小学校の水泳指導を科学的リスク管理でアップデート‼︎
〜これからの水泳授業の熱中症対策と安全管理〜
授業づくり
執筆/埼玉県戸田市立戸田第一小学校 教諭 佐藤 陽介先生
いよいよ水泳指導の季節がやってきますね。水泳は、子どもたちが「水の事故から自分の命を守る術」を学ぶための、非常に大切な授業です。水に顔をつけられなかった子が泳げるようになった時の輝く笑顔は、私たち教員にとっても大きな喜びです。
しかし近年、記録的な猛暑によって水泳の環境は激変しています。「プールに入れば涼しいから大丈夫」という過去の常識は、気温35℃を超える現代の夏においては、命を脅かしかねない危険な思い込みに変わってしまいました。
大切な子どもたちの命と笑顔を守るため、そして私たち教員自身が安心して指導にあたるために、科学的データに基づいた熱中症対策と安全管理の共有・実践について紹介させていただきます。
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知っておきたい!水泳授業中の「見えないトラップ」
実は、水泳授業中の熱中症は、プールサイドで休んでいる時よりも「泳いでいる最中」や「プールから上がった直後」に多く起きています。「涼しい水の中にいるのに、どうして?」と疑問に思うこともあると思います。そこには、水の中ならではの4つの「見えないトラップ」が隠れています。
1. 汗が見えないトラップ(隠れ脱水)
水泳は全身を使うハードな運動です。子どもたちは水の中で、陸上で走っているのと同じくらい汗をかいています。でも、プールの水で常に洗い流されているため、泳いでいる本人も、見守る私たちも「汗をかいている」ことに全く気づけません。見えないところで、体の水分がどんどん減っているのです。
2. 脳の勘違い(のどが渇かない?)
水分が足りなくなると、体は「のどが渇いた!」とサインを出しますよね。でも水泳中は、口の周りが濡れているため、脳が「水分はたっぷりあるよ」と勘違いしてしまいます。また、体温の変化に気づきにくく、のどの渇きが自覚しにくいといわれています。そのため、本人が気づかないうちに水分不足が進行する可能性があります。体が限界でも、子どもたちから「お茶飲みたい!」という声が上がりにくいのは、このせいなのです。
3. 熱が逃げない(お風呂で運動状態?)
猛暑でプールの水温が33℃〜34℃(体温に近い温度)まで上がってしまうと、運動してつくられた体の熱が、水の中に逃げていきません。温かいお風呂に浸かりながら全力疾走しているようなもので、体の中にどんどん熱がこもってしまいます。
4. 頭への直射日光
体は水に入っていても、頭はいつも水面から出ていて、強い直射日光を浴び続けています。さらに水面からのキラキラした照り返しもあって、水泳中の子どもたちの頭は、上からも下からも熱を受ける状態でいるのです。
明日から意識できる水泳指導の「4つの安全ルール」
こうした見えない危険から子どもたちを守るためには、「今日は暑いから気をつけよう」といった曖昧な声かけではなく、具体的な数値に基づいたルール作成が欠かせません。
1. 暑さ指数(WBGT)の厳格な運用
環境省の暑さ指数(WBGT)計を必ず使い、「WBGT31℃以上は原則中止」という基準を守りましょう。
「あと15分で終わるから」という油断は大変危険です。測定時は大人の目の高さではなく、「子どもたちが実際にいるプールサイドの高さ(床から50cm程度)」で測るのが鉄則です。活動中も20〜30分おきにこまめに測定を続けてください。
2. 水温+気温の「65度の基準」
「水温+気温」が65℃を超える場合は、水温が高すぎて体温を下げる効果が期待できないため、水泳はお休みにするという安全指標があります。毎朝の点検時だけでなく、授業開始直前にも必ずチェックする習慣をつけましょう。
3. 毎日の安全管理と水質管理
授業開始前の日常点検を徹底します。
排水溝のチェック: 蓋がボルトで確実に固定されているか、吸い込み防止金具に異常がないかを確認します。また水泳学習の期間前には管理職とともに確実に異常がないかを確認します。
プール内の異物確認: 児童の怪我を防ぐため、底まで入念に目視点検を行います。
塩素濃度の調整: 授業ごとに測定し、適切な衛生状態を維持します。
4. 教職員の役割分担 チームプレイ
プールでの死角をなくし、安全管理のため3人以上での指導が望ましいです。
☆見守り専門係: プールサイド全体を見渡せる位置に立ち、授業内での死角をつくらないようにし、子どもたち全体を見守ります。水深が深くなる部分や水面が直射日光でギラギラ反射する箇所は特に注意が必要です。
☆健康管理: もしもの時に備えて、常時水中で指導を行います。顔色が赤い子や、動きがゆっくりの子、おぼれている子がいないかを瞬時に見極め、いち早く休ませたり、すぐに対応したりするサポート役です。
役割が目に見えると、先生同士の連携もすごくスムーズになります。最近ではビブスの色で役割を明確にしている学校も増えてきているようです。
水泳指導の実践事例
実践事例① プールサイドでの「待ち時間」を極力少なく!
