「白いぼうし」のココがおもしろい!
[日常からふしぎな世界へとつながるファンタジー要素]
松井さんが誤って逃がしてしまったモンシロチョウの代わりに夏みかんを置いた後、突然車の中に「おかっぱのかわいい女の子」が現れ、ふと気がつくと消えてしまっているという不思議な展開が大きな魅力です。女の子が消えた小さな野原にはたくさんの白いちょうが飛んでおり、「よかったね」「よかったよ」という声が聞こえてくることから、女の子の正体が松井さんに助けられたちょうであったと想像できる点に、物語の奥深さとおもしろさがあります。
[主人公・松井さんの温かくユーモアのある人柄]
タクシー運転手の松井さんの行動と心の声も、この作品の大きな読みどころです。ちょうを誤って逃がしてしまい、その持ち主である男の子に対して「この子は、どんなにがっかりするだろう」と思いやる優しさを持っています。さらに、田舎のお母さんが送ってくれたばかりの大切な夏みかんをぼうしの下に置き、男の子が「まほうのみかんと思うかな」と驚く様子を想像して一人で笑いをこみ上げさせるなど、愛情深くユーモアにあふれた松井さんの人柄が物語を温かいものにしています。
[五感(におい・色・音)に働きかける豊かな情景描写]
物語全体を通して、読者の感覚を刺激する表現が効果的に使われています。お客さんが「レモンのにおいですか」と間違えるほどの夏みかんの「すっぱい、いいにおい」が車内や風に広がる様子が描かれています。また、緑のやなぎと白いぼうし、青々としたクローバーと黄色のたんぽぽなど、鮮やかな色彩のコントラストが目に浮かびます。最後には「シャボン玉のはじけるような、小さな小さな声」が聞こえるなど、におい・色・音の表現を通して物語の世界に深く引き込まれる点もこの教材の優れたおもしろさです。
教材との出会いと学びのサイクルを回す「気づき」(第1時)
子どもたちが教材のおもしろさに気づけるように、教材との出会いでは、「言葉に立ち止まる仕掛け」をします。
題名や作者に注目する
子どもたちが既に学習している「ちいちゃんのかげおくり」と同じ作者(あまんきみこ)であることを伝えたり、この物語が「車のいろは空のいろ」シリーズの一つであるという情報を伝えたりします。叙述にある情景描写に気づけるように、題名の「白」という色彩語に着目させ、連想するものを交流しておくと、物語を読んでいるときに色彩語に注目する子どもが増え、情景描写の多さに気づくことができます。
物語のテーマを強調し、初発の感想に「読みの視点」を提示する
この物語がどのようなお話かを捉える際に、「不思議なお話」であることを意図的に強調します。子どもたちに「不思議だと思ったこと」を中心にして初発の感想を書かせることで、今後の授業で「不思議さを解き明かしていく」という目的意識をもたせ、主体的な読みへとつなげています。
物語の設定分析で見つける「読みどころ」(第2時)
物語の設定は本来、「時」「場所」「登場人物」の3要素で構成されます。しかし本教材では、題名自体が重要な役割を果たすため、本文中の大切な物を「キーアイテム」とし、4要素で分析を進めるのがおすすめです。既習の学習用語の定義を確認することで、子どもたちは物語の世界と読みの観点をつなぎ、自力で読みを深めていくことができます。分析した内容をペアやグループで交流し、全体で共有すると、以下のような物語を読み解くための重要な気づきが生まれます。
- 時:6月のはじめ。春から夏への季節の変わり目。
- 場所:車道、小さな野原など
- 中心人物:松井さん
- その他の人物:男の子、女の子、男の子のお母さん(対人物は解釈によって異なります)
- キーアイテム:白いぼうし、夏みかん、モンシロチョウ、車など
これらの要素を整理することで、物語に隠された不思議な謎など、子どもたち自身で「読みどころ」を発見できるようになります。
キャラクターマップで広げる松井さんの人物像(第3時)
