小学校算数で「非認知能力」を育てる!
効果的な「声かけ」と「振り返り」の実践ガイド
授業づくり
執筆/さいたま市立桜木小学校教諭 黒須 直之先生
日々の算数授業で、こんな悩みはありませんか?
- 子どもへの声かけがワンパターンになっている
- 振り返りが「楽しかった」「できた」で終わってしまう
- 非認知能力を育てたいが、具体的な方法が分からない
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小学校の算数授業で非認知能力はどう育つ?
●声かけや振り返りを「非認知能力」を育てる手段として捉えなおす
授業中の教員の声かけや子どもの振り返りは、「学習内容を定着させたり、教科の資質能力を育んだりするため」という意識で行われていることが多いのではないでしょうか。確かにそれはとても大切なことです。しかし、それらに意識が行き過ぎて、学校での授業を通して、子どもたちに育んでもらいたい非認知能力(自分と向き合い、高める力や他者と協調したり、協働したりする力)への意識が薄れてしまいがちです。
ぜひ、一度立ち止まって、教員の声かけや子どもの振り返りは「非認知能力も育むチャンスである」と捉えなおしてみてください。その意識をもって、指導にあたるようにすると、授業を重ねる毎に、子どもたちの様子はどんどん変わっていきます。
●算数で培った「非認知能力」は他教科の学習や学級経営にも生かせる
算数の授業では、実にたくさんの「非認知能力」を育むことができると思います。
例えば…
「できた!」、「わかった!」という自信
「もっとやってみたい!」、「これはどうなのだろう?」という向上心や意欲
「できるまでコツコツ取り組んでみよう!」という忍耐力
「失敗してしまったけれど、また次に頑張ろう!」という回復力
「自分はこれができるようになったぞ!」というメタ認知
「友達の考えはきっとこうだと思う!」という共感性
「話し合って考えてみた!」というコミュニケーション力
「力を合わせて、考えてみた」という協調性
といったことが挙げられるかと思います。
先述した例の中にあった子どもの言葉は、様々な教室の算数の授業で見られるのではないでしょうか。こうした「非認知能力」は、点数化されにくいため数値化してみることはなかなか難しいですが、それぞれの要素が相互に作用し合って、子ども自身を成長させるだけでなく、学習内容の理解や定着にも一役買ってくれることは、きっと想像に難くないと思います。
今回は、算数の授業を例にして書きましたが、他教科の学習場面でも似たような姿がみられるはずです。算数科で培った非認知能力は、他教科でも生かせますし、様々な教科で子どもの非認知能力を培うことはできます。
また、こうした非認知能力は、教科の学習に留まらず、学級経営においても生かせる部分があるのではないでしょうか。
【場面別】子どもの非認知能力を伸ばす算数授業の「声かけ」の具体例非認知能力を育む声かけのポイント
非認知能力も意識して指導するのは良さそうだけれど、実際にどのようなタイミングで、どのような声をかければ良いのだろうと思われる方もいると思います。そこで、授業中に、子どもに声かけを行う際のポイントをご紹介したいと思います。
以下の3つの視点で子どもの様子を見取り、声を掛けて価値付けていきます。
子どもの様子を見取る3つの視点
- 視点①自分を高めていること(自信、向上心、意欲など)
- 視点②自分と向き合っていること(回復力、忍耐力、メタ認知など)
- 視点③他者と関わること(共感性、コミュニケーション力、協調性など)
今回は、中山芳一氏の著書『教師のための「非認知能力」の育て方』(明治図書)で示されている分類を参考に、非認知能力を育む声かけの視点を整理しました。
これらの視点をもって、子どもの様子を見取り、その時々に応じた声かけでアプローチをすることで、少しずつですが、着実に子どもの非認知能力を育んでいくことができます。また、教員からの声かけをモデルとして、子どもたち同士の交流の変容への繋がりも期待できます。
●子どもの行動を価値づける具体的な声かけ事例
先ほどの声かけのポイントである3つの視点を踏まえ、自分で問題に取り組んでいる場面とクラスメイトと活動している場面での具体的な声かけとタイミングをご紹介します。
