小2算数「九九を覚えさせなきゃ」と焦る先生へ
かけ算の意味を深める授業実践ガイド

「3の段をつくろう」。子どもの発想がリレーした1時間

授業づくり
小2算数「九九を覚えさせなきゃ」と焦る先生へかけ算の意味を深める授業実践ガイド

執筆/慶應義塾横浜初等部 前田 健太 先生

2年生の算数といえば、かけ算。そして、かけ算といえば九九の暗唱、というイメージが強いのではないでしょうか。「クラス全員に九九を覚えさせなければ」と、暗唱の進み具合ばかりが気になっている先生も多いと思います。保護者の関心も高く、私も保護者会で九九の暗唱について質問を受けたことがあります。そのとき答えたのは、「暗記することと考えることは別物です」ということでした。


九九が言えることと、かけ算ができることは、イコールではありません。もちろん、使いながら覚えていくことは大切です。けれど、それ以上に大事なのは、かけ算の意味を理解し、これまで学んだことをもとに自分で考えられることだと思っています。この記事では、私が2年生の教室で行ったかけ算の授業を紹介します。中心になるのは、子どもたちが自分たちの手で「3の段」をつくり上げた1時間です。


かけ算の導入は「意味」から。
たし算で理解する最初の一歩

お団子の問題で「同じ数のたし算」を可視化する


かけ算の1時間目は、スクリーンに青い紙を映して、こう切り出しました。「この紙の後ろに、くしにささったお団子が隠れています。全部で何個でしょう?」。何も見えていないのですから、わかるはずがありません。


そこで「どんな情報が欲しい?」と投げかけます。すると子どもたちからは、「くしの数」「1本のくしにささった団子の数」の2つが必要だという声があがりました。そこで、くしの数が4本、1本にささった団子が3個であることを見せます。子どもたちは、3+3+3+3をして、答えが12個であることを求めました。


ここで初めて、かけ算という新しい表現を教えます。かけ算とは同じ数のたし算を簡単にしたもので、3+3+3+3を、3(1つ分)×4(いくつ分)と表します。3が4つあるという意味です。


すぐに答えを言える子もいます。そういう子がいると、まだ九九を唱えられない子は不安になります。ですから、こう伝えました。「大人や先に知っている子がすぐに答えを出せるのは、歌を覚えるようなものだからだよ。まだ言えなくても全く気にしなくていい。絶対に覚えられるから」。暗唱以上に大切なのは、この導入で扱った意味の方です。

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 ▲ 9月12日の板書。「おだんごはいくつ?」から、3+3+3+3を3×4と表すところへ

九九を知らなくても解ける!
「かけ算」の仕組みを活かした思考力の育て方

9×28に挑戦! 筆算に頼らない「意味」の理解 


ある日、授業で少し時間が余ったので、子どもたちに「9×28」を考えてもらいました。2年生はまだ、2の段と5の段しか学習していません。子どもたちの反応は、3つに分かれました。


・何も手をつけられずに止まっている子

・どこかで学習した筆算をして、早々に答えを出している子

・これまで学習したかけ算の意味に立ち返って考えている子


私が最も問題だと考えているのは、2つ目です。この子たちはすぐに答えを出して満足していました。そこで机を回りながら、「なんでそれで答えが出るの?」と尋ねてみます。しかし、それに答えられた子は一人もいませんでした。


やっている意味はわからないけれど、筆算の手順だけを覚えて、ただ処理しているだけなのでしょう。しかもそれによって「自分はほかの子より難しいことを知っている、こんなの楽勝」という誤った優越感に浸り、「なぜそうなるの?」という気持ちが持てなくなる。これが大きな問題だと思っています。


一方、3つ目の子たちは地道です。9×28の意味に立ち返って、9を28回たしていました。交換法則を学習していたので、9×28=28×9として、28を9回たし、少し楽にしようとしている子もいました。


