低学年でも簡単に操作できるミライシード。
クラス全員が、自分を表現しながら授業に参加できています。

——熊本県宇城市立豊野小学校

教育DXストーリー

主体的な学びは「好きになる」から始まる
楽しさや好奇心を促進するICTの魅力

宇城市立豊野小学校では、学びの前提として、子どもたち一人ひとりが自分らしく過ごしながら、互いを理解して助け合える関係性を長年に渡り構築してきました。失敗を恐れずに積極的に発言できる環境の中でICT活用を推進することで、子どもたちがより自分の意見や考えを表明し、主体的で深い学びに発展できるようになったと言います。校長の遠山 光昭先生、吉田 沙也加先生にお話をうかがいました。

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合言葉は「好きになるからはじめよう」

遠山校長先生:
本校では、長年「自他を尊重し、より良く生きるための自己表現を主体的に目指す」という教育目標を掲げてきました。そのベースとして、人権教育に力を入れています。子どもたち一人ひとりが自分の悩みや抱えていることを先生と相談しながら安心できる状態でクラス内で発表し、それに対してみんなが言葉を返していくというものです。そのため、子どもたちには自分をそのまま出しても大丈夫だという安心感があると思います。
 
実は、ここは私の母校でもあるのですが、これは私が子どもの頃から、つまり、もう何十年も続いている伝統的な取り組みです。一人ひとりが自分らしく過ごしながら、互いを理解して助け合える関係性ができている。どの学年も、失敗を恐れずにのびのびと積極的に発言できる環境が整っていると思います。


「運動会は保護者だけでなく、祖父母も地域の人も応援にくる。学校に対する関心が高い地域です」と遠山校長先生。

遠山校長先生:
そのような安心できる環境を前提として、2022年度からは、「好きになるから始めよう」を合言葉にしています。先生も子どもたちも「この仕事好きだな」「この授業好きだな」と思えるような授業づくりを進めているのです。
 
好きになるためにはもちろん楽しいほうが良いのですが、ただその場だけを楽しく過ごすという意味ではありません。先生たちは、「楽しい授業とはなんだろう」と常に考えながら取り組んでくれていると思います。キーワードとして、「ワクワク」という言葉もよく出てきますね。


子どもたちは互いのことを理解し、自然に助け合いながら話し合いを進めている。その背景には毎年行われている人権教育がある。

遠山校長先生:
本校では昔から町の人たちがいろいろな形で授業に参加してくださっています。地域の習字の先生は毎週ボランティアで書写の授業をしてくださいますし、イラストが得意な方、工作が得意な方、婦人会や老人会のみなさんなど、たくさんの方が学校に来てくださる。子どもたちは地域のみなさんに支えられて楽しく学んでいます。
 
本校のICT化は、このようなリアルな体験や安心できる人間関係のベースの上に進められてきました。そもそも熊本県はICT化が早く、宇城市も積極的に取り入れたのですが、これから見学いただくのは、県内でも先進的な地域である高森町から転任してきた吉田先生のクラスです。昨年度は情報教育担当、今年度は研究主任として尽力してくれています。

オクリンクやムーブノートで「思考力、判断力、表現力」を育む


――実際にはどのような授業が行われていますか。

吉田先生:
今日は理科の授業で、季節と生物について学びました。めあては「生物の様子は季節によってどのように変わるのだろうか」です。春についての授業をした後、タブレットを持って校庭に出て、一人ひとりが自分で1年間観察する木を決めて撮影しました。春夏秋冬、年間を通して観察するための最初の記録です。


4年1組の理科の授業風景。タブレットを持って校庭へ。春の花を撮影する子どもたち。


春夏秋冬の変化を観察する1本の木を決めてそれぞれが撮影した。写真左が吉田先生。


撮影した写真をオクリンクに貼り付け、日付と天気、気温も記入。季節ごとにストックしていく。1年がかりの記録だ。

吉田先生:
生徒たちが主体となる「楽しい学び」を実現するためには、「なぜ?」と疑問を持つことで「ワクワク」する知的好奇心が動き出すことが必要です。そして、「なるほど」と一人ひとりが学習した内容を十分に理解し、「わかった」という実感や達成感が生まれる授業を目指しています。ICTを使うことでそのような場面を作りやすくなりました。
 