自分で活動している場面
まずは、子どもたちが自分の力で問題を解いたり、試行錯誤したりしている場面についてです。主に、授業の序盤でその日の課題について取り組んでいる時や授業の後半に適用問題に取り組んでいる時に、子どもたちの様子をよく見ながら、声かけをしていきます。そうした時間は授業の中に10分~15分程度はあるのではないでしょうか。一人の子に声をかけるのには、30秒とかかりませんから、時間を意識してみると一コマの授業でもかなりたくさんの子(全員もできなくはない!)にアプローチができると思います。
子どもに投げかけて、小さなやりとりをしながらステップアップしていくことが効果的であると考えられるため、全体的に「問いかけ」となるような声かけの具体例を多めにしてあります。これらの声かけは、個別にこっそり伝えたり、周りの人にも聞こえるように言ったりするなど、対象の子や学級の様子に合わせてアプローチをするとさらに効果的です。
クラスメイトと活動している場面
次は、クラスメイトと活動している場面についてです。授業の展開にもよりますが、ペアでの活動や少人数グループ(3人~5人)での活動や話し合いは、よく行われていると思います。そうした場面は、積極的に子どもたちに声を掛けることができる良いチャンスと捉えることができます。活動の種を蒔いたり、ファシリテーションを行ったりするという意識で、子どもたちの様子を見ながらアプローチをしていくと結果的に学習内容の定着や非認知能力の育成に繋がっていくと思います。
クラスメイトと活動している時も自分で活動している場面と同様に具体的な声かけは、投げかけが多くなっています。こちらは、「クラスメイトと話し合ったり、活動をしたりするきっかけ」とすることを主なねらいとしています。声の大きさを変えて、1つのグループに投げかけた声かけが他のグループにも共有されるようにしたり、グループ同士を交流させるようにグループをまたいで声をかけたりするなど、アプローチを工夫するとさらに効果的です。
ICTツールと生成AIを活用した「振り返りのアップデート」
●楽しかった!という振り返りの「はじめの一歩」を大切に
授業での学習内容や学び方を振り返る際、ただ「振り返って書いてみましょう」と伝えても、子どもたちはなかなか上手く振り返りをすることは難しいと考えられます。きっと経験が浅いと「楽しかった!」「~がわかった!」「がんばった!」という言葉が出てくるのではないでしょうか。これは、しばしば「あまり良くない」と言われることがありますが、個人的にはとても大切な一歩だと思います。
そうした振り返りのはじめの一歩は、種のようなものだからです。そこから次の一歩に繋げ、種を芽吹かせ、花を咲かせていくために、今回は、「振り返りの視点の共有」と、「ICTを活用した経験の積み重ねとアップデート」について、ご紹介したいと思います。
※算数に限らず、日々、様々な教科で振り返りを行っていると思いますので、きっと他教科等の振り返りでも活用できるはずです。
●振り返りをアップデートするための3つの視点:子どもの「変容」を見逃さないコツ
振り返りをする際、子どもたちには事前に、視点を共有しておくのが効果的です。なぜなら、ただ漠然と自身の活動を思い返すのではなく、視点を切り口に活動を振り返ることができるからです。そうすることで、つい感覚的には見落としてしまいがちなことや、小さな変化にも目を向けやすくなり、学習内容や非認知能力の育成に繋がります。
また、この視点は、教員が声をかける時のポイントとしていた3つの視点に重なる部分が多くあります。教員の声かけと子どもの振り返りの視点も共有していくことで、子ども同士で声をかけ合ったり、相互にフィードバックしたりできるようにする行動の変容をねらいとしています。
具体的な視点は以下の通りです。
具体的な視点の例を18個挙げてみました。これらの視点は一度にすべてを提示するのも良いですが、発達段階や授業内容に応じて、組み合わせを変えながら、共有していくと効果的だと思います。また、「上手くいかなかったこと」や「改善が必要なこと」といった視点を入れているのは、自分たちの現状を捉えるのに役立つだけでなく、「そういうことがあっても良いのだ」という心理的な安全性を高めるためです。最終的に「これから」に目を向けていくことを共通認識とし、こうした視点を交えながら振り返りを行っていくのが大切だと私は考えています。
