「ICTはあくまで授業をよくする“道具”。」と語る菅野校長。長田小学校では、ICTがあるからこそできる、「子どもたちが面白い」と思える授業づくりを目指しています。
校内のICT活用促進の一助を担っているのがICT支援員の薄井さんです。「先生に手取り足取り教えることはほとんどありません。先生方の実践を別の先生につなぐ“ハブ”として動くようにしています」と話す薄井さん。例えば「こんな使い方ができた、こんな使い方はどうか」という、先生方の実践をサポートしながら声を吸い上げ、次の先生へ伝える橋渡し役となります。もちろん、トラブル対応や操作の補助だけでなく、授業準備段階から先生のアイデアを一緒に形にする伴走者としても活躍しています。
先生主導で校内研修などの学び合いが行われ、先生同士の実践が自然に広がる好サイクルが生まれている長田小。「支援員がいるから挑戦できる」と先生方からの信頼も厚いのだそうです。

この日取材したのは、小3担任・門口先生の授業。「あまりのある計算」をどのように表すことができるかを考える単元です。「オクリンクプラス」を活用し、児童がタブレット内のカードをノートのように使って考えをまとめ、それをもとにグループで議論します。「なぜ？」「こういうことかも！」と声が飛び交い、教室は子どもたちの自発的な思考でいっぱいに。
先生の方針として、授業冒頭では「めあて」を丁寧に示し、「なぜ学ぶのか」を明確にすることで学びの動機づけも重視。また、様々な成果物への評価を大切にし、「これはよくできているね」「いい声掛けだね」など、子どもたちが「こうありたい！」と自然と頑張れるクラスを作り上げています。「楽しみながら考え続けることが大事」と話す門口先生の授業では、共有や振り返りなど「オクリンクプラス」の機能を活かした主体的な学びが実現していました。
もちろん授業中はICT支援員の薄井さんも児童のサポートに。カードの動かし方などテクニカルな面はもちろん、伝えたいことがいっぱいの子どもたちの意見に耳を傾けながら、自分の表現をブラッシュアップしていく過程など、授業の進行を陰で支えています。

【授業レポート】

門口先生　小3算数「あまりのあるわり算」
導入では「ボールを全部入れるには何箱必要か？」という具体的な問いを提示し、クイズ感覚で子どもたちを本時のめあてへと引き込み、この単元を学ぶ動機付けをしっかり行います。
展開では、オクリンクプラスの「マイボード」に解き方カードやヒントカードを配付。各自が考え、班で意見をまとめ、「他者に説明できる」カードへと仕上げていきます。

児童は「こうかな？」「違うかも！」と手も頭もフル回転。考えがまとまらない班への助言も自然に生まれ、活発な対話が続きます。まとめでは「余りが出るものを箱に入れるためには、割り算の式の答えになる数ともう1つ必要」という概念をクラス全員が理解。達成感に満ちた表情で、学びのまとめとして自分の言葉に落とし込んでいました。

オクリンクプラスのほかにも、ドリルパークを朝学習や基礎基本の徹底に活用。テストパークをプレテストとして取り組み、学期のまとめとして活用するなど「目的に合わせたICTの活用」が進む長田小。

2025年度、長田小は新たな挑戦に踏み出します。スローガンは「選べる授業」。菅野校長は「子どもも先生も、自分にとっての最適を考え、方法やツールを選んで学ぶ授業を目指します」と語ります。授業のどこかで「自分はこうしたい」と選択できることが主体的な学びにつながる。長田小の挑戦は、子どもと先生双方の学びをさらに深めています。

「ICTは学力向上のためだけではなく、いい授業をするための手段」と話すのは、真岡市教育委員会の澤村慎一先生。
教育委員会の想いを学校での実践と丁寧にすり合わせ、コミュニケーションすることを心がけています。真岡市はICTを「とにかく使ってみる」段階を終え、「目的に合わせて工夫する」段階へと進化しました。
全校が公開するICT研究授業で優れた実践を共有し、教育委員会と教職員が連携するICT教育研究会では、市内全校が参加し、実践事例の共有、研究をしています。「ICTを活用した授業では、子どもたちの考えを「引き出す」「全員参加になる」「意味のある対話になる」といった場面によく出会います。こうした対話が深まっていく過程はICTがあってこそです。そしてそれらを先生がしっかりと見取ることができる。何となくではない「根拠のある」個別最適につながる。そんな授業をもっと広げていけるといいなと思っています。」
「ICTでの学びの深化とともに、学校の校務負担を減らし、協働できるように提案したい」と澤村先生。ICTを便利な道具以上の“学びを変える力”と捉え、教育委員会と学校が一緒に取り組む姿勢が市全体に広がっています。