〜国語・道徳・体育に学ぶ「対話のデザイン」〜

先日、札幌市立幌南小学校で3名の先生方による公開授業と、その後の活発な意見交換会が開催されました。国語、道徳、そして体育。三者三様の授業、そして先生同士が真摯に学び合う対話の時間から見えてきたのは、児童一人ひとりを「学びの主役」にするための確かな仕掛けと、実践者たちの「つながり」から生まれる新たな可能性でした。
AWARD受賞者である5年生の守屋先生が見せた、テストパークを「学び合い」のツールに変える授業。同じく5年生の高田先生が実施された、オクリンクプラスを使って児童の「自己肯定感」を育んだ温かい授業。そして、4年生体育科の梅村先生による、体育とICTの新たな出会いをデザインした挑戦的な授業。
本レポートでは、三者三様の実践から見えてきた「明日へのヒント」をお届けします。
実践レポート① 守屋先生・5年国語「"評価"から"学び合い"へ〜テストパークの新たな可能性〜」
「ミライシードAWARD」受賞者でもある守屋先生が、5年生国語科「みんなが使いやすいデザイン」の単元のまとめとして授業をされました。守屋先生は授業の冒頭で、この時間の学習の流れを共有しました。児童たちは目的を理解し、活動に取り組んでいました。

そして、テストパークの真価が発揮されたのは、解答後の時間です。全員が解き終わると、守屋先生はテレビにテストパークの集計画面を映し出しました。そこには、設問ごとの正答率が即座に表示されています。紙の単元テストでは難しい、「即時採点→みんなでふりかえり」という、まさにデジタルならではの展開です。
守屋先生は、その客観的なデータをもとに、どの問題を振り返るかを児童たち自身に委ねます。児童たちは正答率が低い問題を指さし、「この問題をやりたい!」と主体的に声を上げ、学び合いが始まりました。必要に応じて守屋先生が設問の解説をすると、児童たちから「なるほど!」という声が上がります。
テストの結果を、単なる評価で終わらせるのではなく、クラス全員の学びを深めるための「対話の材料」として活用する。それは、「これまで出来なかった授業」が生まれる可能性を感じさせる、画期的な実践でした。

実践レポート② 高田先生・5年道徳「"自分らしさ"を見つける旅〜オクリンクが育む自己肯定感〜」
続いては、高田先生による5年生の道徳の授業。「自分らしさ」という、時に繊細なテーマを、オクリンクプラスが温かくサポートします。授業は「自分から見た自分」と「友達から見た自分」を比較しながら、「自分らしさ」について考える活動です。まず、児童はオクリンクプラスのカードに、自分自身の長所や短所を書き出します。次に、友達のカードを閲覧し、その子の「良いところ」を伝え合います。

授業の中盤、高田先生は「キーワード集計」機能で、みんなが書いた言葉を抽出。「短所だと思っている言葉が多いね。でも、これって見方を変えたら長所にならないかな?」と問いかけます。児童たちは、自分や友達の意見が可視化された画面を見ながら、新たな気づきを得て楽しそうな表情を浮かべていました。
そして授業のクライマックス。児童たちは、友達から寄せられた「自分の良いところ」が書かれたカードを、少し照れくさそうに、しかし嬉しそうに眺めています。他の子から見た自分の長所を知ることで、自分では気づかなかった「自分らしさ」を発見し、自己肯定感が高まっていく様子が見られました。オクリンクプラスというツールが、児童たちの心理的な壁を取り払い、お互いを尊重し合う温かい空間を創り出していました。ステップごとに納得感を持って自分と向き合える、見事な授業デザインでした。

実践レポート③ 梅村先生・4年体育「"できた!"をデザインする挑戦〜体育で活きるオクリンク〜」
3人目は、梅村先生による4年生の体育。「体育でICTをどう活かすか?」多くの先生が持つその問いに、一つの答えを示してくれる実践です。その授業は単にツールを使ったというだけでなく、全ての児童が「できた!」を実感できる、緻密に設計された学習デザインでした。 この日の授業の目的は、高跳びにおいて「自己の課題を見つけ、課題解決のための活動を選ぶ」こと。特徴的だったのは、その評価方法です。単に跳べた高さではなく、「自分の記録がどれだけ伸びたか」でポイントが加算されます。これにより、運動能力に関わらず、全ての児童が自身の成長を目標に、主体的に練習に取り組むことができていました。

授業のハイライトは、練習の合間に設けられた「思考の時間」です。オクリンクプラスには美しいフォームの連続写真が用意されており、児童たちはそれを手本としながら自身の感覚を言葉にしていきます。そして、その個々の「気づき」がオクリンクプラスで全体に共有されると、上手な子が感覚的に掴んでいた「コツ」が、クラス全員の共有財産へと変わります。その後、児童たちは共有されたコツを意識して再び練習に臨み、自身の記録更新を目指します。課題を発見し、解決策を考え、すぐに次のアクション(練習)へと移る。そのスムーズな学びの流れは、まさにICTの強みと言えるでしょう。
がむしゃらに反復するのではなく、「実践→言語化→共有→実践」という学習サイクルを回すことで、技能と理論を結びつける。オクリンクプラスを、体育という身体活動と、思考という知的活動を繋ぐ「架橋」として活用した、見事な授業デザインでした。

特別レポート:AWARD受賞者 守屋先生が語る、学びの「動力源」
公開授業の後、AWARD受賞者である守屋先生から、その実践の背景にある教育理念について、より詳しいお話がありました。

