自分で考え、判断する生徒を育てたい。
授業以外にも生徒会、委員会で自主的に活用しています。
——栃木県真岡市立 中村中学校
固定された考えから脱却し、“自主”を育む授業実践へ
ICT活用が生徒の学びを変え、先生の働き方を変えた
20代〜30代の若い教員が50パーセントを超えている真岡市立中村中学校。ICT活用にあたっても、30代の教員が中心となり、学校全体を牽引しながら積極的に取り組んできました。また、ベネッセICTサポータとの連携も緊密で、操作方法にとどまらず、授業や校務での新しい活用法を共に開発しています。ベネッセICTサポータの金沢千浦同席のもと、校長の古澤英明先生、教頭の藤田健司先生、杉本丘人先生(保健体育)、青木千明先生(国語)、佐島隆史先生(社会)にお話をうかがいました。
固定された考え方から脱却し、自分で考える生徒を育てる
古澤校長先生:
私が本校に赴任したのは、コロナの影響で全国的に休校になっていた2020年4月のことでした。生徒に会えないまま新年度がスタートし、その後もしばらく分散登校が続きました。この状況において子どもたちに何ができるのか——。新しい学校のスタイルを模索し、確立していかなければなりませんでした。
本校の教育目標の一つに「自主」という言葉がありますが、このような苦しい状況でこそ、これまでの固定された考え方から脱却し、自分で考え判断できる生徒を育てたい。「自主」は生徒にとっても私たち教員にとっても必須のキーワードとなりました。
「一人一台のタブレットを配備した当初から、朝学校に来たらまずタブレットを出して手元に置くようにトップダウンでお願いしました」と古澤校長先生。
――先生たちはICT化についてどのような反応でしたか。
古澤校長先生:
ICTに対する意識は私の想像以上に高く驚きました。核となる教員が数人いたことも大きかったと思います。2021年4月にタブレットが配備されましたが、2年経った現在では、どの教科でも毎回授業の半分程度は使用しています。
私自身も、月に一度の校長講話をリモートで全校に配信してきました。合唱コンクールなどタイムリーなトピックについて、私の専門である理科の視点も絡めながらパワーポイントを使って話しています。クイズやアンケートもその場で集計してグラフにするなど工夫していますから、生徒は興味を持って聞いてくれているようです。ICTサポータの金沢さんに相談すると自分のアイデアを実現できるので、講話の準備をするのが楽しみです。
ICTサポータの金沢は、操作方法のサポートだけでなくタブレットを使った新しい授業の提案も行っている。授業中は生徒たちの操作のフォローも。
藤田教頭先生:
本校は若い教員が多く、20代〜30代が全教員の50パーセントを超えています。2021年度は1学期にICTサポータの金沢さんにミライシードの使い方をご提案いただき、研修を行ったところ、若手の先生たちが積極的にチャレンジを始めました。2学期以降は青木先生(国語)を中心に教員同士で授業参観をして相互に技術を高めました。苦手な先生も授業に取り入れるようになり、2022年度は、さらに深い学びにつながる使い方へと進化しています。
オクリンクを活用し、働き方改革&授業改善を実現
――授業の様子に変化はありましたか?
古澤校長先生:
大きく変わりましたね。以前は教師主導型で、教師が主体、生徒は受け身の授業でした。「自主」というには少し遠かった。今は子どもたちの気づきを大事にして、そこから学びの目的を見出すようになりました。前時までの蓄積から生徒が疑問を出し、タブレットを使ってさまざまな意見を共有しながら展開しています。かすかな気づきを持つ小さな声の生徒の意見も十分に取り入れられます。生徒の様子を見ながらフォローもできるので、生徒から「先生との距離が近くなった」という声が多く上がるようになりました。
左から藤田教頭先生、佐島先生(社会)、青木先生(国語)。「職員室の雰囲気がよく居心地がいい」と青木先生。教員同士の情報交換も活発だ。
青木先生(国語):
これまで、発表者の話を聞いたり、席を移動して話し合ったりしなければ友達の意見が分かりませんでしたが、オクリンクで全員の意見を共有することで気づきが増えたと思います。教員が指名するのではなく、生徒が「気になった人の意見とその理由」を述べ、リレー形式で授業を進められるようになりました。私が一方的に教えることはかなり減ったと思います。
学年末の1年生国語の授業、「みんなへ贈る言葉」では、各自がおすすめの本から印象的な言葉を抜き出して共有した。
生徒へのアンケートでも「ムーブノートを使い、拍手やコメント機能で交流」「ワークシートを写真に撮って提出ボックス(オクリンク)でお互い見せ合う」により理解が深まったという意見が多い。
――体育の授業でもタブレットを使用しているとお聞きしました。
杉本先生(保健体育):
保健の授業はもちろん、体育館では実技の時間も毎時間活用しています。体育が苦手な子にもとても効果的です。体育の目的は、体力を上げることではありません。生涯を通して運動を楽しめるようになってほしい。生徒たちが「誰とでも楽しめる」「やればできる」という運動有能感を感じられる授業を目指しています。