今回、紹介したような視点は、繰り返し共有していくことで、少しずつ子どもの中に視点を定着させていくことができます。こうした学習内容と非認知能力の育成の両方を見据えた視点が定着していくと、算数の授業だけでなく、他教科の授業や日常を振り返る際にもその視点を働かせていけるようになるのではないでしょうか。
●ICTツールを用いた振り返りの蓄積と共有で学びを深めたり、広げたりする
授業の終末に、子どもが振り返りを記入する際は、ノートやワークシートなどを用いるのも良いですが、ICTツールを用いて、振り返りの蓄積と共有をしていくとより効果的です。ICTツールは、Excelやスプレッドシート、Canvaのホワイトボードといった汎用的なものでもOKですし、各校に導入されている授業支援システムを用いるのも良いと思います。なぜ、これらのICTツールを用いると良いのかについてですが、主なメリットは2つあります。
1つ目は、振り返りの蓄積がしやすいということです。教員が全体でシートを増やす・分けるといったことや子どもが自分で書いたものを一か所に保管したり、見直したりしやすくなります。単元や学期の終わりに自身の過去の振り返りを見直したり、同じような単元の振り返りを見て思い返したりするといった活動の助けにもなります。また、自分自身の学びの足跡を自分の好きなタイミングで辿ることができるというのは大きいのではないでしょうか。こうした振り返りの蓄積を行っていくことは、向上心やメタ認知などの非認知能力を鍛えていくことにも繋がります。
即時共有しながら振り返りの記入ができる。
2つ目は、振り返りの共有が容易であるということです。ノートやワークシートですと、書いている実物を相手に見てもらう必要があります。しかし、ICTツールを用いた場合は、やろうと思えば、書いている最中に、他の人達と振り返りを互いに見合うことが可能です。ICTツールを使うことで、自分とは違った視点で書いている人や自分と同じ視点だけれど、違う内容を書いている人を見付けて、自分の振り返りを見直し、さらに追記するといった姿が増えてきます。他者参照から自分を見つめ直すことで、振り返りの幅が広がったり、内容が深まったりしやすくなってきます。振り返りを通して他者と関わる力も高めていけると言えるでしょう。
すぐに共有すると「人の記述をうつす感じになってしまうのでは?」と心配される方もいるかもしれません。そういう場合は、「自分で考えたり、書いたりした後に参考にすると自分の力が伸ばしやすいと思うよ」、「○○さんの振り返りをみて、~と感じた。と引用を書いてみよう」といったアプローチを行ってみてください。何度か繰り返していくと、子どもたちも活動のコツを掴んでいくことができるのではないでしょうか。
●振り返りを進化させる生成AIを用いた即時フィードバック
子どもが生成AIを使える場合は、教員のエージェントとしての生成AIの利用も効果的です。教室にある程度の人数がいる場合、教員が一人ひとりの振り返りに即時フィードバックを行うことは難しいですが、生成AIを用いることで、それが可能になります。(生成AIの出力の受け取り方については事前指導が必要かと思います)
以下に、簡単な流れをご紹介します。
①まず、子どもが先述したように自分で振り返りを考えます。(ICTツールを使うとコピー&ペーストが使えるので効率的です。)
②次に、生成AIへ振り返りを入力します。
③生成AIからのフィードバックをもとに、自身の振り返りを見直し、追記します。
④必要に応じて、②・③のサイクルを何度か繰り返します。
※生成AIによって仕様は様々ですが、事前に「子どもの振り返りに対して、どのようなフィードバックを行うか」のシステムプロンプト(カスタム指示)や資料の添付(指導要領や年間指導計画等)を行っておきます。それが難しい場合は、子どもがカスタム指示の内容をコピーして振り返りの前に貼り付けたり打ち込んだりできるようにしておくことで実現可能になります。
子どもが行うことは、自身の振り返りを入力する(もしくは貼り付ける)のみで、とてもシンプルなため、短い時間で自身の振り返りの即時フィードバックを得ることができます。即時フィードバックを受けることで、自身の変容をより認知しやすくなるのが最大のメリットかと思います。