守屋先生が大切にされているのは、子どもたちの「やりたい!」という純粋な意欲を、学びの「動力源」に変えること。子どもたちが「これを実現したい」と心から願うとき、それを達成するために「やらなければいけない」課題が生まれる。その瞬間にこそ、本質的な学びが始まると言います。
その考えを象徴するのが、総合的な学習の時間と国語科を合科的に進めた「山鼻雪まつり」の実践です。まず、子どもたちに「1年生を招待して、雪の魅力を伝える雪まつりを開催しよう!」という、心躍る「やりたい!」を提示します。ただし、一つだけ条件が。「開催するには、1年生の先生から認可をもらうためのプレゼンが必要だ」と。
子どもたちは雪まつりの実現に向け、自分たちでチームを組み、情報収集やスライド作成に夢中で取り組みます。そして迎えたプレゼンの日。1年生の先生方から、子どもたちの提案に対して様々な課題点を指摘されます。そこで初めて、子どもたちの中に「どうすれば、もっと伝わるスライドになるんだろう?」という、切実な「問い」と「やらなきゃ」が生まれるのです。
各チームで指摘されたことを共有し、より良い提案にするために学習計画を見直しながら、子どもたちは再びスライド作成に挑みます。このプロセスこそが、国語科で身につけるべき資質・能力の獲得に、見事に繋がっていきました。
守屋先生は語ります。「総合での活動が、子どもたちの『やりたい』という動力源を生み出し、自然と国語で身につけるべき課題意識に繋がりました。子どもたちと一緒に学習計画を見直す活動は、どんな教科でもできるはずです」。
守屋先生の発表に続き、高田先生、梅村先生からも、当日の授業に込めた想いを語られ、参加者にとって学びの多い、充実した時間となりました。
事後検討会レポート:実践を支える思想と対話
守屋先生のご発表の後、参加者は3つのグループに分かれ、授業を行った先生方を交えての事後検討会が開かれました。各グループでは、率直な疑問や明日から使えるノウハウが活発に共有されていました。
①:「一方通行」から「双方向」へ。テストパークの価値の再発見
参加者の一人から、「正直、テストパークのイメージが良い意味で覆された」という声が上がりました。「結果がすぐ返却される」というメリットは知っていたものの、それはあくまで「教師から子どもへ」という一方通行のフィードバックだと思っていた、と。 しかし、守屋先生の実践を目の当たりにし、テスト結果が即座に共有されることで、教師と児童の間に「対話」や「共に見直す時間」という、双方向の豊かな学びが生まれることに気づいたと言います。この発見には、多くの先生が頷いていました。 また、ある先生からは「普段、成績付けはペーパーテストで行い、その前の練習や、個々のつまずきを振り返るためにテストパークを活用している」という、具体的な使い分けのアイデアも共有されました。

②:採点の「迷い」を「学び」に変える逆転の発想
「模範解答が一つしかなく、子どもの多様な答えをどう評価するか迷うことがある」という意見に対して、守屋先生と高橋先生から、目から鱗のノウハウが共有されました。 それは、「採点で迷ったら、安易に正誤を判断せず『△』を付けて、子どもたちに『これってどう思う?』と問いかけ、一緒に採点基準を考えてみる」という方法です。 システムの限界を嘆くのではなく、それを逆手にとって児童との対話を生み、学びを深める機会に変えてしまう。この逆転の発想は、ツールに「使われる」のではなく、ツールを「使いこなす」ための、非常に重要なヒントとして参加者の心に響いていました。
③:心の「内面」と身体の「コツ」、その両方を可視化するオクリンクプラス
高田先生の道徳の授業では、「自分らしさ」という繊細なテーマを扱う上で、心理的安全性を確保するツールとして機能した点に感心の声が上がりました。自分の意見を安心して表明でき、友達からの温かい言葉を受け取れる。心の「内面」を可視化し、自己肯定感を育む場をデザインできるのがオクリンクプラスの強みだと確認されました。一方で梅村先生の体育では、身体感覚という見えない「コツ」を言語化し、可視化するツールとして活用された点に、多くの注目が集まりました。参加者のアンケートからは、「あえて動画ではなく連続写真とキーワードで動きのイメージを示した点が、この授業の核だった」という鋭い分析の声が寄せられています。実際に、あるグループでは、児童たちが「トントントン」といったリズムを口ずさみながら、言葉と動きを結びつけて練習する姿が見られたそうです。オクリンクプラスで動きのイメージを言語化し、共有したことで、苦手な子へのアドバイスも自然と生まれ、クラス全体の学びが深まっていきました。「心」の内面から、「身体」の動きのコツまで。その両方を可視化し、学び合いを促進するツールの柔軟な活用法が示されました。

個の実践を、学校の力に〜札幌市立幌南小学校の対話が生む、次への一歩〜
ツールの使い方を再定義し、「評価」を「対話」に変えた守屋先生。児童の心に寄り添い、「自分らしさ」を発見する安全な場をデザインした高田先生。そして、児童の課題解決能力を育もうとした梅村先生。
札幌市立幌南小学校の公開授業は、三者三様の実践の中に、通底する一つのメッセージを浮かび上がらせました。それは、ICT活用とは単なるスキル習得ではなく、「いかにして児童を学びの主役にするか」という、教育の本質的な問いへの挑戦であるということです。個々の優れた実践が、先生同士の対話を通じて繋がり、学校全体の力へと昇華していく。そのダイナミックな学びの循環こそ、札幌市立幌南小学校の最大の強さなのかもしれません。