授業のはじめに生徒が記入した振り返りカードから数枚紹介して前時の振り返りをし、今日は何を意識してプレイをするかを共有します。生徒にとってはポイントが明確になりプレイの改善につながります。教員も事前準備で指導案をイメージしながら整理できますし、記録が残り振り返りやすいです。
動画や写真をオクリンクに貼り付け、提出ボックスへ。生徒が書き出したポイントをみんなで共有する。
杉本先生(保健体育):
結果的に自分自身の授業改善にもなり、生徒のコメントへのフィードバック、評定などがとても簡単になりました。1日30分以上は作業時間が短縮でき、働き方改革にもなりました。
生徒の振り返りカードからポイントを引き出し、分かりやすくキャッチーに言語化する。何を意識するかが明確になり、体育が苦手だった子もプレイを楽しめるように。
杉本先生(保健体育):
実は、最初は僕自身もオクリンクをどう使っていいか全くわからなかったんです。サポータの金沢さんに「こんなことがしたい」というと、他の学校の事例も含め、いろいろなアイデアを教えてくださいます。わからないことを気軽に聞ける人がいるのは本当にありがたいです。
金沢さん(ICTサポータ):
体育の授業でここまで使いこなしてくださったのは初めてです。杉本先生の授業は生徒たちがみんな楽しそうで、「これまでは体育が好きじゃなかったけれど好きになりました」という振り返りカードも見られます。
左から杉本先生(保健体育)、ICTサポータの金沢さん。「私は体育が苦手だったのですが、杉本先生の授業なら体育が好きになっていたと思います(笑)」と金沢さん。
社会では記述問題の正答率や、応用・思考・判断の力が上昇
――子どもたちの変化についてはいかがですか。
佐島先生(社会):
少人数で話し合うだけだと学力の高い子や知識の豊富な子に引っ張られ、個の意見が消えてしまいがちでした。しかし、オクリンクに自分の意見を書くことで、他の意見に流されることが少なくなりました。また、プリントではきちんとした文章を書かなければというプレッシャーがあったようですが、画面上だと箇条書きなどで気軽に記入でき、ハードルが下がったようです。これまで意見を書けなかった子も書けるようになってきています。
社会に関しては、記述問題の正答率も高くなりました。私は3年生の担当をしていますが、この学年は記述式、応用・思考・判断の問題に関して市や県の平均を下回ったことがありません。自分の意見を書き、他の人の意見を知ることで思考が深まっていると思います。
――授業以外での活用はありますか?
佐島先生(社会):
生徒会や委員会活動でも積極的にタブレットを活用しています。「いじめ防止サミット」を毎年開催しているのですが、タブレットを利用することでアンケートの回収率も上がりました。これは、生徒たちが授業で利便性を実感し、タブレットを利用したいと提案して実現したことです。生徒総会の資料の作成などもこれまで1、2時間かけてプリントしていたものがほんの数分で全校生徒にPDFで送信できるようになりました。
中村中学校の生徒たちはタブレットを使いこなし、授業以外の場面での利用を自主的に提案するまでになった。
古澤校長先生:
子どもたちも様々な場面で使いこなせるようになり、今ではデジタルタブレットは学校生活になくてはならないものです。子どもたちの様子は「自主」という教育目標にも近づいています。学校内活動には十分に浸透してきたので、これからは家庭に持ち帰った後の活用をさらに促進していきたい。セキュリティやモラルの問題もクリアしつつ、各家庭で個別的に使いこなせるようにして、学校の授業にそれを活かしたいと考えています。学校の学びはこれからますます面白くなると思いますよ。
【編集後記】
校長先生をはじめ、先生方は様々な場面でタブレットを活用していました。若い先生がベテランの先生にタブレットの使い方を教えたり、先生同士で話し合いながら新しい方法を取り入れたりしているそうです。「ICTサポータのアドバイスでやりたかったことが実現できた」という先生方の言葉も印象的でした。体育と国語の授業を拝見しましたが、「自主」の言葉通り、生徒のみなさんそれぞれが自らの学びに集中して取り組んでいました。
撮影/株式会社 デザインオフィス・キャン 加藤武 取材・文/太田美由紀
※取材の内容は2023年3月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。
所在地:栃木県真岡市
学校名:真岡市立中村中学校
生徒数:345人
1クラスの人数:31人〜35人
特色:真岡市全体でICTを活用した授業を推進し、「教師主体の教える授業」から「子ども主体の授業」への転換を図っている。市内小中学校児童生徒の理科における確かな学力の定着を図るため、科学教育センターを設置。中村中学校では現在、どの教科でも毎回授業の半分程度はタブレットを使用している。