生成AIを子どもに使わせるというとハードルが高いように感じる方もいるかもしれません。しかし、今回ご紹介した振り返りでの生成AIを用いた即時フィードバックは、具体的な利活用の第一歩としても、行いやすい活動かと思います。ぜひ、可能な範囲で導入をしてみてはいかがでしょうか。
子どもが自身の変容を認知しやすくなる。
※生成AIのご利用については、学校のガイドラインに従うようお願いします。また、個人情報の取り扱いには十分ご注意ください。
【算数科の現実】習熟と振り返りのバランスをどう取るか
●習熟の時間の重要性
振り返りを充実させることの魅力やその具体的な方法について書いてきましたが、「なかなか振り返りの時間をゆっくりとれない」「振り返りを書いている間に1問でも多く適用問題に取り組ませた方がよいのかな…」と感じる方もいるのではないかと思います。
実は、私も同様の悩みを抱えています。授業をしていて、適用問題などで練習をして、じっくり習熟をする必要があるなと感じる場面は少なくないからです。学習内容の習熟の時間を十分に設けて、子どもたちが「できた!」「わかった!」と実感できるように一緒に活動に取り組むこともまた重要なことだと思っています。では、どのようにして、バランスをとっていけば良いのでしょうか。今回は、私が実際に行っている対策を2つご紹介したいと思います。
●振り返りを書くのは毎時間でなくても良い
1つ目は、振り返りを書くのは毎時間にしないという対策です。「振り返りを書くなら毎時間の方が良いのではないか。」と思われるかもしれません。実際、その通りです。可能ならば、毎時間しっかりと行っていくのが良いと思います。
しかしながら、先述した通り、習熟の時間が必要となったり、子どもの活動に時間をあてたいと感じたりする場面というのは、少なくありません。そのため、「2〜3時間に1回にする」「時間が取れる日に取り組むようにする」といった柔軟な対応をしていくのが現実的ではないかと考えています。
もしも日々の授業の中でまとまった時間を設けるのが難しいという場合は、「小単元の終わりに行う」「単元の終わりに行う」「確認のテストの後に行う」といったようにタイミングを絞って実践していくというのも1つの手ではないかと思います。
●授業の終わりの場面以外での振り返り
2つ目は、振り返りのタイミングを工夫するという対策です。振り返りというと授業の終末に行うイメージが強いと思います。今回、ご紹介した内容も授業の終末を想定したものです。
しかし、振り返りをするタイミングというのは、授業の終末でなくてはいけないわけではありません。何かに気付いたタイミング、自分で感じたタイミングで振り返りを「メモ」したり、「先に記入」したりすることもできるのです。
具体的には、「ノートにメモしておく」、「ICTツールで気付いたときにパッと入れておく」といった習慣をつけるといった方法が考えられます。こうしておくことで、まとまった時間が取れない場合や短時間の場合でも、終末に行う振り返りと似たような効果を得ることができます。時間をしっかり取れる場合も授業中にメモをしたり、先に記入したりしておくと子どもは「気付きや変容」を認識しやすくなりますので、効果的です。また、先述した振り返りの視点が子どもに定着していくと自然と「あっ、これは!!」というタイミングが増えますので、ぜひ、合わせて導入してみて下さい。
大切なのは、振り返りをすることではなく、子どもが成長していくこと、力をつけていくことだと思います。学習内容の定着や非認知能力の育成を見据え、あくまで手段の一つとして「振り返り」を実施していくことを忘れないようにするのが重要と言えるのではないでしょうか。
参考資料
中山芳一氏の著書『教師のための「非認知能力」の育て方』(明治図書、2023年)
「非認知能力」の概念に関する考察 <集約版> (一般財団法人 日本生涯学習総合研究所、2022年)
企業で活躍するための「非認知能力」<概要版> (一般財団法人 日本生涯学習総合研究所、2022年)
『OECD ラーニング・コンパス 2030 コンセプトノート(仮訳)』(OECD、2019年)
先生のプロフィール
黒須 直之先生