「学ぶこと」を「好き」だと思う児童を増やしたい。
その一助になるのが、ICTです。

——京都府宇治市立菟道第二小学校

教育DXストーリー

学校、教育委員会、ICTサポータの三人四脚で
子どもたちの力を「見える化」
たしかな成長につながる授業へ

京都府宇治市立菟道第二小学校によるミライシード活用の取り組みをご紹介しています。

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ICTで、できることが増える。だからワクワクする

俣野校長先生
本校は教育目標の一つに「進んで学び、自主的・主体的に生きぬく児童の育成」を掲げています。キーワードは「進んで」「自主的に」「主体的に」です。まずは、「学ぶこと」を「好きだ」と答える子どもたちを増やすこと、そのために質が高く、楽しいと感じられる授業づくりを行うことが、本校の大きな目標と言っていいでしょう。

この目標を達成するために、ICTは欠かせない存在です。例えば、主体的な学びを目指すうえで、どんな授業でも、児童によく情報を比較させる場面があります。従来教科書や資料集だけを使っていたところにICTが加われば、時間や空間に制約されず、より多様な情報を比較することができます。

ICTだからこそできることがある。そしてそれが、よりよい教育の充実につながる。だから私はICTをとてもポジティブなものとして捉えていますし、これからICTがどんどん進歩していく将来を考えると、「あんなことも、こんなこともできるようになるかもしれない」と、ついワクワクしてしまいます

俣野校長先生。授業を見学するのが好きだそうで、いつもどこかの教室で、授業の様子をニコニコと眺めている。

——GIGA以降、どのようにICTの活用を深められましたか。
俣野校長先生:
最初はとにかく使ってみることからでしたね。ICTは、得意な人はどんどん使いますが、苦手な人はどうしても尻込みします。そのままでは、クラス間で活用の差が開いてしまう。ですので、その差をいかに埋めていくかが課題だと考えました。

例えば若手教員とベテラン教員が一緒になって教材研究をする。ちょっとした時間に、ICTについて話す。こうした「みんなで活用する」雰囲気づくりを通じて、より多くの教員にICTに慣れてもらいました。

また学校全体にICTの活用を普及させるリーダーが必要だと考え、情報部主任を要に、その役割を担う教員を各学年に位置付けました。そして今回、市の研究員制度をチャンスとして捉え、教育研究員としても活動している奥田先生に研修への参加、それからICTサポータとのつながりを通じて得た情報を学校全体に広げてもらっています。

活用が深まる中で、今重視しているのは、教員が児童の力や学びの過程を把握するための「見える化」です。宇治市教育委員会では、例えばモチベーションといった、非認知能力の育成が大変重視されています。一方で、非認知能力は教員一人では簡単に把握しづらいもの。そこをICTの力を借りて「見える化」できれば、授業改善や評価において、教員の大きな助けになるでしょう。

エビデンスがあると、授業づくりへの意識が変わる

——菟道第二小学校では今、奥田先生が中心になって「R-PDCA」を活用されていると伺っていますが、教育委員会ではどのような働きかけを行いましたか?
佐竹指導主事
GIGAが始まった当初は、新学習指導要領のスタート、そしてコロナ禍での教育と、学校現場は非常に大変な状況で、GIGAへの対応が後手に回りかねない状況でした。ICTの活用は今後ずっと教育の日常的なツールになっていくでしょうから、市として何もせずにいるわけにはいきません。何より学校の先生方、ひいては子どもたちが困ってしまう。どのようにICTを効果的に活用できるかを模索していました。
そこで、いくつかある対応の一つとして、市の教育研究員であった奥田先生に、R-PDCAを活用した授業づくりのロールモデルをつくってもらおうと考えました。そして成果を検証し、市内の他校へも活用を促していくつもりでした。

宇治市教育委員会 佐竹指導主事。菟道第二小学校でR-PDCAを活用するきっかけをつくった。

奥田先生:
もともと、教育研究員同士の交流会で、佐竹指導主事とはよく顔を合わせていました。R-PDCAの導入以外にも、市の研修や先進校の授業見学、ICTの優れた活用事例の紹介など、様々なサポートを提供していただいています

例えば、佐竹指導主事のご紹介で、ある中学校の授業を見学に行ったことがありました。そこでは子どもたちが、授業中にチャットでやり取りをしていたんですね。一見静かな授業に見えて、実は子どもたちはとても活発に意見を交換している。こういうやり方もあるのかと、とても勉強になりました。佐竹指導主事は、こうした刺激になる情報やサポートをいつも発信してくれます。

奥田先生。R-PDCAに限らず、菟道第二小学校のICT活用全体を率先して深めている。

——R-PDCAを活用した授業づくりについて、ご紹介ください。
奥田先生:
R-PDCAは、簡単に言えばエビデンスにもとづいて子どもの資質・能力向上をめざすプログラムです。まず「アクティブ・ラーニング行動調査」というアンケートを通じて、主体力や対話力など、子どもの非認知能力を測ります。その結果をもとに教員が伸ばしたい力を設定すると、教科に合った指導案やワークシートが自動で提案され、かつICTサポータからも様々な情報提供を受けられます。
私の学級の場合、伸ばしたい力として「資料活用・引用力」「学習改善力」「目標決定力」の3つを設定しました。そのうえで、単元が始まる1~2週間前から都度ICTサポータと打ち合わせを行い、単元に適したICTの使いどころや、タブレットで活用できるフォーマット、全国の先進事例などを紹介してもらったうえで授業づくりに臨んでいます。

