不登校対応のポイント|対話とチームで支える実践
~草潤中学校の先生方に聞く、生徒の「好奇心の炎」を絶やさない関わり方~
学級経営
執筆/岐阜県岐阜市立草潤中学校 先生チーム
不登校の生徒に、担任として最初にできることは何でしょうか。本記事では、学びの多様化学校(旧「不登校特例校」)として先進的な取り組みを行う岐阜市立草潤中学校の石榑校長先生、若原教頭先生、教務主任の竹村先生の3名の先生方から、学校で大切にされている「安心感」の作り方や、生徒の「小さな好奇心の芽」を丁寧に掬い取る対話のコツ、そして組織で支え合う仕組みについて伺いました。特例校だからできる、ではなく、多くの学校でも、先生方の明日からの実践を支える一助となるはずです。
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不登校対応で最初に必要なのは「安心感」|担任ができる環境づくり
不登校対応において、石榑校長が「何よりも第一」と強調されるのが、生徒が心から感じられる「安心感」です 。学びに向かうための土台が揺らいでいては、どんな素晴らしい指導も届きません。
「一律」という重圧を取り除き、やること・やめることを検討
一般的に学校では、どうしても「全員が同じルールを、同じスピード」を求めがちです。しかし、多様な価値観や背景を持つ不登校経験者にとって、その一律の指導自体が安心を阻害する要因になります 。「多様な価値観を持っている生徒たちにとっては、教室へ入ること自体が負担であったり、いろんな思いが交錯ししたりしてしまいます」と若原教頭先生。まずは「枠」を取り払い、その子がそのままの姿でそこにいても良い、という環境を整えることが、職員が一番心に置いているポイントです 。
例)
・朝の会への参加を強制しない
・提出期限を一律にしない
・教室に入れない日は別室登校も選択肢にする
など
歩みの歩幅を尊重し、「時に待ち続ける」忍耐
子どもたちが自分の良さを発揮できるようになるまでの時間は、一人ひとり驚くほど違います 。特に環境が変わったばかりの児童・生徒は、強い警戒心を持っていることも珍しくありません 。「まだまだその想いを言葉や行動にするまでに至っていない子どもを、じっと待つこと。そして、その背後にいる保護者まで支えられること。それを何より大切にしています」という校長の言葉は、焦りを感じがちな現場の先生方への大きな示唆となります 。
生徒との対話で担任が意識したいポイント|丁寧に「小さな好奇心の炎」を見つける
生徒が「何を求めているか」は、本人ですら言語化できていないことが多々あります 。そこを解きほぐすのが、草潤中学校の先生方が最も得意とされる「ナラティブ(物語)を紡ぐ対話」です 。
「教える」よりも「聞いて語る」プロセス
対話において大切なのは、大人の正解を教えることではありません。「物語を通じて、生徒の今できること、やりたいことは何かという、小さな好奇心の炎を見つけていくことが大切です」(石榑校長)。対話では、「話をただ聞く」というよりも「生徒自身の思いを聞きながら一緒に言葉にしていく」関わりを大切にしています。生徒の内側にある気持ちや考えが、対話の中で少しずつ形になっていくように、教職員はそっと寄り添いながら、そのプロセスを丁寧に支えています。教職員が導くのではなく、生徒の内側にある思いや願いが、対話の中で少しずつ形を帯びていく。その積み重ねこそが、生徒の「やりたい」という自発的なエネルギーを呼び覚ます、何より確かな道だと考えています。
エピソード:調理の道を目指す生徒
ある生徒は「高校に進学して調理の勉強がしたい」という夢を持っていました。しかし同時に「学校での勉強はしたくない」という葛藤も抱えていました 。 先生方は「学校の勉強は意味がない」という彼女の気持ちを否定せず、丁寧な対話を通じて、「夢を実現するために必要な一歩」を彼女自身の物語として一緒に考えました 。まず「自分は何をしたいのか」を見つめ直し、興味のあるお菓子作りを入り口に、分量計算などの小さなステップを踏みながら学びの現在地を一つずつ確認していくことに。何から始めたらよいのかといった漠然とした不安を、具体的な『これならできる』に変えていく作業です。
4月の個別面談で聞いていること|「個別相談時間」で地図を描く
竹村教諭は、年度当初の4月に、一対一でじっくり話す時間を大切にしています 。「今の自分の理解度はどのあたりか、これから一年間でどんなことを学びたいか。一対一で相談しながら、一緒に学びの地図を描きます」 。この対話の結果、一斉授業に入る子もいれば、個別学習やオンライン参加を選ぶ子もいます 。生徒自身が自分の学び方を「選択」したという感覚を持つことが、主体的な学びへの第一歩となります。
