子どもは得意な表現方法を活かして発信方法を自己選択。
教師は見取りと意味づけが行いやすくなりました。

——新潟県長岡市立 表町小学校

教育DXストーリー

対話を通して合意形成するプロセスをICTが促進
ダイナミックなプロジェクト学習が可能に

長岡市立表町小学校では、「ホンモノ体験×ICT活用」で「子どもと教師の『〜したい』を具現する学校」を目指してきました。体験や活動を大切にしながら、ICTも利用して子どもたちの声をていねいに拾い、それに応えるように新しいアイデアを積極的に取り入れた授業を続けています。校長の山岸 力先生、教頭の渡辺 登先生、水谷 徹平先生(6年生担任、研究主任)、彦坂 知道先生(6年生担任、情報主任)にお話をうかがいました。

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子どもと教師の「〜したい」を具現する学校

山岸校長先生:
この4月に校長として表町小学校に赴任したばかりですが、そのときに最も感じたのは、教師が主体性を持って仕事に取り組んでいるということでした。前任の校長先生が特色ある学校経営をされていたので、意見を出しやすい雰囲気があり、互いを認め、手を差し伸べ合いながらそれぞれの学級経営をしています。
 
子どもたちは間近に見る大人の姿に感化されます。昨年度までの「子どもと教師の『〜したい』を具現する学校」という目標を教師が実践してきたことがとても大きいと思いますね。


山岸先生は校長赴任前、新潟県教育委員会で教師の働く環境を管理してきた。「さまざまな学校を見てきたが、表町小学校の実践に驚いた」と話す。

山岸校長先生:
本校の教師はみんな端末を使いこなしていますから、研修などもペーパレスで行われています。使いこなすことで仕事も楽になるという実感があるようですね。私もこれから使いこなしていかなければと思っているところです。

渡辺教頭先生
前校長のもとで、ICTを活用して効率を上げるだけでなく、教育的に意義のないものはとことんカットする大胆な改革が行われました。子どもだけでなく教師の「〜したい」も叶えるためには、教材研究できる時間を最大限にする必要があります。職員会議などもかなり削減しました。
 
――子どもたちの「〜したい」を叶えるためにはどんなことをされているのですか。

渡辺教頭先生:
3年生以上は毎日、自己の学びや成長を振り返る「リフレクションシート」にタブレットで記入しています。教師が設定したテーマに対して、子どもたちがリフレクションを記入し、教師がコメントを返しています。


子どもたちは10分程度で記入する。教師のコメントもあり手間も増えるが見取りや価値づけなどに役立ちメリットが勝るという。


渡辺教頭先生:
「今日の総合はどうでしたか」「今楽しいこと」「今悩んでいること」などのテーマに対し、子どもたちは本音で書いてくれます。担任も子どもの本音を見取れるようになり、丁寧な支援や声かけができますし、授業改善にもつながっています。

マラソンや遠泳など学校の伝統的な行事も、リフレクションの声を生かして練習や実施の方法を改善したことで、子どもたちがとても主体的に取り組むようになりました。


「自分の意見を大事に聞いてもらえると感じた子どもたちは、友達の意見も大切にする。問題行動も減少しています」と教頭の渡辺先生。

ICTで自己表現の幅が広がり、個人の力を存分に発揮できる

――実際にはどのような授業が行われていますか。

彦坂先生:
先ほどの道徳では、写真で学校内のいくつかの場面を取り上げ、「どんな心が見えますか」というテーマで進めました。例えば、6年生が1年生に読み聞かせをしている場面を見せてオクリンクでカードを送り、その時の6年生の気持ち、1年生の気持ちを表情のマークや文章で表現して提出ボックスに入れてもらいました。


彦坂先生の6年生道徳の授業風景。写真を見てその時の気持ちを想像し、表情のマークや言葉にしてオクリンクで共有する。

彦坂先生:
表情マークを使うと子どもたちも選択しやすく、表情では足りない部分は文章で捕捉することもできます。意見を並べたときにもわかりやすい。挙手や指名での発言だと全員の意見は聞ききれませんが、オクリンクを使うと全員の意見を受け止めることができます。また、それにともない、全員が積極的に授業に参加するようになりました。明らかに授業のスタイルが変わったなと思います。


学校の方針として、授業中に立ち歩いて友達と相談することもOK。互いに相談し、助け合う。

彦坂先生
「リフレクションシート」の効果もとても高いですね。最初は「〜して楽しかったです」というような感想が多いのですが、書くたびに表現力も文章の構成力も高まります。文字数で言えば6年生になる頃には10分で1000文字くらい書けるようになる子もいます。簡単に修正できるので推敲もしやすい。自分の考えや意見などを文章で表現することを毎日していますから、思考・判断・表現力も学年を追うごとに確実に高まっています。