そこで私は、●を28列並べた図を黒板に示し、「今までならったかけ算(2の段・5の段)で、わかるところはありませんか?」と投げかけました。すると、5列ずつのまとまりで区切っていけば、9×5が5つと、9×2が1つ、9×1が1つに分けられることが見えてきます。あとは、それぞれの答えをたせばよいのです。


45+45+45+45+45+18+9=252


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▲ 2の段と5の段しか知らなくても、9×28はこう分ければ解ける


これを見てAさんが、「×10だったらもっと簡単」と言います。確かに9×10なら、交換法則で10×9となり、10が9個で90だとすぐにわかります。10のかけ算はまだ学習していませんが、意味を考えれば簡単なことです。


この問題自体は3年生の学習内容ですから、完璧に理解してほしいという意図はありません。2の段と5の段しか学習していない2年生であっても、既習だけで解決できます。私が見たかったのは、「9を28回たす」というような、粘り強い試行の方でした。

クラス全員でつくる「九九」の授業:
発想がリレーする瞬間

単元が進み、いよいよ3の段に入ります。2の段と5の段とは違い、3の段は、これまで学習してきたことをもとに、自分たちでつくっていくことが目的です。子どもたちからは、想像以上にいろいろなアイデアが、出てきました。

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 ▲ 11月6日の板書。「3の段をつくろう」。

子どもたちの発想が、次々と書きたされていった(児童名は加工で非表示)


まずは3×2からです。ここだけで意見が分かれました。Bさんは、かけ算の意味通りに「3が2つ」と考えました。それに対してCさんは、「前の答えに3をたす」と考えました。この2つは、3×2のときだけ、たまたま式が同じ形になります。


次の3×3になると、


3×3=3+3+3(Bさん) / 3×3=6+3(Cさん)


となり、二人の考えの違いがはっきりします。さらに3×4では、3×4=4×3=4+4+4という、交換法則を使った考え方が、出されました。「なんでそんなことをわざわざするの?」と聞くと、「3×9のときに、3を9回たすのは大変だから、9×3にして9を3回たす」。先を見通して、発想しているのです。


この段階で、子どもたちの手元には「かけ算の意味」「前の答えに3をたす」「交換法則」という3つのやり方がそろいました。そして子どもたちは、さらに新しい方法を生み出したいと考えはじめます。

未完成の発想を共有する:
DさんとEさんのバトン

おもしろかったのは、ここからです。3×5を考えているとき、Dさんがノートに、かける数の5を「2と3」に分けようとしていました。ただ、その先をどうしようかと悩んで、手が止まっています。


私は、これはとてもすばらしい発想だと思ったので、悩んでいるところまでを、みんなの前で話してもらいました。すると、「最高!」「おもしろい」という声があがります。そしてEさんが、「分けた2と3に、それぞれ3をかけあわせてたせばよい」と発表してくれました。


3×5=3×2+3×3=6+9=15


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▲ 左:Dさんがノートに書いていた考えを、板書で全体に共有したもの。

かける数の5を2と3に分けたところで、手が止まっていた。 

右:分けた形を図でも確かめる。


私がすばらしいと思ったのは、Dさんが未完成のままの自分の発想を話したことです。正解だけがすべてではない、というのはまさにこういうことです。うまくいかないからと内に秘めていては、その先の発展がありません。話したからこそ、周りがきちんとバトンを受け取り、Eさんが形にしてくれたのです。こうしたやりとりこそ、クラス全員がいないとできない授業だと私は考えています。

「かけられる数も分けられるのでは?」
予想が全部の段に広がる

この先も、子どもたちはすごかったです。続いてFさんが、こう言います。「まだやってはないんだけど、Dさんの(かける数を分ける)ができるなら、かけられる数を分けることもできるんじゃないの?」確信はないけれど、誰かの発想から予想してみる。これもとてもすばらしい態度です。