ICTサポータが提供した、授業で手軽に活用できるワークのフォーマット。

——R-PDCAを活用するメリットはなんでしょうか。
奥田先生:
第一に、子どもたちが感じていることを見える化できる点が挙げられます。私たち教員も、子どもたちの意識を把握しています。ただ実際にアンケートの結果を数字で見ると、教員の感覚とは意外とギャップがありました。普段あれだけ発言しているのに、目標決定力でこんな自己評価をつけるのか、という子もいました。

次に、見える化を通じて、授業づくりへの意識が変わりました。例えば私は子どもたちの回答をもとに、目標決定力を伸ばすべき力に設定しましたが、この力を伸ばすには子どもたちが自分で目標を決められるような授業の導入を考える必要があります。結果として、授業のねらいの伝え方や、子どもたちが考える時間や場面の構成を工夫するようになり、声かけの仕方も変わりました。

最後に、ICTを効果的に活用する頻度が増しました。これは特に、ICTサポータが教員が計画した授業の内容に即して、授業で使えるフォーマットを用意してくれたからでしょう。もし自力でツールを選び、自分でフォーマットを用意しなければならないとしたら、今ほどICTを活用している余裕はなかったはずです。

もちろん、フォーマットを自分でアレンジしたりすることもあります。ただベースとなる部分を複数の学校の様子、授業を知っている専門的な視点から用意してくれたのは、非常にありがたかったです。

——「アクティブ・ラーニング行動調査」は年に3回実施するそうですが、その後、子どもたちの自己評価に変化はありましたか。
実は3回目で、軒並み大きく伸びました。伸ばそうと決めた3つの力すべてが、です。実際、子どもたちを見ていると、授業中に発言する子が明らかに増えました。今日の授業でも、子どもたちが自分からめあてについてどんどん発言しました。子どもたちの力は伸びたと実感できていますし、私自身、「こうすればICTで効果的な授業ができる」という型がわかって、大きな収穫を得られたと感じています

実際の授業の様子。発言できるチャンスがあると、多くの児童が率先して手を挙げていた。

サポータの支援は、スタート地点に立つうえで必要不可欠だった

——ICTサポータとは頻繁にコミュニケーションを取られているのですか。
奥田先生:
そうですね、定期的な打ち合わせのほかに、来校いただいたときはよくICTの活用についてアイデアを伺っています。

他校を含めて、多くの教員に共通する悩みだと思いますが、ICTを「使いたい」と思っても「使い方がわからない」、だから使わないんですよね。どう使うか悩むくらいなら、今まで通りの授業でいいと思う教員が多いし、私も当初はそうした方がうまくいくと考えていました。

でも、ICTサポータがいると、「使ってみる」スタート地点にすぐに立てる。そしてもっと使ってみよう、こんな授業もやってみたいと、自信をつけながら前に進める。だから子どもたちの力もつく。サポータがいることで、本当にいいスパイラルができたなと感じています。

サポータ:
我々も様々な自治体に伺っていますが、「ある程度ICTを使うようになってきたが、効果的に使えているかはわからない」という課題を抱えている学校が多いと捉えています。奥田先生のお取り組みを支援する中で、この課題を解決する一つの道筋が見えたようで、嬉しく感じています。

菟道第二小学校を支援する、ICTサポータの2人。奥田先生や校長先生はもちろん、教育委員会とも日ごろから密にコミュニケーションを取っている。

——教育委員会の方でも、ICTサポータとはコミュニケーションを取っているのですか。
佐竹指導主事:
定期的に打ち合わせを行い、情報共有をしています。また、月に1回市内の各校の代表者と一緒に集まっていただき、ICTサポータから先進的な事例を共有してもらっています。

教員は授業づくりこそが仕事であって、ICTに関する設定やトラブルへの対応は本質的な仕事ではありません。ICT特有の機器や設定のトラブルで先生方が右往左往してしまうのもよくわかります。だからこそ、授業への提案はもちろん、その前提となる環境づくりの部分までサポートしてくれるICTサポータは、GIGAスクール構想や教育DXに関わる取り組みの推進には不可欠だと思っています。市としては、こうしたICTサポータと蓄積してきたノウハウを市全体に共有していきたいと考えています。

奥田先生:
教員が安心して、ICTを使えるようになるんですよ。ICTサポータがいなかったら、不安なまま使うことになるでしょうし、その不安が子どもたちにも伝わったでしょう。

——授業について、今後の展望をお聞かせください。
奥田先生:
子どもたち全員の、学力の成長を保証できる授業づくりが目標です。それには教員からのインプットだけではなく、児童からのアウトプットも必要です。

その一つの手立てとして、今回の取り組みを通じてICTが効果的だと思いました。今後も教育委員会やICTサポータと協力して、多くの子どもたちが興味を持って臨める授業づくりを模索していきたいです。

【編集後記】

校長先生も、奥田先生も、佐竹指導主事も、ICTサポータも、取材中に揃って「可視化」「見える化」というワードをよく使われました。学校と教育委員会、そしてサポータと、それぞれ立場こそ違えど、子どもを正しく把握し、よりよい教育を実践し、子どもの育成に携わりたいという思いは同じであるのがよくわかりました。だからこそ、コミュニケーションが密になり、よりよい取り組みができているのでしょう。

撮影/山口真一(シンイチ)・高瀬八一 
取材・文/株式会社オンソノ 鈴木康介

※取材の内容は2023年12月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。

■学校プロフィール
所在地:京都府宇治市
学校名:宇治市立菟道第二小学校
児童数:562人
1クラスの人数:25人〜35人
特色:学校教育目標に「希望教育」を掲げ、特に「進んで学び、自主的・主体的に生きぬく児童の育成」に力を入れる、宇治市の公立小学校。2023年度から、5年生の学級で、R-PDCAの活用を始めた。
  • 小学校
  • 公立
  • 主体的・対話的で深い学び
  • 協働的な学び
  • R-PDCA

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