学年を超えた学びも自由に叶えながら「向かう」子どもたちが増えています。

——京都府宮津市立 吉津小学校

教育DXストーリー

ICTを活用し、主体性も学力も高める指導に挑戦

京都府宮津市立吉津小学校では、「ふるさとを愛し 自ら学び 心豊かに たくましく ともに伸びる 児童の育成」を教育目標として掲げ、子どもたちが自由に対話をしながら学び合える環境づくりを推進しています。ICTを活用することによって、児童の学びに向かう力がさらに向上したといいます。「子どもが自ら伸びる学校」をつくるために、先生方はどんな思いを共有、教育活動を展開しているのでしょうか。校長の東山憲行先生(写真右)、教務主任の野坂映里先生(写真左)にお話をうかがいました。

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朝のお話し会で学び合いの基盤を作る

東山校長先生:
私は本校の教務主任を務めていた頃から、「子どもは主体的な学び手であるべきだ」と考えてきました。しかし、担任するクラスを持っていた頃の自分も含めて、多くの教師は「教える」ことに終始し、子どもが主体的に学ぶスタイルを実践できずにいました。例えば理科の授業で実験を行うにしても、「ほかの材料を使ったらどうなるだろう?」といった子どもたちの発想も取り入れながら、いろいろなやり方を試すことができるはずです。しかし、実際の授業は結論に向けてレールを敷いたような内容であるため、子どもが“学びに向かっていない”状態で授業を受けることになってしまうのです。
 
転機があったのは、総合教育センターへ異動になったときです。さまざまな学校を見学していた際、ある国立大附属小の研究発表会で「朝の会」に関する取り組みと出会いました。児童の司会による朝の会では、児童一人ひとりがその日の気づきや準備してきた内容を発表し、ほかの児童は発表内容を聴いて共感のコメントを返したり、質問を投げたりします。そこにはまさに生き生きと学ぶ風土があり、“学びに向かっている”子どもたちの姿があったのです。この実践に着想を得て、2022年度から毎朝の取り組みとして、「朝のお話し会」を始めました。


東山校長先生は、京都府総合教育センターに所属して全国の小学校を見学する中で、「朝のお話し会」のヒントをつかんだという。

――お話し会は、どのような内容なのですか?

東山校長先生:
お話し会では、子どもたちが生活の中で得た気づきや学び、不思議だと思ったこと、同級生への質問などを自由に話します。自分がタブレットを使って撮影した写真や動画を投影しながら話すなど、発信のスタイルも子どもによって違います。担任の先生は子どもの発言を板書するなどのフォローはしますが、話そうとするのを止めたり、「友だちの話を聞くときは静かにしようね」と注意したりはしません。
 
お話し会を通じて、子どもは自然と「学ぶスタイルは自由でいいし、一人ひとり違う考え方があるんだ」と知り、学習に「向かう」態度を身につけていきます。私たちはこうした子どもの好奇心を、学び手になるための重要なポイントだと考えています。

野坂先生:
発表内容は児童が自由に決めています。身近な自然に関することや、生活の中で気づいたことに加えて、学習に関することを発表する子どももいます。例えば1年生の学級では、ある子どもが「ドリルパークを使って2年生で習う『引』という漢字が書けるようになりました」と発言してくれました。すると、ほかの子どもも興味を持って、「黒板に書いてみて」「なんて読むかわからないけど、ドアにその字が書いてあるのを見たことあるよ」などと盛り上がっていました。
 
――お話し会を始めてから、子どもたちの様子に変化は?

東山校長先生:
自分の意見を自由に発言ができ、お互いに受け止めていくことで、学び合うための良い雰囲気がどこの教室にも漂うようになりました。お話し会を実施していなかった頃は、高学年になると言葉でのやりとりが乏しい中で、子ども同士で腹の探り合いをし、児童間のトラブルも起こっていました。しかし現在は、ほとんど見られなくなりました。


お話し会では、同級生の発言に対してやりとりをしながら、クラス全体の知識や興味が広がり、深まっていく。

個別最適な学習で、学力も学習意欲も伸ばす


――授業の中でICTを活用する際に、どのようなことを意識されていますか?

東山校長先生:
1人1台ずつタブレット端末を導入するにあたっては、できるだけ制限を設けず自由に使いながら学習に「向かう」姿勢を身につける一助にしてほしいと考えていました。野坂先生はじめ先生方もその考え方をくみ取って下さって、ミライシードを使うにしても当該学年だけでなく全学年のデジタルドリル(ドリルパーク)に取り組めるようにして下さっています。子どもたちは機能もレベルも自分で選択し、自分なりにベストだと思うやり方でミライシードを使っています。
 
これまでの学び方では、教師は「全員に理解してもらいたい」と思うあまり、「ここはもう理解できるから、もっと違う問題を解きたい」といった子どもの意欲が置き去りになる傾向がありました。しかしドリルパークを活用することで、子どもは自分の学習状況を考えながら、上の学年の問題を解き進めることもできます。ミライシードという学び方の選択肢があることも、自己調整学習(学習者が自らの学習活動に能動的に関わって進める学び方)の手助けになるはずです。
 

ドリルパークでは、全学年のドリルに取り組むことができるため、意欲や理解度に応じて学年を超えた学びを実現できる

――ドリルパークを活用することで、変化はありましたか?