こうした見えない危険から子どもたちを守るためには、「今日は暑いから気をつけよう」といった曖昧な声かけではなく、具体的な数値に基づいたルール作成が欠かせません。
真夏のプールサイドの床は、火傷の危険があるくらいに熱くなる場合があります。そこで、気温に応じて、授業のめあての確認や準備体操は、涼しい冷房の効いた教室等で済ませておくと、プールに着いたらシャワーを浴び、すぐに入水できます。暑さ対策で、移動の時はビーチサンダルを履かせると、足の裏のやけども防ぐことにつながります。
また泳力別での活動時にいきなり長い距離(50mなど)を泳がせると、息継ぎの失敗などで予期せぬ体力の消耗(パニックによる過呼吸など)を招き、水中熱中症のリスクが上がります。「12.5mを美しいフォームで泳ぐ」ことを短いインターバルで繰り返すほうが、安全かつ効果的です。慣れの運動などでも、待機時間が少なくなるように1つのグループが折り返したら、次のグループが入水するなどのローテーションやドリルの内容を工夫したりして、体力の消耗を防ぐことも熱中症対策では効果的です。
実践事例② 強制的な水分補給
「のどが渇いた人?」と聞くのではなく、10分〜15分おきに全員をプールから上げ、強制的に水分補給をする時間を組み込みます。冷えすぎない温度(5〜15℃)のお茶や水をしっかり飲ませて、体の内側から物理的に体温を下げることが最も確実な予防法です。喉の渇きを感じにくい水泳学習だからこそ、教師が意図的に水分補給をさせることが必要です。
実践事例③ 暑さ指数のデジタル管理と情報共有の迅速化
校庭やプールにWBGTセンサーを設置し、校内の共有システムを活用し、各教員のタブレットでリアルタイムに数値を確認できるシステムを本校では導入しています(本校の場合はGoogleサイトを活用)。数値をクラウド上の校内ポータルサイトで全校共有することで、管理職や体育主任の指示を待つことなく、担任が「今の時間はWBGTが32℃を超えたので水泳は中止し、教室での授業に切り替える」と、各クラスで迅速かつ客観的な判断を下すことができます。
実践事例④ 学校と家庭との連携
水泳の熱中症予防は、学校内だけでは完結しません。「前夜に十分な睡眠をとれているか」「朝食をしっかり食べてきたか」といった、ご家庭での体調管理が水中の安全に直結します。「少し疲れているけれどプールに入りたがるから」と悩む保護者の方には、学校からのお便りや懇談会を通じて「体調が万全でない日の水泳はリスクが高いこと」を丁寧に伝え、休ませる勇気を共有していることが大切です。
終わりに~子どもたちの命と教員自身の身を守るために~
水泳学習中に万が一熱中症などの重大な事故が発生した場合、学校や教員には厳しい「安全配慮義務違反」が問われることになります。
教職員は、スポーツ庁などが発表する最新の安全ガイドラインを毎年必ず読み込み、アップデートされた知識を教員間で共有することが、子どもたちの命と教員自身の身を守ることに直結します。気候が変わっていくなかで、命を守るための水泳学習の形も少しずつアップデートしていく必要があります。「こうしなきゃいけない」と重く捉えすぎず、新しいルールやICTツールを味方につけながら、管理職指導のもと、チームや学校全体で助け合い、子どもたちと一緒に安全でワクワクする学びをつくっていきましょう!
※掲載しているイラストはイメージです。
先生のプロフィール
佐藤 陽介先生