全国標準学力検査の結果における低学年・中学年・高学年の全国比において、点線の全国平均に対して思考・判断・表現が顕著に伸びている。

水谷先生:
新潟県は以前から、生活科や総合学習など、体験や活動を中心とした学習が盛んな地域です。表町小学校でも、それぞれに意見を持ち寄り表明し、合意形成を繰り返しながら活動を進めていく「プロジェクト活動(学習)」の土台がしっかりあります。これまでにも総合学習でさまざまな学びに挑戦しましたが、昨年度の6年生は「争いこえて」という活動に取り組みました。

基本的に子どもたちが考えて動き、教師はサポートという形で進めます。興味がある社会問題についてリフレクションに記述してもらい、テキストマイニングで分析すると「ウクライナ」「ロシア」などの単語が多く出てきました。
 
本校でも空襲で100名以上の命が失われていたことを知った子どもたちが、授業支援ツール で話し合い、戦争や平和についてリサーチを進めました。ショートムービーを制作し、イラストで表現し、市内の平和祈願祭で平和活動を発表し、ホノルルの小学校とオンラインで交流を行いました。

また、私自身は、2年生の話し合いの場で、オクリンクを使ったことで合意形成に至るまでのやり取りが視覚的にわかりやすくなったことが強く印象に残っています。

――具体的にはどんな場面ですか。

水谷先生:
2年生の生活科で、採れた野菜をどうするか話し合った時のことです。オクリンクを使って、意見ごとにカードの色を変え、理由をカードに記述して意見と根拠を記入しました。「家に持って帰りたい」は赤、「学校で食べたい」は青、「どちらもしたい」は緑です。


オクリンクのカードを意見ごとに色を分けて使用。クラスの中の意見がどのような割合なのかが分かりやすい。

水谷先生:
話し合いが進む中で、「持って帰りたい人の分は取っておいて、みんなで食べるのはどう?」という提案があり、全てのカードが同じ色になったときには歓声と拍手が起きました。収穫した野菜でピザパーティーをして、持ち帰ることもできました。

――ICTを学校で使うメリットをどのように感じていますか。

ICTは今までやってきたことをより円滑にしてくれる道具です。子どもたちは得意な表現方法を活かして発信方法を自己選択することができます。教師は見取りと意味づけが行いやすくなります。情報共有も円滑にできますし、合意形成もこれまで以上にできる。確実に自己表現の幅が広がり、個人の力を存分に発揮できるようになりますね。


「授業とは、子どもたちの間で学びが進み、自主的に活動している状態を教師が作っていくことだと考えています」と語る水谷先生。

授業を改善し、子どもたちが伸びていく手応えがやりがいに

——先生たちはとても熱心に授業を研究されていますね。

渡辺教頭先生:
無駄な業務を効率化して時間ができましたが、本校の教師はその時間を使って非常に熱心に研究に取り組んでいます。研究授業は全てのクラス(単学級6学年と特別支援学級で2022年度は7クラス)で年に1度行ってきました。
 
授業研究の話が始まると「次はこうやってICTを使ってみよう」「子どもからこんな意見があったからこんな改善はどうだろう」と盛り上がり、話し合いが止まらなくなります。なかなか帰ってくれないので管理職の立場としては困っているくらいです(笑)。昨年度、長岡市の教育研究論文で昨年の入選は優秀論文含めて9編だったのですが、そのうち5編が本校から出されたものでした。
 
山岸校長先生:
私は3年間、その論文を読む立場にいたのですが、優秀論文や入選論文は非常にレベルが高いものです。本校の教師たちは子どもたちの声を聞いて、授業を改善し、それによってまた子どもたちが伸びていく手応えを感じている。そこがとても素晴らしいと思います。
 
今年度は、私を含め5人の教師がこの学校に赴任しました。新しい気づきを出し合いながら、授業研究やICT活用がさらに深まることを期待しています。また、こうした取り組みの素晴らしさや子どもたちの様子を保護者の皆さんにもしっかりと伝えていきたいと考えています。

【編集後記】

「コピーってどうやってするの?」「長押ししたらできるよ」など、授業中、困っていることがあれば声に出し、得意な子が教えてあげるという関係性が教室のあちこちで自然に生まれ、お互いを認め、助け合いながら学びに向かう様子が見えました。給食の時間の放送や児童朝会、委員会なども子どもたちが主体的にオンラインを活用しているそうです。子どもたちの充実感は先生方のやりがいにもつながっていました。

撮影/株式会社 デザインオフィス・キャン 加藤武 取材・文/太田美由紀

※取材の内容は2023年4月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。

■学校プロフィール
所在地:新潟県長岡市
学校名:長岡市立表町小学校
生徒数:156人
1クラスの人数:20人〜32人
特色:長岡市のパイロット校として、先行して一人一台端末配備が進んだ表町小学校。授業でも行事でも、教師同士、教師と子どもたち、そして子ども同士の間で、互いに相手を認め合い、意見を聞き、対話を通して合意形成をするというプロセスが隅々まで徹底されており、ICTがそれを促進。教師と子どもの信頼関係は厚く、授業中も子ども同士で自由に相談や発言をしながら主体的に学びに向かう姿が印象的だ。
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