学級開きで「すべてを決めない」理由
●子どもが主体的に動き出すクラスづくりのために
学級開きを考えるとき、以前の私は「最初に整えること」が大切だと思っていました。係活動や学級目標、ルールづくりなどを教師が提案し、子どもたちと一緒に決めていく活動は、安定した学級をつくるための取り組みでしたが、その一方で、「先生、次は何をするんですか」「これはどうですか」と、教師の正解を待つ姿が少しずつ増えていきました。
このままでは、子どもが主体的に動かなくなるのではないか。そう悩んでいたとき、当時の副校長先生とのやり取りが転機となりました。「教師が与えてばかりだと、外発的動機付けでしか動けなくなるかもしれない。子どもの『やりたい』が出るまで、待ってみたらいい。出なければ、それも一つの結果だと思って。」この言葉をきっかけに、学級開きですべてを決めきるのではなく、あえて未完成のままスタートすることを選ぶようになりました。学校の決まりなど最低限必要なことだけを確認し、それ以外は、子どもたちの声が出てきたときに形にしていきます。未完成であることへの不安はあります。それでも、その余白があるからこそ、子どもたちは学級を「自分たちのもの」として動かし始めるのだと感じています。
この実践は、こんな先生におすすめです。
- 学級開きで何を大切にしたらいいか分からず、不安を感じている
- 学級開きの具体的な実践例や、面白い取り組みを探している
- 子どもが受け身になりがちなことに悩み、主体的に動くクラスにしたいと思っている
学級開きで不安なときに立ち返りたい、4つの姿勢
●「行動で示し、待つ」ことの大切さ
ここで取り上げる4つの考えは、子どもに守らせるためのルールではありません。学級づくりに向かうとき、私自身が「こうありたい」と立ち返っている姿勢です。受けもつクラスは、毎年違います。学年も違えば、男女比に差があるなど、全く同じということはありません。そのため、「こうすれば必ずうまくいく」という方法は存在せず、その年、そのクラスに合わせて、指導の仕方は変えていきます。しかし、どんなクラスを受け持っても、変えずに大切にしている軸があります。
① 「ありがとう」を言葉にする ― 見ているよ、の合図
「ありがとう」は、感謝を伝える言葉であると同時に、相手の行動や存在を認める言葉でもあります。友達を手伝ってくれたとき、当番活動で動いてくれたときなど、どんなに小さな行動でも、必ず言葉にして返します。教師である私が率先して伝えることで、子どもたちも自然と互いの行動にあたたかい目を向けるようになります。 「評価する前に、まず認める。」その積み重ねが、安心して行動できる学級の雰囲気をつくっていきます。
② チャイムで終える ― 時間を守る姿勢を背中で示す
教師であれば、チャイムが鳴った後も「ここまでやってしまいたい」と思う場面に誰でも出くわします。それでも、あえてそこで切り上げ、必ずチャイムで授業を終わらせることを大切にしています。子どもたちも「まだ遊びたい」という気持ちを抱えながら、休み時間を切り上げて授業に向かっています。その姿を求める以上、まず教師である私が、時間を守る姿勢を行動で示し、子どもたちの時間を尊重する姿を、日々の授業で積み重ねていくことを心がけています。
③ 宿題忘れですぐ叱らない ― 約束を守るための練習
宿題は、勉強そのもの以上に「約束を守る練習」だと伝えています。忘れてしまったこと自体を強く責めることはしません。その代わり、「忘れたときは正直に伝えること」と指導しています。叱るのは、嘘をついたとき、隠そうとしたとき、そして約束を繰り返し守れなかったときだけだと、はっきり示しています。宿題を通して、失敗しても立て直せること、約束を守ることの意味を学んでほしいと考えています。
④ 必要だと思えるまで待つ ― やりたいは、そこから生まれる
