導入事例
体育の「複線化授業」と
児童に「委ねる」学び
- 取材
- 神奈川県綾瀬市立落合小学校 | 生内 孝幸 先生、杉山 大介 先生
- 使用製品
- オクリンクプラス
- 学年
- 小学校5年生
神奈川県の綾瀬市立落合小学校5年生の体育の授業では、オクリンクプラスを活用し、それぞれの児童が課題を見つけて解決策を導き出す「複線化授業」を実践しています。自らを「デジタル原始人だった」と振り返る生内孝幸先生と、ICT活用を牽引してきた杉山大介先生、そして先生の授業づくりをサポートするICT支援員の三者が連携して実現した取り組みです。これまでの教師主導の学びから、児童に学習を「委ねる」新しい授業スタイルへの転換を遂げた軌跡をご紹介します。
導入背景・目的
運動の得意、不得意に関わらない体育の授業づくり
落合小学校では2025年度にミライシードが導入されました。5年生を担任する生内先生と杉山先生は、授業へICTを積極的に取り入れたいと考える一方で、それぞれが課題を抱えていました。

教員歴18年の生内先生は、「ICTを使いこなせておらず、苦手意識がありました。」と当時の心境を語ります。これまでの体育の授業では、児童の気づきや作戦を黒板に貼っていましたが、黒板のスペースには限りがあり、協働的な学習に難しさを感じていました。

教員歴14年の杉山先生は、児童が全員で授業に参加できるツールを求めていました。
「多様な児童がいる中で、一部の児童だけでなく『みんなが使える』というユーザビリティの高さが不可欠です」。と杉山先生は指摘します。
体育においては、運動が「得意な子」と「不得意な子」の運動量やモチベーションに差がある、という現実が存在します。そこで両先生は、誰も経験したことのない「ザースボール」という競技を題材に選びました。この競技は「先行者優位」が存在せず、習い事などによる能力差が出にくいため、全員が同じスタートラインに立てるという利点があります。あえて不完全なルールを設定して課題意識を生じさせ、オクリンクプラスを使って児童自身が解決策を考える「複線化授業」に挑戦することにしました。

ミライシードを活かした授業の工夫
落合小学校の5年生では、「捕らナイト!投げナイト!走らナイト!」と題した全7時間のザースボールの単元を構想し、オクリンクプラスをフル活用しています。
※単元デザインシートを最下部に貼付しています。
- チームごとの最適解を探求する「反復練習のカスタマイズ」
単元の前半(第1〜2時)、児童はルールの理解と基本的なパスやキャッチの練習を行います。「ザースボール」は、1チーム3〜5人で、ボールを保持して動けるのは2歩まで、ゴールエリアのディフェンスは各チーム2名までといったルールで行われます。 しかし、いざゲーム形式の練習をしてみると、児童は「思っている以上にパスがつながらない」という現実に直面します。使用しているボールの特性や早い展開のゲーム性が児童の想像を超えていたためです。
ここでオクリンクプラスが真価を発揮します。 「どうすればパスがうまくつながるかな?」という問いに対し、児童はオクリンクプラスのカードに自分たちの課題をまとめ、共有します。「自分たちのチームはスピード型のパスが強い」「背の高さを生かした山なりのパスを通そう」など、チームごとに話し合います。そして、細かいパスを回して相手を引きつけてから遠投する練習、バウンドと弾道を変えての練習、走りながらキャッチする練習など、自分たちの課題に応じた反復練習を決定し、カスタマイズしていきます。 先生が全員に同じ練習メニューを指示するのではなく、チームごとに異なるルートで上達を目指す、まさにチームごとに「複線化」された授業です。
- リアルタイムで他者を分析する「観戦学習」と多様な表現方法
第3〜4時の授業では、「どこにいたら邪魔かな?」といったオフザボール(ボールを持っていない時の動き)の重要性を理解する学習へと進みます。ここでは、試合をしていないチームが他チームの試合を観戦し、良いプレーを探す「観戦学習」を取り入れています。児童は端末で試合を動画撮影しながら、「誰がどこにいたからパスが通ったのか」「自分だったら今投げたな」と分析し、オクリンクプラスのカードにまとめていきます。
生内先生は、「試合の真ん中に立つのではなく、観戦している児童のそばに寄り添い、『これ、〇〇するとどうなると思う?』と問いかけています。オクリンクプラスがあることで、試合の安全管理をしつつ、周囲で思考している児童への見取りと声かけが可能になりました」と語ります。
また、授業の終わりには「ヒーローインタビュー」と題して、今日の活躍を動画や音声で振り返る活動を行っています。タイピングが苦手な児童も、オクリンクプラスの音声入力機能を活用することで、「自分でもすぐできる」と感じることができ、笑顔で自分の意見を発信できるようになりました。生の声を記録化することで、情報量が格段に増え、児童の表現の幅が広がっています。

