個別最適な学びは目新しいものではありません。
AIドリルは、優れた教師がやってきたことの再現を目指していると思います。

——岡山県 大島みたけ学園 笠岡市立大島小学校

教育DXストーリー

ICTで個別最適な学びを実現 
モニタリングで見えてきた子どもたちの姿

笠岡市立大島小学校では、個別最適な学びによる基礎基本の定着を目指して、全校児童がAIドリル「ドリルパーク」を活用する時間を確保して取り組んできました。一人ひとりの基礎基本の力が向上したことに加え、ログデータからはこれまで見えなかった子どもたちの姿も見えてきたと言います。校長の井上徹先生、蔵本紀子先生(主幹教諭、学力向上担当)、藤本真弓先生(今年度1年・昨年度3年担任)にお話をうかがいました。

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教育の本質は「幸せに生きる力をつける」こと

井上校長先生:
教育の本質は、子どもたちに「幸せに生きる力をつける」ことだと私は考えています。本年度から小中一貫の「大島みたけ学園」もスタートしました。義務教育9年間に、すべての子どもたちにその力をつけていきたい。人間関係づくりや各教科等の指導について考えるときにも、「幸せに生きる力をつける」ためにはどうすればよいのか、という視点に立ち返って考えようと職員会議等で繰り返し伝えています。

「教育の本質は、子どもたちに『幸せに生きる力をつける』こと」と井上校長先生。

井上校長先生:
「幸せに生きる力をつける」ためには様々なことが必要ですが、本校が特に大切にしていることが二つあります。一つは良好な人間関係づくり、そしてもう一つはやはり学力です。とりわけ、基礎基本の定着だと考えています。学力は、よりよく幸せに生きるためのベースとなります。
 
この二つは深く関連していて、基礎基本が定着して授業がわかるようになると、学校適応感の向上につながり、人間関係づくりのベースにもなります。自分の考えが友だちの役に立っているという手応えは自己有用感にもつながりますから、協働的な学びや異学年交流を積極的に行って、子どもたちが認め合い、支え合う場面を増やしています。

タブレットを使って学ぶ場面でも、子どもたちが自然に教え合う様子が見られる。

井上校長先生:
その「基礎基本の定着」の手立ての一つが、ドリルパークの導入です。本校の週時程は、時間的にあまり余裕がありませんでしたが、教務主任の蔵本が前任の村上裕子教頭(現、笠岡市立北木小学校長)と話し合いながら時程を見直してくれました。年度の途中での見直しです。提案書が出てきたときは、新たなチャレンジが始まる期待感でワクワクしましたね。

蔵本先生
ドリルパークに取り組む時間をどう確保するかを数パターン提案し、「朝学習の時間に1回15分、金曜日の掃除時間をカットしてそこで15分、AIドリルに取り組む時間を週30分以上確保する」ということになりました。教職員全体への説明時には、紙媒体ドリルとAIドリル学習の比較表を校長が作成し、その違いを明示し後押しをしてくださいました。

教職員全体への説明時に使用した紙媒体ドリルとAIドリル学習の比較表。比較表は井上校長先生が作成。

 蔵本先生:
当初は戸惑う先生もいましたが、結果的には、「子どもたちの取り組みがプリントの時よりもずっとよくなった」と驚いていました。AIドリルは、特別支援学級に在籍している子どもたちのニーズにも合ったようです。
 
井上校長先生:
どんな取り組みも、その成否は子どもたちの姿が教えてくれます。「子どもたちが積極的に取り組めないようならいつでもやめればいい、まずはこの形で取り組んでいこう」というスタートになりました。

学習ログのモニタリングで変わった見取りと声掛け

蔵本先生
AIドリル導入において、クラスによる差が生じないようにするため、子どもたちの取り組みの様子をモニタリングしました。ログデータを出力して、校長と教頭と私で分析すると、これまで見えていなかった子どもたちの姿がデータから浮き彫りになりました。それを各担任に伝えるようにしたのです。

「子どもの向上的な変容は学習面にも生活面にもありました」と口をそろえる蔵本先生と藤本先生(写真左より)。

井上校長先生:
AIドリル学習の足跡を見取ることで、一人ひとりの学び方の個性や意欲が見えてきます。同じ100問でもそれぞれの興味関心により、学習状況や進捗状況が異なります。教師側も、ログデータで気づいたことを日々の指導や授業改善に生かせるようになりました。それは、AIドリル導入の一番大きなメリットだったと思います。

