小学校1年生算数
「くり上がりのあるたし算」を暗記させない!
給食を忘れて考える、「10さがし」の授業実践
合言葉は「10をつくりたい」。バスの問題「9+□+7」から
授業づくり
執筆/慶應義塾横浜初等部 前田 健太 先生
1年生の算数「くり上がりのあるたし算」でつまずかせないために
「1年生でつまずくと、あとの学年で苦労する」。その思いが強すぎるあまり、最初は楽しかったはずの算数の時間が、反復練習ばかりで嫌になってしまう。そんな現状があるのではないでしょうか。私は、スタートの1年生だからこそ、計算の中にも「楽しい!」と感じるしかけを用意したいと考えています。
くり上がりのあるたし算も同じです。「9+7=16」と丸暗記させるのではなく、「9はあと1で10。だから7を1と6に分けて、9と1で10、その10と6で16」。これまでに学んだことを、子ども自身が働かせられること。それが本当の「わかった」だと思うのです。結果は同じ「16」でも、仕組みをわかって覚えているのか、ただ暗記しているだけなのかで、その先の思考力には大きな差が生まれます。この記事では、私が実際の教室で行った授業を、板書とともに紹介します。合言葉は「10をつくりたい」です。
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17ばんめのひみつ_ワークシート
合言葉は「10をつくりたい」。
バスの問題から始まる探究
ある日、私はこんな問題を出しました。「バスに子どもが9人乗っています。次のバス停で□人乗ってきました。さらに次のバス停で、7人乗ってきました。バスに乗っているのは何人ですか」。
すぐに「□がわからないと解けない」という声が上がります。そこで「□を使って式を立てられる?」と聞くと、Aさんが「9+□+7」と発表してくれました。それを聞いたBさんは「3だんかい!」と、これまでと違って3つの数の計算になっていることに気づきます。
ここで私は、問い方を変えました。「何人乗ってきてくれるとうれしい? つまり、□が何になったら計算がうれしい?」。ノートを見て回ると、答えは「8」と「1」に分かれていました。
まずは「8」から。「9+8+7」です。理由を聞くと、「9・8・7と順に並んでいてきれい」だから。これは私も予想外でしたが、子どもなりの立派な論理です。どうしようかと思っていると、Cさんが「でも、計算はムズい」とつぶやいてくれました。その声を拾い、「並びはきれいだけど、計算は大変」だということがクラスで共有されます。ならば、どんな数が入れば計算が簡単になるのか。ここから探究が動きだしました。
教師がわざと「間違える」ことで、子どもが理由を語りだす
前でも、後ろでも、分けてでも、10はつくれる
次に「1」です。「9+1+7」。「9+1で、10がピッタリできるから!」と、そのよさが語られます。多くの子が賛同するなか、私はわざと揺さぶってみました。「1より小さい0の方が、計算は簡単じゃない?5+0みたいに、0はいつも簡単だったよね?」。すると子どもたちは「だめだめ!」「1の方がいいの!」と本気で反論してきます。教師があえて“間違った側”に立つと、子どもは理由を説明したくてたまらなくなるのです。
すると、次々と新しい数が出てきます。Dさんは「もう1つあるよ」と「9+3+7」。私が「9+3だと10にならないからだめでしょ?(笑)」と投げかけると、「後ろが10になるんだよ」。そう、3+7で後ろに10ができるのです。10は前でつくっても、後ろでつくってもいい。さらにEさんが「9+4+7」を出しました。「4だと、9+4も4+7も10にならないから大変でしょ?」と私が言うと、Fさんが「4を1と3に分けて、9と1で10、残りの7と3でもう一つ10ができる」と説明します。矢印を書きながら式に書き加えると、両側に10が二つ。数を“分ければ”、10はつくり出せるのです。板書には、いくつもの「10のつくり方」が並びました。


▲ 9月9日の板書。
「□がわからない」から始まり、10をつくりたい!」の声とともに探究が広がった


▲ □を変えるだけで、10のつくり方が3つ。「どう見れば楽になるか」を子どもが選び始める
給食時間も惜しんで
「もっと考えたい」があふれる
最後に少し時間が残ったので、「9+5+7」を扱いました。今度は一見、どこにも10が見えません。それでも子どもたちは「7を1と6に分けて、9と1で10」と挑みますが、余った数が残ったところで時間切れになりました。
ところが、次の時間が給食だったにもかかわらず、数人の子がホワイトボードの前に集まってきたのです。「余った数を、さらに分ければ解決できる」。自主学習では、真ん中の数を分けるやり方でいくつも問題を解いてくる子もいました。ノートには、言葉での説明まで丁寧に書かれていました。「もっと考えたい」という気持ちが、授業の後にもあふれていたのです。


▲ 左:給食前、ホワイトボードで「9+5+7」の続きを考える子どもたち
右:言葉の説明まで書かれた自主学習ノート
10のつくり方は一つじゃない。「みぎぶんかい」と「ひだりぶんかい」
週明けの算数で、私は「□=0」を示しました。すると式は「9+7」。ここで子どもたちは「今までの考えが使える!」と気づきます。バスの問題で耕した「分けて、10をつくる」が、そのままくり上がりのたし算に生きるのです。
分け方には、名前がつきました。右の数を分ける「みぎぶんかい(右分解)」。手順は「①10をつくるには、9とあと1。②7を1と6に分ける。③9と1で10。④10と6で16」。一方、左の数を分けるやり方は「ひだりぶんかい(左分解)」と命名しました。こちらは「①10をつくるには、7とあと3。②9を6と3に分ける。③3と7で10。④10と6で16」となります。板書の下にはブロックを並べ、10のまとまりが本当にできることを、目で確かめました。さらに「7+6」では、7を5と2に、6を5と1に分けて「5と5で10」をつくる、両方の数を分けるやり方まで登場しました。