かけ算の単元では、九九を暗唱して覚えるだけでなく、ムーブノートやオクリンクを使いながら理解を深めました。かけ算の文章題を子どもたち自身が作り解き合うことで、式の意味を深く考えることもでき、思考力を育むことができたと思います。


8の段で、かけ算が用いられる日常の場面を提示(8の段にならない場面も混ぜた)。オクリンクでカードを配布し、場面を選択して作問活動をした。


グループで話し合いながら、それぞれが作った問題をムーブノートで分類することにも挑戦。

吉田先生:
ミライシードは、低学年でも簡単に操作できるのでよく使います。今は4年生の担任ですが、2年生を担任していた時もみんな楽しみながら操作できていました。ドリルパークは知識技能を習得させるため、オクリンクやムーブノートは、思考力、判断力、表現力を育むために役立っています。
 
子どもたちにとって、自分を表現できる場所があるのはとても大事なことです。自分が工夫して作ったものを友達に見せたい気持ちがとても強いので、共有できる機会を取れるように授業を組み立てています。
 
上手に長い文章が書けなくても、写真を撮ったり短い言葉で書いたりすることはみんなできますし、提出ボックスをみんなに見えるようにしておくと、早く提出できた友達のものを参考にできるので、提出しない子がいなくなりました。ICTを使うことで、みんなそれぞれが自分を表現しながら授業に参加しているという意識づけにもなっていると思います。

楽しさや好奇心を大切に、学校全体でICT活用を進めたい


——子どもたちにはどんな変化がありましたか。

吉田先生:
子どもたちに意識調査をすると、自分の考えを表現した上で、グループや学級全体で考え話し合えたことや、より深く理解して次の学習への意欲につなげられたことがわかりました。これらは、ICT機器を使って友達と共に学び合い、楽しい授業ができた成果だと思います。





遠山校長先生:
吉田先生は、ICTに関する知識や技術の引き出しが多いだけでなく、それ以外にも、動物園や博物館との連携や、地元の農業指導員さんや元区長さんを授業にお呼びするなど、外部との連携も大変活発な先生です。これからも、学校全体の研修などで、その技術やアイデア、つながりなどをぜひ先生たちに共有してほしいと期待しています。
 
今年度の合言葉も、「続・好きになるから始めよう」としました。そして、「誰かのために」という言葉も添えました。ただ「自分のために」だけでなく、「誰かのために」頑張ることは、人に大きな力を与えてくれます。誰かのために頑張ろうと思えるのは、誰かのおかげでもあります。そのような意識を持っていきましょう、と先生にも子どもたちにも伝えています。
 
私自身はあまりICTは得意ではないのですが、子どもたちの様子を見ていると、ICTは子どもたちの楽しさや好奇心を促進して主体性を高めてくれるものだという手応えを感じています。これからもリアルな体験や人間関係も大切にしながらICT活用を進めていきたいですね。

【編集後記】

豊かな自然に囲まれた農業地域でのびのびと育った子どもたち。オクリンクやムーブノートで活発に意見を書き込むだけでなく、リアルな発表や発言でもとても積極的でした。取材スタッフにも興味津々で、「昼休みにサッカーやろう!」とベネッセのスタッフに声をかけるなど、普段から地域の大人たちとの交流が多いことがうかがい知れました。

撮影/株式会社 デザインオフィス・キャン 加藤武 取材・文/太田美由紀

※取材の内容は2023年4月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。

■学校プロフィール
所在地:熊本県宇城市
学校名:宇城市立豊野小学校
生徒数:155人
1クラスの人数:18人〜30人
特色:全学年の施設一体型小中一貫校。2022年度には「学校情報化優良校」の認定を受けている。2023年度の研究主題は「学びに向かう力を育むための“楽しい”授業の創造」。「地域と触れ合い、個性を発揮する人づくり」という宇城市教育大綱の基本理念にもあるように、日常的に地域の人たちが学校に入る場面が多い。
  • 小学校
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