「ごんぎつね」の授業づくり
読むことへの意欲を持続させる3つのポイント

授業づくり
「ごんぎつね」の授業づくり読むことへの意欲を持続させる3つのポイント

執筆/兵庫県雲雀丘学園小学校教諭 樋口綾香先生

はじめに


「ごんぎつね」の授業では、初めて子どもたちに作品を読み聞かせるときから、教材の魅力をひしひしと感じます。範読中に反応する声が聞こえたり、読み終わってから一瞬しんと静まり返る時間が生まれたり。結末の衝撃、ごんの心情や行動の変化への同情、思いが届かないことへの切なさ…物語を読んだあとはさまざまな感情で教室は満たされます。誰かが、口を開くと、それが合図であったかのようにみんなが口々に感想を言い合います。「交流しましょう」なんて指示がなくても、伝えたいことであふれるのが、長年日本人に愛されてきた「ごんぎつね」という作品なのです。


しかし、授業は読み聞かせだけでは終わりません。このあと10時間以上続く学習を、子どもたちの意欲を低下させることなく続けていく必要があります。散らばった感想をどう収束させるか。ごんに感情移入している子もいれば、兵十の視点に立っている子もいる中、それぞれの立場や状況をどう整理するか。読みの視点をみんなで共有しなければ、ばらばらな読みのまま進んでいってしまいます。みんなで深く読み合っていくためには、ある程度授業の方向性をそろえておくことが重要です。


今回は、子どもたちの意欲を持続させる「ごんぎつね」の授業づくりのための、単元の導入のポイントをお伝えします。

「読むことの意欲を持続させる授業づくり」3つのポイント

単元の終盤まで子どもたちの知的好奇心を惹きつけていくためには、単元の導入に「読むべき視点を子どもたち自身が獲得しておくこと」や「自分の読みを更新し続けていくこと」への仕掛けが重要です。その仕掛けには、以下の3点を意識して、授業づくりを行います。


① 初発の感想は観点で整理する
②
「設定読み」で物語に描かれるものに意味付けをする
③
人物の特徴や人物関係を押さえる


ここからは、それぞれの具体的なポイントについて、詳しく解説していきます。

ポイント①:初発の感想は観点で整理する

「ごんぎつね」は、同じく4年生の初めに学習する「白いぼうし」と比べると、およそ2倍の文字数になります。情景描写や行動描写が豊かになる一方、会話文については「ごん」の心の中の声や、「兵十」と「加助」の会話があるものの、肝心の「ごん」と「兵十」の会話文はほとんどありません。二人の関係性や感情の機微は情景描写や行動描写を手がかりに読むことになります。また、文章が長くなると、子どもたちが着目する点は増えるため、感想の交流時に読みの交通整理をしないと、次時以降に子どもの意欲や興味がつながらない可能性があります。

 

そこで、初めの感想を整理するポイントとして、子どもが書いた感想に観点を設けて板書することをおすすめします。観点は、物語を読み解くための視点です。1時間目の具体的な流れを紹介します。

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ポイント②:「設定読み」で物語に描かれるものに意味づけをする

単元の初めには、教師から読む視点を与えるのではなく、「なぜ?」「どうして?」という問いを子どもたちから引き出し、それを起点に詳細な読みへとつないでいくことで、意欲が持続します。

 

そこで力を入れたいのが「設定読み」の場面。物語の設定は、「登場人物」「時」「場所」の3要素。しかし、先述したように、本教材は情景描写が豊かで、秋を表すものがたくさん出てきます。情景描写は人物の心情と響き合うように描かれることがあるため、本文に何が登場し、それらが何のために描かれているかを読む必要があります。そのため、「設定読み」の段階では、3要素+「アイテム」の4要素を確かめて、気づきを増やせるようにします。

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4要素で設定分析をするときに思考を整理しやすいのが、Xチャートです。マトリクスなど表を使うこともおすすめですが、Xチャートは矢印などで関係性やつながりを書き込めて視覚的にそれぞれの要素の関係性を捉えやすくなります。

 

本文を熟読し、一人ひとりが発見したことに意味づけをしていきます。たとえば、登場人物がわかれば、そこに役割を当てはめていきます。ごん、兵十、加助、茂平、わたし。物語の中で誰がどういう役割(中心人物、対人物、脇役など)なのかを考えれば、おのずと読むべき視点が定まっていきます。

 

この設定読みに、正解はありません。自分の読みを表出させることが目的であり、まだ確定された読みではないのです。これから深く読んでいくのですから、「正解」の読みを求めるのではなく、読み深めるためのフックを探していく作業です。このことを子どもたちにも十分に伝えた上で活動に取り組むと、肩の力を抜いて楽しく作業することができます。

 

一人一人が自分のXチャートをつくった後、全体で交流します。その中に、次のような意見があったとします。

 