分析した結果を各先生へシートで共有し、該当の児童にはモニタリングと声掛けを依頼する。

藤本先生:
私は昨年度、3年生の担任でしたが、紙の自主学習だと積極的に取り組みにくい子がAIドリルでは自主的に取り組むようになり、最初は解き直しをしていなかった子も、声を掛けると解き直しをするようになりました。普段の授業では目立たなかった子もコツコツ頑張っているようでした。取り組むにつれ、全体的に正答率も上がっていることがモニタリングでよくわかりました。

正答率の向上だけでなく、「算数に使うと便利だと思う」と答える児童も増加。(ベネッセが分析し、学校へ提出にした資料より抜粋)

藤本先生:
粘り強く取り組む姿勢は、AIドリル以外の学習だけでなく、生活場面にも見られるようになりました。それまでいろいろな場面で諦めがちだった子がコツコツと長時間取り組んでいたので、「あなたが一番時間をかけて取り組んでいたよ」と何気なく伝えたら、係の仕事にも前向きに取り組むようになりました。うまくいかなくても諦めず、違うやり方でやってみようという意欲にもつながっています。

また、勉強が得意でどんどん先に進み、中学範囲の問題に取り組んでいる子もいます。私たちが作成するプリントでは学年を超えて先取りする準備は難しいので、そういう使い方もあるのかと驚きました。
 
井上校長先生:
ある子は正答率が30%程度でしたが、間違えた問題に時間をかけて何度も挑戦していることがわかりました。これはモニタリングをして初めてわかったことでした。その子は以前から学校生活への適応が心配な子でもありました。
 
「この子は他の誰よりも時間をかけてAIドリルに取り組んでいる。わかりたいという思いが強いんだね。」
 
感動して担任にそう伝えると、担任がその子に「頑張って取り組んだんだね」と声を掛けました。その子はうれしそうに、ボソッと「じゃろ~(そうじゃろ/岡山弁でそうだよの意)」と答えたそうです。このような声掛けはAIにはできない。教師にしかできません。

ICTなら時間も空間も楽に超えられる

井上校長先生
AIドリルというツールを手にしたことで、先生たちはこれまで以上に、子どもの学習状況をつぶさに知ることができ、適切な声掛けにつなげられるようになったと思います。その子の取り組みを認め、寄り添って声を掛ければ、「自分のことを見ていてくれた」というポジティブな経験になり、自分のよさや可能性に気づくきっかけにもなる。このようなサイクルがプラスに働いて、子どもたちが変わっていく手応えを感じています。

原田先生の6年生算数の授業の様子。タブレットやモニターも使うが、ノートに書くことも選択できる。ハイブリッドな授業スタイル。

必要な時には、先生が子どもの横にすぐ入って一緒に考える。

井上校長先生:
優れた教師は昔から、たとえ30人学級の一斉授業でも、1対30ではなく、1対1を30セット行うという思いで取り組んできました。つまり、個別最適な学びは目新しいものではありません。つまずいている子にはつまずきの解消につながる問題を、達成できた子には発展的な問題を、その子に合わせて可能な限り個別に最適な問題を用意してきたはずです。AIドリルは優れた教師がこれまでもやってきたことを目指しているのだと思います。
 
ICTの素晴らしさは、さらに時間も空間も楽に超えられることです。家庭でも、一人でも、仲間とも取り組めます。そしてそのログデータが取れる。そのデータをうまく活用できるかどうかは、私たち教師にかかっているのです。

【編集後記】

「大島地区は、学校や子どもたちに対してとても協力的で、地域の人たちがゲストティーチャーとしてもよく来校してくださるんですよ」と井上校長先生。海の近くにある御嶽山にちなんで、子どもたちは「みたけっこ」と呼ばれ、地域の方々から愛され育まれています。豊かな人間関係や美しい自然環境に恵まれ、リアルな体験が多い学校だからこそ、タブレットでの学びとの両輪で子どもたちがのびのびと育っていくのだと思いました。

撮影/株式会社 デザインオフィス・キャン 加藤武 取材・文/太田美由紀

※取材の内容は2023年5月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。

■学校プロフィール
所在地:岡山県笠岡市
学校名:大島みたけ学園 笠岡市立大島小学校
生徒数:198人 令和5年5月1日現在
1クラスの人数:18人〜37人
特色:笠岡市教育委員会は小中一貫教育を推進。小1〜小4までを基礎基本形成期、小5〜中1を習熟・接続期、中2〜中3を充実・発展期として、ブロックごとの小中学校が9年間を通じた教育課程を編成している。ICT環境整備にもいち早く取り組んできた。2022年のドリルパークの活用率は90%を超えた(長期休みを除くアクティブユーザー数)。
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