『白いぼうし』で初読を生かす授業設計
●子どもが主体的に動き出すクラスづくりのために
「初めて読んだ感想を書いてみましょう。」単元の初めの授業では、物語から感じたことを子供に書かせる活動を行うことが多いと思います。子供自身が自分の思いを言語化し、多様な文章表現ができる児童を育てたいという願いは、教師のだれもが抱くものです。国語科の授業において「読みを深める」という言葉は、往々にして「叙述から正解を見つけ出す作業」に偏りがちです。登場人物の行動を分析し、心情を文章記述で説明させる。もちろん大切なプロセスです。しかし、それだけでは子供たちが初読で抱いた「なんだか不思議だなあ。」「ここが面白い。」「この後、どうなるのかなあ。」という瑞々しい感性が、書いている過程でこぼれ落ちてしまうことがあります。
そこで、言葉や文書による表現の他に、「イラスト」を加え、ICTを活用してそれらを「ポスター」として可視化する学習活動を行いました。年度初めに実施する小学4年生の物語教材「白いぼうし」は色や香りなどの表現が多く、また、読後に子供たちの想像が各々膨らむ、とても面白いファンタジーです。タブレット操作にも慣れてきた4年生の子供たちです。想像力を支え、思いや考えを可視化するためのICT活用は、子供たちが自分の読みを客観視し、学習の積み重ねと読みの深まりをつなげることができました。
この実践のポイント
- 初読で生まれた疑問や印象を、読みの出発点にする
- 読みを深める中で、表現の選択肢を広げる
- 比較と対話を通して、自分の読みを見直す
初発の感想ポスターで可視化する子どもの読み
単元の導入、初めて物語を読んだ直後の活動として、「文章での感想」と加えて「ポスター作成」を取り入れました。
●「言葉にならない思い」をイラストで救い出す
4年生の子供たちにとって、初読の「不思議だったこと」や「面白かったこと」や「もっと知りたいこと」をすべて文章にするのはハードルが高いものです。しかし、ICTを使えば、「女の子が消えた瞬間の驚き」や「夏みかんの匂いのイメージ」などを、手描きのイラストや、素材を組み合わせてポスターにすることにより、自分の心の中にある思いを可視化することができます。
ポスター化する際、子供たちは自然と「どの場面を大きく描くか」「背景は何色にするか」「ここには、どのような素材を入れるか」など、自分の思いを整理し、デザインの活動を始めることにより、素材や色を選択し、決定します。この選択と決定こそが、すでに読解の第一歩なのです。感想を書くだけではこぼれ落ちていた「それぞれの児童が感じたこと」が、鮮明なポスターとして表されます。
●理由にフォーカスした自然な対話の発生
作成したポスターをクラスで共有すると、面白い現象が起きます。教師が「どこが違いますか?」と問いかけなくても、子供たち同士で「あ、〇〇さんはここを青で描いてる!私は黄色にしたのに、違うね!」「どうしてそこに蝶をたくさん描いたの?」という会話が自然に生まれるのです。
学級目標を「自分たちで発案し、形にした」というこの経験は、その後の学級づくりの土台になっていきました。学級開きの段階から自分たちの「やってみたい」が尊重され、挑戦が形になる経験を重ねることで、後の英語や社会科の授業においても「やってみたい」という声が自然に生まれ、さらには子ども発案の「紙飛行機大会」へと広がっていきました。
ポスターがあることで、自分と似ている・自分と違うという感想の交流に留まらず、その表現を選んだ「理由」にフォーカスした議論が動き出します。これは教師主導の交流ではなく、子供が主体となって相手の読みの背景を知ろうとする、対話への入り口となります。
ポスター比較で見える読みの深まり
単元の終末では、再びポスター作成に取り組みます。ここで重要なのは、初発のポスターを「上書き」するのではなく、新しく作成し「比較する」ことです。
●学びの深まりを「自己評価」する
学習前の自分のポスターと、読み深めた後のポスターを見比べることで、子供たちは自分の成長を実感します。「最初は消えてしまった女の子を黒っぽく描いていたけれど、松井さんの優しさに触れて、今は光のような明るい色で描いてみたよ。」といった、子供の変容がポスターの比較から分かります。
読みを深める活動を重ねたことで、表現の選択肢(色の使い分け、レイアウトの意図)が格段に増えています。それを説明するための言葉も自ずと豊かになり、文章による記述以上の圧倒的な表現力で、子供たちは読みを深めていきます。さらに、交流の質が一段階引き上げられます。
●「なぜ」が繋ぐ交流の時間
まとめの段階での交流では、さらに「なぜ」が生まれ、話合いが深まります。初読の時のポスターと比べると、情景の描き方や登場人物の描き方、色の選び方など、子供たちの表現は様々です。お互いのポスターに対して「なぜこの色にしたのか。」「なぜこの場面を強調したのか。」という「なぜ」の問いが飛び交います。他者の思考のプロセスに対する関心が高まることで、「もっと読みたい」「もっと伝えたい」という子供の学習意欲が持続します。ICTによる可視化が、個人の思考を深めるだけでなく、集団としての学びを活性化させる機会となりました。
小学4年後期に学習する「ごんぎつね」へ ―「場面の変化」から「心情の変化」を読む
この「ポスターによる可視化」の活動は、他の教材でもさらに発展させることができます。例えば「ごんぎつね」の実践では、さらに深い読解力が求められます。「白いぼうし」で身に付けた「場面の情景を想像し、様子を表す言葉や、色・においなどの表現に着目して読む力」を土台として、「登場人物の心情の変化を捉えて読む力」を付けていきます。
ここでも、心情の変化のきっかけとなる行動や状況を読み取るためには、叙述からの整理と併せて、場面の整理を視覚的に行うことにより、単元の指導事項に応じた学習活動がさらに充実します。「白いぼうし」で培った「思いを形にする力」を基盤に、ICTを活用することにより、子供たちの読解と表現はより高度で創造的なものへと進化してきます。