・「6場面は中心人物と対人物が入れ替わっているということかな?」
・「茂平やわたしは、なぜ登場したんだろう?」

 

一つ目の気づきは、初読の結末の衝撃には物語の書かれ方が関連していたことに気づくきっかけになります。6場面で語り手の視点がごんから兵十に入れ替わることによって、私たち読者は突然兵十の立場で読むことになり、取り返しがつかない惨事に対してやり場のない感情を抱えることになったのですよね。

 

二つ目の気づきは、初読ではさほど気に留められていなかった「茂平」や「わたし」が物語の中でどのような役割を果たすかを考えることで物語の構造に迫ることができる、とても重要な発見になります。

 

このように、物語に描かれているものは何一つとして不要なものはありません。「設定読み」は、物語に描かれたすべてのものに対して、登場する意味や理由を探し、小さな発見や疑問を共有して読みを深める視点を獲得しながら、物語をもっと深く読もうとする子どもたちの意欲を高めるための大切な学習活動です。

ポイント➂:人物の特徴や関係性をおさえる

設定読みで人物の役割を明らかにした後は、さらにその人物の特徴を詳しく捉える活動を取り入れます。本文を読むと以下のような人物の特徴や心情の変化がわかります。これらの要素に子ども自身が気づいていくために、イメージマップや表など子どもたちが思考しやすいツールを選択して、人物の特徴や関係性を押さえます。

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○ごんと兵十の特徴を比較する板書

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○ごんの特徴から問いを生む板書

人物の特徴を捉えることが、物語の展開や人物の変容を読み取る上で重要であることは子どもたちもよく分かっていますが、さらにもう一段階踏み込んで問いかけることで、物語の中に描かれている伏線を見つけることができます。

 

物語の冒頭に書かれている「ごん」の特徴は、以下の通りです。

 

  • 中山から少し離れた山の中に住んでいる
  • ひとりぼっちの小ぎつね
  • しだのいっぱいしげった森の中に、あなを掘って住んでいる
  • 夜でも昼でも、あたりの村へ出てきて、いたずらばかりする

 

この特徴を読んだときに、子どもたちに気づきが生まれるように仕掛けたいのです。この気づきが、物語の主題を読むことにつながっていきます。

 

例えば、「なぜ住んでいる場所が2度に渡って説明されるのか」と問いかけることができます。本文には、「中山」の説明があり、その中山から少し離れた山にごんが住んでいることが説明され、ごんの住処はさらに詳しく説明されます。これは、「ごん」を紹介する上で、住んでいる場所が重要であることが強調されているのですね。「中山」は人間が住む場所。人間ときつねが住む場所は同じではないこと。ごんの住処は「しだのいっぱいしげった森の中」で「あなをほった」場所。人のこない、暗い森の中。そこで「ひとりぼっち」で生きる「ごん」なのです。

 

さらっと読んでしまっては、読み落としそうなごんの境遇。人間ときつねの関係性。それが冒頭のごんの紹介につまっています。

おわりに

 「ごんぎつね」は、初読の瞬間から子どもたちの心を揺さぶる特別な力を持った教材です。しかし、その豊かな物語だからこそ、10時間以上に及ぶ単元学習の中で意欲を維持し、深い学びに高めていくためには、丁寧な授業の仕掛けが欠かせません。 


子どもたち自身が「読むべき視点」を獲得し、本文に書かれた言葉と書かれていない行間をつなぎながら、友達との対話を通して自分の読みを更新していく。そうした体験を重ねることで、新しい解釈に出会う喜びを教室の中で味わってほしいと願います。


本稿でご紹介した視点が、先生方の授業づくりの一助となれば幸いです。

先生のプロフィール

樋口 綾香先生
兵庫県雲雀丘学園小学校 教諭

樋口 綾香 先生

2008 年から小学校教諭をしている。大阪教育大学附属池田小学校で「読解力・表現力を育成する多読を基にした言語活動のカリキュラム開発(科研費奨励研究 16H10516」や「シンキングツールを取り入れた構造的板書による読解力・対話力と情報活用能力の研究(科研費奨励研究 17H00095)」などに取り組み、Instagramの@ayaya_t_や Voicy の*ayaya の国語教室*ーとにかくおもしろい授業をめざしてーでは、自分の授業を磨くために板書や授業のリフレクションを発信し続けている。関西国語授業研究会、授業力&学級づくり研究会所属。

主な著書

  • 『子どもの気づきを引き出す!国語授業の構造的板書』(学陽書房)
  • 『「自ら学ぶ力」を育てる GIGA スクール時代の学びのデザイン』(東洋館出版社)
  • 『5年生のクラスをまとめる 60 のコツ』(東洋館出版社)
  • 『子どもの学びを支える教室環境のつくりかた』(明治図書出版社)
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