「松井さんはどんな人かを読もう」というめあてのもと、本文から松井さんの特徴がわかる叙述を見つけ、想像を広げながら読む活動を行います。思考を視覚的に整理するためにキャラクターマップの描き方を指導し、自分の考えをノートにたくさん書き残す「創造的なノートづくり」を促します。
このノートづくりにおいて、私は以下の言葉を大切にしています。
- 「友達の考えで『いいな』と思ったものも残そう」
- 「一人だけしか書いていない意見は最高!」
このように伝えることで、子どもたちの多様な考えを引き出し、互いの感性を認め合う教室の雰囲気をつくります。さらに、ここで捉えた人物像を、後の学習で心情や行動の理由を読み解くための「根拠」として活用できるよう意識づけます。人物像を押さえるときには、教科書の巻末にある「人物を表す言葉」を参考にさせることで、語彙を豊かにしながら、より適切な表現を選択できるよう支援できるとよいでしょう。
「白いぼうし」と関わる人物の心情を比較する(第4時)
第 4 時は、帽子に関わる人物の心情を読み深めます。帽子に関わっているのは、「ちょうを捕まえたたけおくん」と「代わりに夏みかんを入れた松井さん」。なぜ二人は、ぼうしの中にそれらを入れたのでしょうか。登場人物の表情を想像してイラストを描いたり、そのときの気持ちを吹き出しに書くことを通して、どちらにとっても帽子の中身がかけがえのないものであったことに気づかせます。その際、出来事だけでなく、背景にある「たけおくんと母」や「松井さんと母」の物語にも子どもたちが気づけるといいですね。
松井さんの心情や行動のわけを考える場面では、前の時間で捉えた「松井さんの人物像」とつないで考えさせることで読みを深めることができます。
さらに、次時の「女の子=ちょう」という推論へスムーズに接続するための伏線として、授業の最後に人物ではない「ちょう」の気持ちをあえて想像させ、次の根拠探しへとつなぐしかけをします。
「くらげチャート」で伏線を回収し、女の子の正体に迫る(第5時)
第5時では、「女の子はちょうである」という推論の根拠を探ります。授業の導入では、子どもたちが初発の感想で抱いた「問い」を改めて提示し、「謎を解き明かす」という明確な目的意識を持って展開します。
本文から女の子の正体に結び付く叙述を探す際には、それが物語における伏線であることを教えます。単に言葉を抜き出すだけでなく、前時に想像した「ちょうの気持ち」や「ちょうの特性」をヒントに、多角的な視点で根拠を探すよう促します。見つけた根拠を整理する場面では、シンキングツールの「くらげチャート」を活用し、いろいろな場所に考えを書き込める特性を生かして根拠同士をつなげたり、友達の意見を書き足したりすることで、子どもたちが自分の考えをさらに深められるようにします。
「問い」を繋ぎ、探究的な読書へと広げる(第6・7時)
子どもたちは物語を読み進める中で、「なぜ松井さんに不思議なことが起こったのか」「こうした出来事は初めてだったのか」といった疑問を抱くことが多くあります。第6時までは、あえて結論を明示せず、松井さんの人物像や残された謎を探究できるシリーズ作品の『本日は雪天なり』や『山ねこ、おことわり』を読むのがおすすめです。実際のノート記録からも、「耳がいいから、正体はキツネかもしれない」と想像を膨らませたり、細かな叙述に気づいて自分なりに意味づけをして物語の世界を楽しむ姿が見られました。
単元の締めくくりには、これまでの学びを俯瞰して、学習の成果をまとめます。ここでは、叙述をもとに問いをどのように解決したか、自分の解釈を言語化します。一つの作品で解決しなかった問いの答えが別の作品で解決されたり、作品間の共通点や相違点を見つけたりすることで深まった作品の解釈を書かせます。さらに、振り返りを通して自分自身の「学び方」をメタ認知することもできます。キャラクターマップなどのシンキングツールを新たなスキルとして習得したことや、「シリーズを読むことで謎が解けることがある」といった今後の読書活動に生きるアプローチを獲得したことを書き残して、次の文学作品の学習へとつなげましょう。
インタビューした先生
樋口 綾香先生