何においても教師が先回りして決めるのではなく、子どもたちの中から「決めたい」「話し合いたい」という必要感が生まれるまで待つことを大切にしています。その象徴が、学級目標です。今の私は、学級目標について、あえて触れません。以前は、4月の早い段階で「学級目標を決めよう」と提案していました。あらかじめ用意した模造紙や枠に言葉を書かせ、見た目は整います。しかし、そこにはどこか「やらされている感」が残っていました。現在は、教師の側から学級目標の話題を出さず、子どもたちの中から「先生、学級目標は決めないんですか?」という声が上がるまで待ちます。学期の途中で、その一言が出ることがあります。その瞬間に初めて、「必要だと思う人はいる?」「話し合ってみたい?」とクラス全体に投げかけます。その結果、1学期の終わりにようやく決まることもあれば、最後まで作らないまま年度を終えることもあります。しかし、それでよいと考えています。学級目標は、教師が与えるものではなく、日々の生活の中で、「やっぱり必要だ」と子どもたち自身が気づいたときにこそ意味をもちます。係活動も同様に、こちらからは提案せず、子どもから声が上がったときに初めて動き出します。必要かどうかを決めるのは子どもであり、教師の役割は、その判断が生まれる瞬間を信じて待ち、話し合いを支えることだと考えています。
学級開きにあたって、以上4つの姿勢を軸にクラスづくりをしています。学級は一気に完成するものではなく、日々の積み重ねの中で、少しずつ育っていくものです。だからこそ、毎日の関わりの中で、この4つを繰り返し大切にしています。
事例1:【学級目標】子どもたちの「こうしたらどうかな?」から生まれた学級目標看板
子どもたちから、「学級目標をみんなで作りたい」「紙に書くだけじゃなくて、廊下を通るたびに意識できるよう、看板にしたらどうかな」という声が上がりました。私はそのアイデアを受け、実現しやすい形に整理する役に回りました。話し合った結果、4人1組の計8グループで、オリジナルの学級目標看板を制作することになりました。完成した看板は写真①のように、1か月ごとに順番に掲示しました。「全員が目標づくりに関わる」という思いが、看板という形になり、廊下を通るたびに学級目標を思い出す仕掛けが生まれました。
学級目標を「自分たちで発案し、形にした」というこの経験は、その後の学級づくりの土台になっていきました。学級開きの段階から自分たちの「やってみたい」が尊重され、挑戦が形になる経験を重ねることで、後の英語や社会科の授業においても「やってみたい」という声が自然に生まれ、さらには子ども発案の「紙飛行機大会」へと広がっていきました。
事例2:【外国語活動】海外5カ国との手紙交換で英語が「教科」から「ツール」に変わる瞬間
●海外5か国との手紙交換で生まれた主体的学び
これまでの外国語の授業では、表現を練習することはあっても、「いつ、誰に使うのか」を実感できる場面は少なく、英語が「授業の中だけの言葉」になりがちでした。そこで、「もし海外の小学生と直接つながれるとしたら、英語を使ってみたいと思う?」と問いかけました。すると、「それなら使ってみたい」「自分の好きなことが伝わるか試してみたい」という声が上がり、英語を使うことへの必要感が、子どもたちの中に生まれました。そこで初めて、世界5か国(オーストラリア、ベラルーシ、台湾、スロベニア、ロシア)の小学生と、英語で手紙(カード)を交換する活動へと進めました。子どもたちは既習表現を生かし、自分の好きなことや日本の特徴を伝えるカードを作成しました。どうすれば相手に伝わるかを考え、言葉やイラストを工夫する姿が見られたのは、「やらされている活動」ではなく、「届けたい相手」がいたからです。返事が届いたとき、子どもたちは「自分の英語が誰かに届いた」ということを実感し、英語を「学ぶもの」から「使うもの」へと捉え直すきっかけとなりました。(写真②-1、2)
本校児童のカード
海外児童のカード
事例3:【社会科】子どもの「もっと知りたい!」から始まったものづくり体験で知識を「自分事」に
●子どもの「やってみたい」から始まったものづくり体験
社会科の学習においても、教師が活動内容を先に決めるのではなく、子どもたちの中に生まれる「知りたい!」という思いを起点に学びを進めています。森林資源や昔の人々の生活など、社会科の内容は、教科書だけでは実感を伴いにくく、どこか遠い世界の出来事として捉えられがちです。そこで、子ども達に 「森林資源を守るために自分たちにできることはなんだろう」「昔の人の気持ちを理解するためにはどうしたらいいだろう」と問いかけました。すると、「教科書で見るだけでは分からないから、実際に手にしてみたい」「作ってみたい」という声が上がり、ものづくりを通した学習へと進みました。5年生では、「わたしたちの生活と森林」の学習をもとに、廃材を活用したコースターづくりに取り組みました。(写真③-1)「工夫すれば、捨てられるはずの木が宝物になる」といった気づきが生まれ、森林資源の価値に対して実感を伴って捉え直す姿が見られました。
廃材を再利用してコースターを作ろう!
