「せんせいリレー」vo.1 -教員のその先へ―私が“学校を創る”と決めた理由-
― 先生による、先生のための連載コラム「せんせいリレー」vo.1 ―
働き方
執筆/執筆/NPO法人 Re-Education 理事長 兼 オルタナティブスクール「The WILL」Education Creator
川口 翔平先生
Profile
川口 翔平先生
教員のその先へ―
私が“学校を創る”と決めた理由
今の思いを残すために綴ります。私が学校を創ったのは、学校教育を否定したかったからではありません。むしろ、教育という営みに大きな可能性を感じたからです。教員として17年間、子どもたちと向き合う中で、私は一つの確信を持つようになりました。
「よりよい学び、よりよい育ちは、教師の自律性と創造性から生まれる」
子どもは、自分で学びを創り出す力を持っている
学校で、仲間と共に教育を創っていた時間は、今振り返ってもかけがえのない時間でした。子どもの姿を見取り、理論と実践を往還しながら、「今、この子たちに本当に必要な学びは何か」を問い続ける。簡単なことではありませんでした。正解がない中で、何度も悩み、ぶつかり合いながら、それでも子どもの姿を中心に据えて、教育を創っていく。けれど、その時間には確かな手応えがありました。その手応えの一つは、私が思っていた以上に、子どもたちは自分で学びを創り出していく力を持っているということです。例えば、私が取り組んでいた生活科・総合的な学習の時間では、「やってみたい」という思いから学びを広げ、積み重ねていく実践を行っていました。
3年生の「キャンプ名人になろう」という学習では、夏休み前に火起こしができた子は、クラスに1人いるかどうかでした。それが、夏休み明けには18人の子どもたちが自分で火を起こせるようになって学校に戻ってきたのです。さらに年度末には、自分たちで道具を準備し、火を起こし、好きな料理をつくり、仲間と協力しながらテントを立て、豊かな一日を創り上げていました。そこには、「やらされている学び」はありませんでした。「もっとやってみたい」「自分たちでできるようになりたい」そんな思いから、子どもたち自身が学びを創り出している姿がありました。その姿を目の前にした時、人は環境次第でどれだけでも前に向かって進んでいく存在なんだということを強く感じました。
教育を創るためには、大人にも自由が必要だった
またそれと同時に、子どもの力を引き出すためには、大人側にも「教育を創る自由」が必要だと思うようになりました。子どもの姿から問いを立て、目の前の子どもに必要な環境を考え、仲間と試行錯誤しながら実践していく。その積み重ねが、学校文化を創っていく。附属小中学校で仲間と教育を創っていた時間は、まさにその連続でした。
「幸せに生きる」とは何か
一方で、社会が大きく変化していく中で、自分自身の教育理念も少しずつ明確になっていきました。私は、「幸せに生きる」ということには、二つの側面があると考えています。
①今の幸せ
何かの目的に向かって進む過程そのものを楽しめること。目の前のことに夢中になり、自分の在り方を問いながら生きられること。これは、子どもたちを見ていても強く感じます。
誰かに評価されるからではなく、「楽しい」「もっとやりたい」という思いから動いている時、人は驚くほどのエネルギーを発揮します。
②これからの幸せ
これからの社会は、変化が激しく、正解が簡単には見つからない時代になっていきます。だからこそ必要なのは、与えられた答えを覚える力だけではありません。自分で問いを持ち、必要な人とつながり、必要な方法を選びながら、自分の人生を切り拓いていく力。つまり、「幸せに生きるための術(すべ)」を身につけていくことだと思っています。
自己決定の社会と、画一教育のはざまで
社会に出れば、自分の人生は自己決定の連続です。どんな仕事をするのか。どんな人と生きるのか。どんな場所で、どんな生き方を選ぶのか。そこには、一つの正解はありません。自分で考え、自分で選び、自分で問題を解決しながら、人は「自分なりの幸せ」を見つけていく。けれど、学校では時に、「同じことを、同じタイミングで、同じようにできること」が求められる場面もあります。もちろん、それによって守られているものもあります。しかし私は、教育と社会との間に、少しずつズレが大きくなっているように感じるようになりました。
「学校を創る」という選択
これからの社会で本当に必要になるのは、一人で勉強して、一人でテストを受ける力だけではありません。一つの目的に向かって、仲間と対話し、試行錯誤しながら、共に解決していく力です。その力が、これからの社会をよりよいものにし、平和な未来を創っていく力になると思っています。だからこそ私は、「もっと教育を追求したい」と思うようになりました。誰かを否定したかったわけではありません。学校を壊したかったわけでもありません。ただ、自分が信じた教育に、もっと正直に、本気で向き合ってみたかった。その延長線上に、「学校を創る」という選択がありました。
The WILLで大切にしていること
私たちの学校 “The WILL” では、子どもたちが「正解を当てる人」ではなく、「意志(WILL)を持ち、自分らしく世界と関わっていける人」になっていくことを大切にしています。子どもたちが、「今」を幸せに生きながら、「これから」を自分で創っていける力を育んでいく。そのために、目の前の子どもの姿を通して、教育を問い続け、創り続けていきたいと思っています。そして私自身もまた、子どもたちや仲間、保護者の皆さんと共に、教育とは何か。幸せに生きるとは何か。その問いを探求し続けていきたいと思っています。