変化に対応できる力を育むには、
まず教員が変化に対応できなくてはなりません。

——神奈川県 厚木市立南毛利小学校

教育DXストーリー

活用のポイントは“学年”という横のつながりを生かすこと
全教員が一丸となって臨む「学び合い」の授業づくり

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変わることを恐れずに、チャンスと捉えたGIGA1年目

足立校長先生:
ICTに限った話ではなく、今は何についても、激動の時代です。その激動の時代を生きる子どもたちに、何を身に付けてもらえばよいか。それが、変化に対応できる力、変化を恐れない力、そして変わる勇気を持つことだと私は考えています。

変化に対応できる力を身に付けさせるには、その見本である教員たちも当然、変化に対応できる力が必要です。私は常々、教員らに「変化を恐れてはいけない」と伝えてきました。3年前にGIGAスクール構想が始まり、本校が厚木市の推進モデル校に指定されたときも、私は「学校が変わるチャンスだ!」と前向きに捉えていましたね。実際、GIGAの取り組みはまったく新しいものでしたから。



足立校長先生。例年、年度初めに「学校全体のビジョンとは別に、個人個人のビジョンを持つ」よう全教員に伝えているとのこと。

———具体的には、どのように活用を深めていったのですか。
小林教頭先生:
推進モデル校は、年度ごとに実践事例をつくって 教育委員会に提出する必要があります。そこで、すべての教員に「必ず一つ以上の活用事例を提出する」ようお願いしました。

本校は規模が大きく、すべての学年に5クラスが設けられています。それもあって、もともと横のつながり、学年の中での教員のチームワークや風通しのよさが自慢でした。これまでも、研究は学年でまとまって行っていましたので。

各学年に5人も教員がいると、一人はICTが 得意であったり、詳しかったりする教員がいます。そうした状況で、「年度末までに事例を提出する 」となると、もともとまとまりがあった各学年の中で、協力して事例作成にも向き合おうという空気ができます。“得意な人” を中心に、「こういう授業をつくりたいんだけど、どうすればいい?」「私はこうやっている」と、積極的に情報交換したり、自主的な研修会を行ったりして、多くの教員がICTの活用に慣れていってくれました


足立校長先生:
もしICTに詳しい教員だけに活用事例の提出をお願いしていたら、積極的な先生とそうでない先生の差は、埋められないくらいに広がっていたでしょう。それだけは避けたかった。苦しくても、一人ひとりに事例の提出をお願いしてよかったと思います。

もちろん、すべて学年の教員たちに任せっきりにしたわけではありません。当時研究主任だった小林教頭は、誰よりも活用事例を提出してくれましたし、率先して研修会を開いてもくれました。学校の代表として見本を見せたのが響いたから、他の先生方も変化してくれたのでしょう。


小林教頭先生:
各学年へと課題を下ろして、横のつながりの中で課題に向き合ってもらう。行き詰まったら、他の学年や私に相談してもらう。 こうした縦と横のパイプをしっかりつくって、その中でコミュニケーションを欠かさなかったのが、よかったのかもしれません。

また、活用事例の作成以外に、ICTを使った公開授業も全員必須にしていました。活用事例の必須化と同じで、義務を課したら、みんなで協力して乗り越えてくれるだろうと期待してのことです。準備は大変ですが、それも一つの経験になりますから。


活用が深まった今、めざすべきは「学び合い」の授業づくり

———山本先生や川里先生、平井先生は、どのような点がICTの活用につながったとお考えでしょうか。
山本先生
小林教頭が、学校全体で活用する雰囲気をつくってくれたのが大きかったです。実際に、小林教頭がどんどん率先して使っていたので、その背中を追いかけるように活用を進めていきました。

平井先生
私も同じことを思っていました。GIGAが始まって以来、ICTを積極的に利用することが必要だと感じました。 そこで小林教頭が見本を見せてくれたのは刺激になりました。

川里先生
あとは大所帯の学校で、学年に誰かしら ICTに通じている先生がいるのもよかったですね。学校全体の研修は、どうしても自分ごとにしづらい部分があるのですが、同じことを教えている学年の先生の話は頭に残りやすいです。もともと学年の教員とはよく話しますし。「あの授業、どうした?」「これってどう使ったらいい?」と、日常の中でのちょっとした授業研究を通して、気づきをもらう機会がたくさんありました。

左から山本先生、川里先生、平井先生、小林教頭先生。学年も役職も違うが、終始仲がよさそうに話されていた。南毛利小学校のチームワークのよさを感じる。

——2023年度からは平井先生が研究主任となられています。今年度、特に力を入れられていることはございますか。
平井先生:
足立校長が話されたように、今年度 は「学び合い」を研究主題に据えています。特に力を注いでいるのは「ICT機器の利用と学び合いの関係」について。面と向かって話し合うべきタイミングでも、子どもたちは端末を見てしまいがちです。本来対話というのは面と向かって行うべきものですが、そこで端末が妨げになっていました。
端末を操作する時間と対話をする時間を明確に分ければよいのか。それが本当に深い学びに結びつくのか。当然、発達段階に合わせて考えるべき課題でもあります。例えば低学年の場合、多少は時間を区切らないと授業が成り立たないでしょう。一方で高学年の場合は、できれば子どもたち自身で、端末を操作するタイミングと話すタイミングをコントロールしてほしい。なかなか難しい課題で、すぐに答えが出るものでもありませんが、学校全体で研究を重ね挑戦を続けていくつもりです。