学級開きから積み上げる学級掲示
●安心できるクラスをつくる工夫
学級掲示は、教室をきれいに整えるためのものではなく、子ども一人一人の頑張りや思考の跡を認め、学びのプロセスを共有するための「対話の場」だと考えています。完成した作品だけが並ぶ掲示では、「できた・できない」が前面に出やすいですが、私は結果よりも、試行錯誤の過程や、その子なりの工夫に光が当たる掲示を意識しています。そうすることで、教室は「比べられる場所」ではなく、自分の頑張りを肯定してもらえる 「居場所」になっていきます。掲示は、学期が始まる4月の早い段階から、少しずつ作っていきます。 「頑張ろうとしている姿」や「考え始めた跡」を拾い上げていくことで、子どもたちは早い段階で「このクラスは、安心できそうだな」と感じ始めます。私のクラスは、教室の窓側には社会科と体育、廊下側には自主学習ノート、後方には子ども一人一人の各教科における作品などというように、様々な掲示に囲まれています。その一つ一つが子どもの頑張りの軌跡であり、居場所です。また、掲示は保護者にとっても、我が子の成長を実感できる大切な手がかりとなります。保護者がふらっと教室に足を運んだとき、我が子の掲示を見つけて日々の成長を感じることができます。このように学級掲示は、一人一人の居場所を生み出し、クラスの学びを繋ぎ、保護者とその成長を共有する、学級づくりの土台であると考えています。
事例1:自主学習ノートの紹介
①結果より「プロセス」を価値付ける
ただ漢字を練習するだけでなく、覚えにくい字をパーツに分けて色を塗るなど、自分なりの工夫が見られたノートを紹介しています。この掲示で、 「きれいに書けたか」だけが正解ではない、というメッセージを伝えたいと思っています。
②静かな頑張りを可視化する
発表は得意でなくても、家庭で問いを立て、黙々と調べ続ける子がいます。そんな姿を掲示で取り上げることで、クラス全員がその子の良さに気づくきっかけをつくっています。
③ 教師の「見る視点」を保護者と共有
「〇〇さんの、このまとめ方の工夫がすごい」といった教師のコメントを添えて掲示しています。そうすることで、保護者が「先生がどこを見ているのか」を知る手がかりになります。
保護者の声
「先生が一人一人の頑張りを受け止め、理解しようとしてくれていることが伝わりました。」
4月の早い段階から子供の居場所を作っていく。
事例2:学びのロードマップ(体育・社会)
学びのロードマップとは、子どもたちの気付きを全時間分つなぎ、学びの軌跡が見えるように工夫した掲示です。自分の発言が掲示として残ることで、教室の中に「自分の考えが大切にされる場所」が生まれます。
① 体育・跳び箱運動の「コツの共有」(写真⑥-1)
跳び箱運動で子どもたちが気づいたコツを、オクリンクプラスにまとめ、掲示しています。そうすることで、自分の気づきが友達の助けになり、友達の気づきが自分の力になっていきます。こうして学び合うことで、クラス全体の技の完成度が高まっていきます。
② 社会科・調べ学習の「軌跡」を見せる(写真⑥-2)
単元のはじめに書いた「疑問」が、学習を通してどのように「解決」されたのか。矢印や図で整理して掲示することで、思考の深まりが一目で分かるようにしています。クラス全体で一つの疑問に向き合い、解決まで辿り着いた達成感を共有するとともに、一人一人がその学びの一部を担っていることを実感できるようにしています
4月から始めていくことで、思考の深まりが見える。
保護者の声
「4月の年度初めと比べると、子供達はこんなに深く考えられるようになったんですね」
学級開きの段階から大切にした、子どもの思いを保護者と共有する関わり
① 担任がきっかけをつくり、子どもが形にするロゴ制作(写真⑦)
学級づくりを進めるうえで、保護者との協働は欠かせません。その第一歩として、4月の保護者会では、教室に入って自席についたとき、最初に目に入る仕掛けを用意しました。それが、子ども一人一人の1年間の目標を込めたロゴです。このロゴは、「この1年間で頑張りたいこと」を、子ども自身が言葉や形で表したものです。制作のきっかけは担任である私から提案しましたが、活動が進むにつれて、「ロゴがあれば、自分の頑張りたいことを伝えられる」「自分の思いが形になるのがいい」といった声が子どもたちから聞かれました。そこで、完成したロゴを、保護者会で紹介し、子どもたちの思いを共有する場としました。
4月の保護者会にて保護者にも共有。
② 「子どもの頑張り」が一目でわかるオリジナル個人面談シート(写真⑧)
1学期の個人面談は、4月からの子どもの頑張りを振り返り、成長を保護者と共有する大切な機会です。その共有をより具体的で分かりやすいものにしているのが、「オリジナル個人面談シート」です。日々の学習や努力の様子を、オクリンクプラスを活用してカードにまとめ、画像や動画とともに提示できるようにしています。画像や動画を手掛かりに説明することで、家庭では見えにくい学校での様子も、より具体的に伝えることができます。また、面談の最後には、保護者から子どもへの応援メッセージを聞き取り、その場で入力します。後日、そのメッセージを子どもに渡すことで、 「自分のがんばりを見てもらえている」「応援されている」という実感につなげています。 (※オリジナル個人面談シートは改訂を重ねています。写真は改訂後の2学期のものです。)
オリジナル個人面談シートで紹介。
おわりに
●学級開きは「完成」ではなく「スタート」
今回ご紹介したように、あえて未完成のままスタートした学級を、1年かけてみんなで育てていく。その過程こそが子どもの主体性を引き出すことにつながっていると感じています。それが、学級開きに悩み続けた私がたどり着いた一つの答えです。これからも子どもたちの「やってみたい!」という想いを大切にしながら、その一歩をそっと後押しできるような教師でありたいと思います。