「分析しましょう」と言われても、 誰がいつやるかとなると、研究主任や特定の学年で分析して、その結果を発表するだけということが多かったです。「取組シート」があることで、 校内の他の先生に分析を依頼しやすくなり、「一緒にやりましょう」という雰囲気になりました。
今後の展望・期待
「見える化」で変わる学びのスタイル:自律した学習者の育成を目指して
課題と今後について
まずは、現在の取り組みを続け、「総合学力調査」の活用を広げていくことです。毎年人事異動により多くの教員の入れ替えがあることも踏まえて、粘り強く取り組んでいきたいと思います。さらに、教員の立場での活用にとどまらず、自律した学習者の育成に向け、児童生徒の立場での活用も進めていきたいと考えています。多くの先生ががんばってくださっていますので、教育委員会はそのサポートをしていきたいと思います。
※ページの内容は2024年6月時点の情報です。