野坂先生
ドリルパークを活用することで、それぞれの苦手に合わせて復習に取り組めるようになりました。本校では、ドリルパークと連動することができるベネッセの総合学力調査を採用しています。総合学力調査の結果に合わせた復習問題がドリルパークで自動生成され、児童一人ひとりの苦手を解消する問題に取り組んでもらっています。

東山校長先生:
 これまでは、総合学力調査の結果について、教師が児童一人ひとりの結果を分析し、その内容に合わせた課題をプリントなどで出していました。しかし、教師によって分析のしかたがまちまちなので、客観性の面で課題がありました。しかしAIドリルなら、子ども一人ひとりに合う問題を短時間で生成し、出題してくれます。シンプルな言い方ですが、非常に便利で助かっています。


一人ひとり違う問題に取り組みながら、自分にとってベストな学びを追求することで、学習に「向かう」ことができる。

野坂先生 
また、7月の保護者会でも、総合学力調査の成績票をお見せしながら面談を実施しました。「理解が浅い単元はタブレット端末を使って復習しています」とお伝えすることで、保護者の方の安心にもつなげるようにしています。

1回15分のICTミニ研修で、教師らの主体的な学びを実践


東山校長先生:
子どもたちの主体的な学びを支援するには、教師も学び続けることが必要だと考えています。本校では、ICT利活用を中心テーマとした「クリエイティブタイム」という15分間の研修を週2回実施しています。授業に取り入れやすいICTのスキルを学んだり、子どもたちに向けて実践したことを発表したりしています。先生方の中にはICTが苦手な人もいますが、15分という短い時間なので、無理なく知識を吸収してくれています。
 

「1回15分×週2回」という無理のない時間設定のため、先生方は負担感なくICTスキルを吸収・共有できる。

ICTだけでなく、学びに対する考え方に関してもマインドチェンジが必要です。先生自身も、小学校から高校まで一貫して「教わる」タイプの授業を受けてきているので、「子どもが自ら学ぶ」これからの学びのスタイルに慣れていません。これからは、子どもが学びに向かっていれば、話をしてもよいし、席を立ってもよいのです。そこで、学校経営方針の中に「めざす教師像」という項目を盛り込み、「学び手を育てる」という吉津小のスタイルを時間をかけて共有しています。

野坂先生: 
「学び手を育てる」という考え方があれば、子どもの行動を見る視点や、かける言葉も変わります。例えば、1年生の子どもがドリルパークで2年生の漢字を学習してきたら、「あなたはこの漢字を自分で選んで勉強したんだね。素敵だね」と声かけをすることで、子どもは主体的に学ぶことを楽しいと感じるようになります。


「『学び手を育てる』という観点を持つことで、子どもへの声かけも変わってきます」と野坂先生。

――今後、どんな形で子どもたちの学びを支援していく予定ですか?

東山校長先生:
子どもが学びに「向かう」には、多様な選択肢の中から自分が楽しいと感じる学び方をつかんでいくことが必要です。主体的な学び手を育てるために、ミライシードなどのICTツールも当たり前の選択肢として提供できるよう、私たち教師も積極的に学んでいきたいと思います。

【編集後記】

週2回のクリエイティブタイムには東山校長先生も出席し、発表も行うそうです。さらに、吉津小のホームページのために記事を頻繁に書き、アップもしています。校長先生が自らICTを積極的に使いこなそうとする姿勢に刺激を受け、先生方の間にも「新しいスキルを学んで授業に活かそう」というアクティブな空気が流れています。子どもも先生も学びに「向かっている」姿が印象的でした。

撮影/株式会社 デザインオフィス・キャン 兒嶋彰 取材・文/橫堀夏代

※取材の内容は2023年6月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。

■学校プロフィール 
所在地:京都府宮津市
学校名:宮津市立吉津小学校
生徒数:58人
1クラスの人数:6人〜15人
特色:宮津市教育委員会から「令和3・4年度『ICTを活用した宮津の新たな学びの創造実践校』」、および京都府教育委員会から「令和3・4年度『学びの深化プロジェクト』実施校」の指定を受け、ICT利活用とあわせて児童を学び手として伸ばす研究に取り組んだ。2023(令和5)年度も引き続きICT利活用に力を入れ、児童が主体的に学ぶための施策を展開している。
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