個別相談の時間には、生徒の算数、数学に対する意識を掴むことをしています。例えば、好き嫌い、得意不得意の度合いを「どんなところが好き(嫌い)?」「好き(嫌い)になったきっかけは何?」など質問します。また、生徒の学びの位置を把握するためにいつ(何年生)から学びが止まっているのか、どのくらいの難易度の問題が解けるのかなど、小(中)学校の教科書や単元マップを見せながら聞いたり、実際にその単元の例題を解いたりしながら、その生徒の学びの位置を把握するように努めています。
さらに、これからどのように学んでいきたいかを一緒に考えながら、生徒自身が学びの地図を描けるように支援します。「何を学ぶか」では、該当学年の内容にとどまらず、小学校の内容も含めた前学年の学び直しや、苦手な単元や領域の学習に向かえるようにします。「誰と学ぶか」では、仲間と一緒に学ぶのか、T2の先生、または〇〇先生と学ぶのかを確認します。「どこで学ぶか」では、教室なのか、別室なのか、それとも家庭で学ぶのかを把握します。「どのように学ぶか」では、教科書を使って学ぶのか、問題集やプリント、タブレットを使うのか、学習教材を確認します。このように生徒と対話をしながら、具体を確認・提示し、生徒が学習に向かいやすくしています。
不登校対応を担任一人で抱えない|チーム支援の仕組み
不登校対応は、一人の熱意ある先生が抱え込むと、必ずどこかで限界が来ます。草潤中学校では、全職員で一人の生徒を支える「チーム支援」を徹底しています。
「顔が見える」全職員での情報共有
「特定の先生しか知らない」という状況を極力作らない工夫をしています。 「毎朝の打ち合わせや週一回の「生徒交流会」で、各生徒の細かな変化を共有します。数学の時間はこうだったけれど、社会の時間にはこんな笑顔が見られた、といった多角的な姿をパズルのように組み合わせていきます」 教科の枠を超えて一人の生徒を多面的に捉えることで、「この子はこれが苦手」という固定観念を払拭し、新たな可能性(強みや興味関心)を見つけやすくなるのです 。
独自の記録システムによる引き継ぎ
「担任が変わっても、学年が上がっても、その子が歩んできたナラティブが途切れないように。先生たちと一緒に歩んできたプロセス自体が、その子を支える大きな資産になります」 一人の先生の頑張りを組織のナレッジに変えることで、不登校対応という難題に対して、学校全体で立ち向かうしなやかな強さが生まれます。
その一つに「マナビプラン」があります。この「マナビプラン」は、生徒が、一人ひとりの長期、中期、短期の目標をつくり、その目標に基づいた1日の計画を立て、活動できるようになることを目指し、利用するツールです。
この「マナビプラン」を活用すれば、生徒の思いや願いは、担任が変わっても、学年が上がっても、その子が歩んできた物語が途切れるといったことはありません。
たとえば、教室に入りづらかった時の生徒の思いや今の自分の小さな気づきが残っていることで、生徒本人はもちろん翌年度の先生もその生徒の歩み理解することができます。
また、「マナビプラン」は、懇談の折には個別の担任が保護者の方と内容を共有できるので、新しい担任も関係づくりを丁寧に進めることができます。また、担任以外の先生も「マナビプラン」から生徒の状況を知ることで、その時に必要な支援を行うことができています。
【実践のポイント】不登校対応で明日からできること|担任向け実践チェックリスト
- 1.「待つ」ことを専門性として捉える
生徒の反応がないことを「失敗」と思わず、信頼の貯金をしている期間だと考えましょう。「一年間かけて信頼を築く」というゆとりが、結果として生徒の安心感につながります。 - 2.「具体物」を介した現在地の確認
「何が不安?」と抽象的に聞くのではなく、教材や興味のあるものを一緒に見ながら「ここはOK」「ここは苦手」と、目に見える形で整理してあげましょう。 - 3.生徒の「ナラティブ」の聴き手になる
指導案通りの授業ではなく、その子の人生の物語(今までどうだったか、これからどうしたいか)を丁寧に聴き、一緒に語る時間を5分でも作ってみましょう。 - 4.同僚との「ポジティブな姿」の共有
「今日はこんな小さな好奇心が見えたよ」と、職員室で生徒の良い変化を共有しましょう。先生たち自身のメンタルケアにもなり、チームとしての支援力が高まります。
まとめ
不登校の生徒たちは、決して「学びたくない」わけではありません。ただ、既存の枠組みの中で安心して学ぶことが難しくなっているだけなのです。 草潤中学校の先生方が大切にされているのは、生徒を一律の物差しで測るのではなく、一人ひとりの「安心」という土台の上に、対話を通じて「学びの選択肢」を丁寧に並べていくことです 。
まずは「一律をやめる」ことから始めてみませんか。 正解のない不登校対応だからこそ、先生一人が抱え込まず、目の前の生徒の「ナラティブ」を尊重し、チームでその歩みを目指しましょう。その先には、必ず生徒自身が自分の力で歩み始める瞬間が待っています。
インタビューした先生