【小学校6年理科】「水溶液の性質」授業実践!
子どもの「調べたい」を引き出す
教材研究と単元デザイン
執筆/京都府京都市公立小学校教諭 大﨑 雄平先生
毎年やってくる「水溶液の性質」、準備だけで終わっていませんか?
6年生理科「水溶液の性質」は、多くの先生が「準備が大変な単元」という印象をもっているのではないでしょうか。塩酸やアンモニア水などの薬品を扱うため、安全面への配慮が欠かせません。また、蒸発乾固やリトマス試験紙など、実験の種類も多く、教師が説明する時間が長くなりやすい単元でもあります。
しかし、この単元で本当に大切なのは、薬品や器具を準備することではありません。
「どうやって見分ければよいのだろう」
という問いを、子どもたち自身がもてる教材を用意することです。
教材を少し工夫するだけで、教師が説明する授業から、子どもたちが自ら課題を見付け、解決方法を考える授業へと変わります。今回は私が毎年実践している教材づくりの工夫を紹介します。
子どもの「調べたい!」を引き出す教材づくりの工夫と導入アイデア
教科書では、水溶液には最初から「食塩水」「塩酸」などの名前が書かれています。もちろん、そのまま授業を進めても学習は成立します。しかし私は、最初から物質名は示しません。試験管にはA・B・C・D・Eとだけラベルを貼ります。

中身は、
- 食塩水
- 塩酸
- アンモニア水
- 重曹水
- 炭酸水
の5種類です。そして、子どもたちへ問いかけます。
「この5種類、どうやったら見分けられるだろう」
子どもたちは試験管をじっと見つめながら、
「炭酸水は泡があるから分かりそう」
「全部透明だから見ただけでは分からない」
と話し始めます。
ここで私は、「見た目だけでは分からないなら、他にどんな方法があるかな」と問い返します。すると、「においをかいでみたい」という声が出てきます。
もちろん、このときに試験管へ顔を近付けて直接においをかぐことはしません。私はまず、手であおいで少しずつにおいを確かめる方法を演示します。薬品を扱う際の基本的な観察技能を、この場面で身に付けさせたいからです。
子どもたちも同じように観察すると、
「何かにおいがするものがある」
「ツーンとする」
という声が聞こえてきます。
ここでは、「それはアンモニア水だよ」とはまだ教えません。
大切なのは、見た目だけでは区別できないこと、そしてにおいも水溶液を見分けるための一つの手掛かりになることに気付かせることです。
単元の導入は、知識を教える時間ではありません。子どもたちが「もっと調べたい」と思うとともに、安全に観察する技能を身に付ける時間でもあるのです。
「リトマス試験紙を使います」ではなく、「使いたい」を引き出す
教材選びにも一つ工夫があります。教科書では石灰水を扱うこともありますが、私は重曹水を用いることがあります。理由は、「リトマス試験紙を使う必然性」を生み出したいからです。例えば石灰水であれば、二酸化炭素を吹き込むことで白く濁ります。その実験だけで石灰水と判断できるため、「他に調べる方法はないかな」という問いが生まれにくくなります。一方、食塩水と重曹水は、児童が観察できる範囲ではどちらも無色透明です。見た目だけでは区別できません。
だからこそ子どもたちは、
「見た目では分からない」
「においでも区別できない」
「他の方法はないかな」
と考え始めます。
そこで、教師が「今日はこんなもの(リトマス試験紙)を使ってみましょう」と提示します。
子どもたち自身が「リトマス試験紙を使ってみたい」と思える段階を準備すること。私は、この「必然性」を大切にしています。
「一つの実験」で結論を出さない
6年生では、「より妥当な考えをつくりだす力」を育てることが求められています。そのため私は、子どもたちに、「その実験だけで本当に決めていいのかな」と、よく問い返します。
例えば、「リトマス試験紙が赤くなったから塩酸だ」という子どもがいたとします。しかし、炭酸水も酸性です。つまり、リトマス試験紙だけでは区別できません。
そこで、
「蒸発させるとどうなるかな」
「金属との反応はどうだったかな」
「さっきのにおいはどうだったかな」
と、複数の実験結果を結び付けて考えさせます。
理科では、一つの証拠だけで結論を出すことはできません。複数の根拠を基に考え、より確かな結論へ近付けていくことが大切です。私は、この単元で本当に育てたいのは、水溶液の名前を覚えることではありません。一つの結果だけで判断せず、複数の証拠を基に「より妥当な考え」をつくる力です。その姿勢は、この単元だけでなく、その後の理科学習全体を支える大切な力になると考えています。
授業の質を劇的に高める!「失敗しない」教材研究のプロのテクニック
教材研究では、小さな工夫が授業の質を大きく左右します。以下に、いくつか実例をご紹介します。
●食塩水の作り方
家庭用の食塩ではなく、試薬の塩化ナトリウムと精製水でつくっています。家庭用の食塩にはミネラルが含まれていたり、水道水も地域によって液性が異なったりする場合があるためです。
●炭酸水の確認
商品によっては蒸発後に白い跡が残るものがあります。授業前に一度確かめておくと安心です。
●スチールウールの前処理
使う際は、中性洗剤でよく洗ってから使用しています。市販のスチールウールは純粋な鉄とは言えず、そのまま塩酸と反応させると、硫黄のようなにおいが発生することがあります。子どもたちが、「塩酸と鉄が反応すると臭いにおいがするんだ。」と誤解しないよう、事前に洗浄し、十分に乾燥させてから使用しています。
教科書には載っていないこうした工夫も、教材研究の大切な一部です。子どもたちが安心して探究に向かえる授業は、教師の丁寧な教材研究によって支えられているのです。
「先生が教える授業」から「子どもが選ぶ授業」へ