川里先生:
例えば最近取り入れている学習方法として、話し合いの際は端末を閉じたり、折りたたんだりする、というものがあります。子どもと子どもの間に端末という壁がなくなり、目が行く場所も少なくなって話しやすくなるからです。
それから今日の授業でも実施しましたが、少人数のグループをつくって質問し合ったり、自分の考えを発表したり、役割を決めて行動したりといった学習方法も、積極的に取り入れています


川里先生の授業の様子。話し合いの時間は、端末を折りたたんで対話に集中できるようにしている。

山本先生:
学び合いもそうですが、何をデジタルで行い、何をアナログで行うのか、研究していくことも重要です。 今日の授業でもオクリンクを使いましたが、子どもたちに考えさせる時間は、あえて黒板に問題を書きました。オクリンクで問題を出すと、カードを進めてしまったときに問題文が残らないからです。デジタルとアナログをうまく融合させていくうえで、それぞれの特性に応じて使い分けていくことも、活用を深めていくポイントだと思います。

オクリンクが持つ、“シンプル”という大きなメリット

——ミライシードについては、どのような印象をお持ちでしょうか。
平井先生:
ムーブノートもオクリンクも利用しますが、授業の中でよく使うのはオクリンクです。私含め ICTが苦手な教員も、オクリンクを好んでいると思います、シンプルで使いやすいですから。


川里先生:
低学年の授業では、やはりオクリンクくらいシンプルな機能のほうが、子どもたちが使いやすくて活用の幅を広げやすいですね。例えば図工の授業で、つくった作品を撮影して友達に送るといった活動はとてもやりやすいです。子どもたちも、端末を使うのは大好きなんですよ。「パソコンで授業ができる!」のがかっこいいと思っていますから。そういう子たちに、シンプルに使えて、よりモチベーションを高められるアプリケーションがあるのはありがたいです。


山本先生:
1年生も、オクリンクであれば問題なく使えていますね。ただ、簡単に使えてしまうからこそ、教員が意識して活用のレベルを上げていくことが大事なのかなと最近考えるようになりました。ムーブノートのように多彩な機能を使いこなせるようにするためには、低学年からペン書きではなくタイピングを練習させるといったように、意識して子どもたちにチャレンジさせ、スキルを伸ばしていくことも必要です。


——ICT活用について、今後の展望をお聞かせください。
川里先生:
子どもたちを見ていて、よい意味でミライシードが特別な存在ではなくなりつつあると感じています。これまでは「これができるから嬉しい」と思って取り組んでいたのに対して、最近はノートと同じ、当たり前にある文房具のように捉え始めている。だからこそ、今後はもっともっと、活用の幅を広げていく必要があるでしょう。

山本先生:
子どもたちが自分で使うツールを選べるようになるのが理想ですね。この授業だったらこのツールが使える、使いたいなと思えるようになったらいいですね。


平井先生:
今、ちょうど校内研究推進委員会の中で、来年度の展望を検討しているところです。以前から、日本の子どもたちは読解力が不足している、と言われてきました。来年度はここに焦点を当てて、どうすれば子どもたちの読解力を伸ばせるのか、またそのためにICTがどう生かせるのかを研究していきたいと思っております。 多くの教員とこの課題感を共有して、ねらいに迫った授業づくりに励めたらと考えています


今年度から研究主任となった平井先生。平井先生を中心に、南毛利小学校はすでに来年度の研究テーマを検討し始めている。

【編集後記】

校長先生も教頭先生も、大らかで親しみのある方々でした。それでいて、しっかりとビジョンを掲げ、見本も見せる。こうした姿があったからこそ、現場の先生方が真摯にICT活用へ向き合ったのかもしれません。また平井先生や山本先生たちの取材も、終始和やかでした。普段からよくコミュニケーションし、日常的に授業研究を行っている様子が垣間見えました。

撮影/タカセオフィス株式会社 有田純也 取材・文/株式会社オンソノ 鈴木康介

※取材の内容は2023年11月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。

■学校プロフィール
所在地:神奈川県厚木市
学校名:厚木市立南毛利小学校
生徒数:974人
1学年のクラス数:4~6クラス
1クラスの人数:33人〜38人
特色:厚木市のGIGAスクール構想推進モデル校として、GIGAスタート当初から端末やミライシードの活用を深めていった公立小学校。モデル校として教育委員会に提出する活用事例の作成にすべての教員が携わる、すべての教員がICTを活用した公開授業を行うなど、教員間のスキル差をつくらないための施策に取り組んでいる。
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