教師の役割と「児童に委ねる」ことの難しさへのアプローチ
この実践の最大の鍵は「児童に委ねる」ことですが、同時にそれが最も難しいポイントでもあります。杉山先生は、「児童に授業を委ねる授業づくりは、とても難しいです。例えば児童の答えを事前に予想して短冊を作り、それを黒板で提示するといった手法はよく行われますが、教師が先手を打ちすぎると、児童は『答えだけを求める』ようになってしまいます。」と、従来の指導からの脱却の重要性と難しさを語ります。
教師の役割は、道を示して児童の手を引くことではありません。児童が様々なルートで試行錯誤するのを見守り、応援する「伴走者」であるべきだと杉山先生は語ります。 しかし、単に自由にさせるでは学習は成立しません。例えば、背の低い児童ばかりのチームが、ロングパスの練習を選択してしまうような事態も起こります。そのような時、教師はすぐに否定するのではなく、「なぜそれを選んだの?」「〇〇の効果はありそう?」と問い返し、児童自身に意思決定の根拠を考えさせます。どうしても軌道修正が必要な場合は、「あっちのチームはこういう戦い方をしているみたいだよ。」と他チームの動画や足跡を参照させ、自ら柔軟に自己調節できるように促します。 「委ねすぎると反復練習が課題と一致せず、効果が薄れてしまう場面もあります。難しいのはその加減であり、児童に問いかける『教師の働きかけ』が必要になってくるのです。」と、両先生は実践を通して感じた繊細なバランスの重要性を指摘します。
また、複線化授業を行うと、「見取り」と「臨機応変な対応」が重要になります。オクリンクプラスを活用することで、児童の取り組みを把握することができ、その様子を受けてその後の展開を予想し速やかに軌道修正を行うことができます。「これまでは、準備した資料を修正しようと思っても授業内で行うには時間がかかってしまい、授業の流れを止めてしまっていました。オクリンクプラスであれば、同じツール上で児童の見取りも資料の修正も実現でき、授業の流れを止めずに対応できるのがとてもありがたいです。」と生内先生は語ります。
導入成果
児童のモチベーション向上と、先生の「見取り」の変化
オクリンクプラスを活用し児童に学びを委ねる授業展開について、約95%の児童がデジタルでの意見の共有や思考にメリットを感じていることが、児童のアンケートの結果からわかります。

自分が成長したと感じる点について、「自分の考えを書こうとした」「作戦や意見を友だちに伝えようとした」という回答が多く、児童はデジタルツールを用いて「対話をしたい」「対話が必要」ということを感じて、主体的・対話的に学習を進めることができたことがわかります。
先生方の「見取り」や授業スタイルにも変化がありました。以前は、先生が用意した正解のレールに児童を乗せている感覚がありましたが、現在は児童の生の声や思考がすべて足跡として残ります。「児童の『学びの振り返り』が、そのまま次の時間のめあてになるんです。授業中も児童の反応を見てすぐにスライド作って提示するなど、事前に準備するスライドの量が減り、児童と一緒に授業を創り上げることができるようになりました。」と生内先生は変化を口にします。
今後の展望・期待
チームワークで挑むミドル世代の挑戦と「委ねる」勇気
今回の取り組みのような授業づくりを支えているのが、ICT支援員の存在です。生内先生はICT支援員のことを「なんでも叶えてくれる人」と表現します。「『来週こんな授業がやりたいんだけど、何かいいものありますか?』と相談すると、フォーマットや武器をすぐに増やしてくれるんです。」と生内先生は信頼を寄せます。 先生2人の「こんな授業をつくりたい」という思いを受けて、ICT支援員が他校の事例やオクリンクプラス上で使いやすいカードを提供する。この連携が、質の高い授業実践を可能にしています。

ミドル世代となる生内先生と杉山先生の挑戦は、学校全体のICT活用に大きな影響を与えています。
杉山先生は、「私たちのようなミドル世代の人間が、新しいものを取り入れチャレンジして授業づくりをしていくことで、学校の雰囲気が変わると信じています。児童に学びを『委ねる』のは、最初は怖いかもしれませんが、オクリンクプラスのような全員が使いやすいツールがあれば、必ず伴走し切ることができます。」と力強く語ります。
「最初から完璧に使いこなす必要はありません。」と生内先生もエールを送ります。「私自身、完全に児童と一緒に学びながら進めています。これまでの授業の経験があるからこそ芽生えてくる、ベテランや中堅ならではの『こういうことができたらいいな』という思いを、オクリンクプラスとICT支援員さんが形にしてくれます。まずは勇気を出して、児童の力を信じて一歩を踏み出してみてください。」
綾瀬市立落合小学校の取り組みは、ツール、教員の熱意、そしてICT支援員のサポートが三位一体となることで、実技教科においても深く豊かな「委ねる」学びが実現できることを力強く証明してくれました。
▼単元デザインシート

※ページの内容は2026年7月時点の情報です。
使用製品
オクリンクプラス
個人思考と共同作業の自由な行き来により
子ども同士が対話し、主体的に学んでいく授業運営を支援。