実際に1の段と2の段で確かめてみると、


1の段+2の段=3の段


になっていそうです。図でも確認してみると、今度は横で区切れば、確かに1の段と2の段をたすと3の段になることがわかってきました。


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    ▲ 左:1の段と2の段をたすと、3の段になっている 

右:1×6と2×6を合わせると3×6。図でも確かめた


これでも終わりません。数名の子が「だったら、ほかの段もできるんじゃないの?」と予想します。


2の段+2の段=4の段/1の段+3の段=4の段/1の段+5の段=6の段/

2の段+5の段=7の段 など


もう、これ以降すべての段を、自分たちでつくっていけそうです。自主学習でも、ほかの段にあてはめてみたものが多く出されました。これが暗記ではなく、算数を創るということです。


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▲ 「2の段の答えと3の段の答えをたしたら、5の段になるの?」自分で確かめてきた自主学習


Dさんの自信のないアイデアから始まり、Eさんをはじめみんなでそれを完成させ、さらにFさんがそこから違うアイデアを生み出し、それをほかでもあてはめられないかと発展させていく。子どもたちが仲間の意見をつなげて算数をつくっていく姿に、私は感動しました。

9 の段では、つくり方が7通り出た

こうして、段を段を重ねていくごとに、子どもたちが使える武器(既習)は増えていきます。9の段を扱ったときには、つくり方だけで7通りが出そろいました。


・前の答えに9を足す 9×7=(9×6)+9=54+9=63

・後ろの答えから9を引く 9×7=(9×8)-9=72-9=63

・かけ算の意味(9を7回たす)

・かける数を分ける 9×7=9×3+9×4=27+36=63

・かけられる数を分ける 9×7=3×7+6×7=21+42=63

・ひき算でも 9×7=10×7-1×7=70-7=63

・3の段の2個飛ばし(Gさんが8の段のときに見つけていた考え)

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 ▲ 「9の段をつくろう」。すでに出した答えどうしの関係を使って、9×7を求めていく


さらに、9の段では「答えが9ずつ増えている」「答えの十の位と一の位を入れ替えたものどうしの組がある」「十の位と一の位の和がいつも9になる」「十の位が1増えると一の位が1減る」「一の位が1の段の逆になっている」と、きまりもたくさん見つかりました。

まとめ:九九を「つくる」経験が、
算数への自信を育てる

念のために書いておきますが、私は九九の暗唱を否定しているわけではありません。使いながら覚えていくことは大切です。


けれど、最も大事なのは、既習だけを使って、自分たちの手でつくっていくことだと思っています。意味に戻ることさえできれば、たとえ九九を忘れてしまっても、自分でつくり直すことができます。九九の範囲を超えた計算にも手が出せるようになります。


新しい段に入るときには、教える前に「この段は自分たちでつくれるかな?」と投げかけてみてください。子どもたちが、九九を「つくる」側に立ったとき、かけ算の授業は暗記の時間から、考える時間に変わっていきます。

先生のプロフィール

前田 健太先生
慶應義塾横浜初等部 教諭

前田 健太 先生

慶應義塾横浜初等部教諭。長崎県出身。京都ノートルダム学院小学校、国立学園小学校を経て、現職。学校図書教科書「みんなと学ぶ小学校算数」編集委員や全国算数授業研究会幹事を務める。「できる」ことを過度に重視する教育に疑問を感じ、あえて子どもたちを困らせて「?(ハテナ)」を生み出す授業の必要性を提唱。日々の授業実践や算数ネタをSNSで発信し、Xのフォロワーは2万人超。授業実践「牛乳パックは本当に1L入っているのか?」は、メディアで紹介され大きな話題に。単著『しかける!算数授業』(明治図書)、『絶対解きたくなる!考えるのが楽しくてとまらない算数』(KADOKAWA)、『算数 おもしろ問題で愉しい!授業づくり』(東洋館出版)を出版。ほか共著や雑誌寄稿多数。

X(旧Twitter):@mathmathsan https://x.com/mathmathsan


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