実験が始まると、つい教師は、「まずリトマス試験紙で調べましょう」「次は蒸発させましょう」と、一つひとつ指示を出したくなります。もちろん、実験方法を知ることは大切です。しかし、それだけでは子どもたちは「手順をこなす」ことが目的になってしまいます。
私はできるだけ、「どの方法を使えば見分けられるかな」という問いを返すようにしています。
リトマス試験紙を使うのか。蒸発乾固をするのか。金属との反応を見るのか。それぞれの方法には、どんなよさがあるのか。
子どもたち自身が考え、選択することで、実験は「先生から与えられた活動」ではなく、「自分たちで解決するための手段」へと変わっていきます。
単元全体のゴールを「未知の水溶液の見分け」に設定する
私は単元の最初に、A・B・C・D・Eとラベルを貼った水溶液を提示します。そして、単元の最後にも、再び「名前の分からない水溶液」を子どもたちに提示します。この活動が、単元全体のゴールになります。
「最初は何も分からなかった」
「でも今なら、自分たちで調べられる」
そんな実感をもたせたいからです。
ここでは、教師はできるだけ説明をしません。
「何から調べる?」
「どの順番で実験する?」
「その結果だけで本当に判断できる?」
必要なのは、この程度の問い返しです。すると子どもたちは、
「まずリトマス試験紙で酸性・中性・アルカリ性に分けよう」
「中性なら食塩水の可能性がある」
「でも重曹水ではないことを確かめるには、他の実験も必要だね」
など、これまで学んだことを総動員しながら話し合いを始めます。
教師が解き方を教える必要はありません。単元の中で身に付けた見方・考え方を使い、自分たちで解決することが、この活動の価値なのです。
友達との対話を生む「問い返し」の言葉かけ
未知の水溶液を調べる活動では、一つの班の中でも意見が分かれることがあります。
「もう塩酸で決まりじゃない?」
「でも、まだ蒸発乾固をしていないよ」
「他にも確かめられることがあるんじゃない?」
このやり取りこそが、理科の学びだと思っています。
一人で考えるだけでは、自分の考えが正しいと思い込みがちです。しかし、友達と結果を比べたり、異なる考えを聞いたりすることで、「確かに、その実験だけでは正しいとは言えないかもしれない」
と考え直すことができます。
理科で育てたい「より妥当な考え」とは、正解を早く見つけることではありません。複数の証拠を基に、より納得できる結論へ近付けていく姿勢です。だから私は、結果だけでなく、「なぜそう考えたのか」を班の中で説明する時間も大切にしています。
教師は「教える人」から
「見取る人」へ
この活動になると、教師の役割は大きく変わります。それまでのように説明を続ける必要はありません。むしろ、子どもたちの様子をじっくり観察する時間になります。
例えば、
- ●手であおいで安全ににおいを確かめているか
- ●リトマス試験紙を正しく使えているか
- ●器具を安全に扱えているか
- ●結果を根拠に話し合っているか
- ●友達の考えを聞きながら判断しているか
普段は教師が説明に追われて見えにくい姿が、この時間にはよく見えてきます。
つまり、この活動は探究の時間であると同時に、子どもたちの技能や思考力、表現力、協働する姿を見取る絶好の機会でもあります。評価はテストだけではありません。子どもたちが問題を解決していく過程には、多くの学びが表れています。
子どもたちから「においをかいでみたい!」という言葉が出た瞬間こそ、安全な観察技能を指導する絶好のチャンスです。直接かぎに行こうとする姿を止め、教師が「手であおぎ寄せてにおいを確かめる方法」を演示します。子ども自身が「確かめたい」と思っているタイミングだからこそ、安全指導の価値がしっかりと定着します。
教材研究は、子どもの探究を支えるためにある
教材研究というと、「実験が成功するように準備すること」と思われるかもしれません。もちろん、それも大切です。しかし、私は教材研究の目的は、それだけではないと考えています。
どんな水溶液を選ぶのか。
どんな順番で提示するのか。
どこで教師が問い返すのか。
最後にどんな課題を用意するのか。
こうした一つひとつの工夫によって、子どもたちの問いは変わります。
「先生が教えてくれるから分かる」ではなく、
「自分たちで調べたから分かった」
そんな実感をもてる授業をつくることこそが、教材研究の価値ではないでしょうか。
おわりに
「水溶液の性質」は、薬品を扱うため、準備や安全管理に目が向きやすい単元です。しかし、その先には、子どもたちが理科の見方・考え方を働かせながら学ぶ大きなチャンスがあります。
単元の最初に「どうやって見分けよう」という問いをもち、実験を通して根拠を集め、最後には未知の水溶液を自分たちの力で見分ける。この一連の学びを通して子どもたちは、水溶液の性質だけでなく、「一つの証拠だけで判断せず、複数の根拠を基に、より妥当な考えをつくる」姿勢を身に付けていきます。
教材を少し工夫するだけで、授業は「実験をする時間」から、「探究する時間」へ変わります。ぜひ、先生方の授業でも、子どもたちが「調べたい」「確かめたい」と思える問いを大切にした単元づくりに挑戦してみてください。
先生のプロフィール
大﨑 雄平 先生
EDUBASE CREW、ミライシードDXエデュケーター、Canva認定教育アンバサダー、Microsoft認定教育イノベーター、ロイロ認定ティーチャー。SNSでは理科授業に役立つ情報を発信している(@mogurin_rika)。LINEオープンチャット【小学校理科の部屋】の管理人を務め、2026年6月現在、参加者は630名を越える。第7回全小理教材開発コンテスト ケニス賞、ウチダ教材開発コンテスト(2021)奨励賞を受賞。主な著書は『はじめての理科専科』『「困った!」をみんなで解決 理科のお悩み相談室』(共に東洋館出版社)