▲ 9月12日の板書。「今までの考えが使える→ぶんかい→10をつくる」。
みぎぶんかい・ひだりぶんかいをブロックでも確かめた


▲ くり上がりは暗記ではない。「10をつくるには、あといくつ?」から始まる4つのステップ
大切なのは、どれか一つが正解なのではなく、場面によって使い分けることです。これは、のちのひき算でも同じでした。「12−3」では、3を分けてばらから引く子が多く、「12−8」では、まず10から引く子が多い。引く数が小さいときと大きいときで、やりやすい方法が変わるのです。「今回はどっちのやり方を使いたい?」と問い返すことで、子どもは自分で方法を選ぶようになります。くり上がりに入る頃、子どもたちの反応は「もう簡単!」でした。
ドリルの代わりに「17番目の秘密」で計算練習をゲームに変える
習熟の場面になると、与えられた数十問のプリントをひたすら解くだけになりがちです。私は、ドリルのような計算練習をさせるのではなく、計算練習の中に「楽しい!」のしかけを入れます。子どもがゲームのように夢中になれる計算練習、それが「17番目の秘密」です。
ノートに①〜⑰と縦に番号を書き、①には好きな1けたの数、②は全員「1」。③からは「上二つの数の和」を書いていきます(2けたになったら一の位だけ)。子どもたちは「いつもと何か違う」と感じながら、黙々とたし算を続けます。この間に、一人ひとりは何十回ものたし算を自然にこなしています。
①に好きな1けたの数を書く。
②は共通で「1」と書く。
③は①+②の和、④は②+③の和…というように、上二つの和を⑰まで書いていく。
(ただし、2けたになったら一の位のみを書く。)

▲ ①にどの数を入れても、⑰は必ず「7」になる
計算が終わった頃、一人の子に⑰の数を聞くと「7」。「①は何にした?」と聞くと「6」。「①が6の人は、⑰が7になったんだね」と確認すると、教室は「え?」「6じゃないけど同じだ!」「7でも同じだった!」と大騒ぎ。実は①に0〜9のどれを入れても、⑰は必ず「7」になるのです。たとえば①が6の列では、③の「7」と④の「8」をたすと「15」。2けたになるので、一の位の「5」だけを⑤に書きます。表の途中には、この「2けたになったら一の位だけ」があちこちに隠れています。ただの計算練習が、宝さがしに変わる瞬間です。
そして、授業の終わりに「次は何をしてみたい?」と問うのを、私は習慣にしています。すると「②を2にしたい!」「⑰より下もやってみたい!」と、1年生なりのすばらしい意見が出てきます。実際に「②を2」でやってみると、今度は最後が全部「4」にそろいました。さらに「②を3にしてみたい!」という声が続き、今度は全部「1」。何度変えても、最後はそろうのです。こうした意見を聞いて授業を終えると、自主学習として取り組む子が現れます。「0のばあい」「1のばあい」…と、②を0から9まで全部変えて調べ尽くしてきた子もいました。それを価値づけていくことが、授業だけで終わらない追究心を育てていきます。


▲ 「17番目の秘密」の授業の板書。「②を3にしてみたい!」の声がそのまま次の実験に。
①がバラバラでも、最後はそろい続ける

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▲ ②を0から9まで全部変えて調べ尽くした自主学習。
②=0なら最後は全部0、②=1なら全部7
まとめ:子どもの「問い」を大切にすれば、算数はもっと楽しくなる
私は、子どもの「?(ハテナ)」を『問い』と呼んで大切にしています。問いを持った子は主体的に動き、その目は、やらされている姿とはまるで違ってキラキラしています。そして問いは、勉強の中だけでなく、遊びを含めた日常のいたるところにあります。大人がその問いを「意味がある・ない」と選別してつぶしてしまわないこと。これがとても大切だと思っています。
授業で見つけたことを板書に残し、「もう一度やるならどんな問題にする?」と投げかけておくと、家で続きに取り組む子が増えます。1年生でも、コツコツ続けることで自主学習は習慣になっていきます。「100日続けて、やっと習慣になる」と子どもたちに伝えながら、地道に価値づけを続けていくと、夏休み明けには一人あたり何冊ものノートが積み上がっていました。
おわりに:「10をつくりたい」を、心の中に
くり上がりのあるたし算は、確かに1年生の大きな山場です。けれど目指すのは、速く正確に計算できることだけではありません。式を見た瞬間に、頭の中でひとりでに「あ、9はあと1で10だ」と動きだす。そんな数を見る目が育てば、この先の学習はぐっと楽になります。完璧を急ぐ必要はありません。まずは、教室に「10をつくりたい」という声が生まれること。明日の授業で、まずは一つだけ。「どうやって計算したの?」と、子どもに聞き返してみてください。きっと、すてきな言葉が返ってきます。
先生のプロフィール
前田 健太 先生
慶應義塾横浜初等部教諭。長崎県出身。京都ノートルダム学院小学校、国立学園小学校を経て、現職。学校図書教科書「みんなと学ぶ小学校算数」編集委員や全国算数授業研究会幹事を務める。「できる」ことを過度に重視する教育に疑問を感じ、あえて子どもたちを困らせて「?(ハテナ)」を生み出す授業の必要性を提唱。日々の授業実践や算数ネタをSNSで発信し、Xのフォロワーは2万人超。授業実践「牛乳パックは本当に1L入っているのか?」は、メディアで紹介され大きな話題に。単著『しかける!算数授業』(明治図書)、『絶対解きたくなる!考えるのが楽しくてとまらない算数』(KADOKAWA)、『算数 おもしろ問題で愉しい!授業づくり』(東洋館出版)を出版。ほか共著や雑誌寄稿多数。
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