子どもたちの学びに向かう姿勢、教員の業務改善。
ICT端末を使うことでどちらも進めることができています。
——三原市教育委員会
活用モデルを提示し、教員の活用促進が加速
活用率向上と活用方法の広がりを大切に
広島県三原市は、2021年1月に一人一台端末の配備を完了しました。配備から2年、教員の端末活用率も着々と伸び、現在では、小学校で90%以上、中学校では85%以上の先生が授業で活用できるようになりました。子どもたちのICT使用も日常的な風景となった今、「先生が教える学び」から「すべての子どもが自ら考え行動する学び」への転換を目指し、現場はどのように動き出しているのか。三原市学校教育課の指導主事、柏原永知先生にお話をうかがいました。
ドリルパークで自発的に問題に取り組む姿が増えた
柏原先生:
三原市では、2021年1月に全小中学校に端末を導入し、インターネットもストレスなく利用できる無線LANの環境をいち早く整えることができました。中国地方ではトップクラスの環境だと思います。
また、主体的・対話的で深い学びを促す授業実践を目指してICT端末活用を全校で促進するため、「みはらGIGAレボリューション」と題して、年間の活用計画を毎年更新しています。2022年度のキャッチフレーズは「学ぶ楽しみ、知る喜び、わくわく感が止まらない」。子どもたち一人ひとりが楽しく理解しやすい学習環境を目指しました。
ミライシードのドリルパークを端末に導入したのも2022年度のことです。三原市では塾に通う子どもは少なく、学校で学習し家庭学習をすることで基礎学力をつける子がほとんどです。それまでドリル教材の選定は各校に任せていましたが、県教育委員会が推進している個別最適な学びを進めるため、子どもたちがICTを使いながら楽しく学べるようになるにはどうすればよいかを検討しました。
――ドリルパーク導入の決め手となった理由は?
柏原先生:
端末に導入できるドリル教材はいろいろありますが、子どもたちが家庭にも持ち帰り、日常的に個別に使用することを考えると、①操作が簡単、②基礎学力がつく、③先生が遠隔で子どもたちの状況を把握できる、という3つをクリアしていることが必須条件でした。
ドリルパークは直感的に操作でき、見た目がスッキリとしてデザイン性も高く、子どもたちも容易に操作できます。これまで家庭学習を支えてきた蓄積があり、問題の質という点で見ても信頼できます。問題に取り組むことでポイントを集めたり、連続正解でコンボメダルを獲得したりするゲーム的な楽しさもあります。また、その場で正誤がわかることで、やりっぱなしにならないところもとてもいいですね。
――子どもたちの様子は変わりましたか?
柏原先生:
子どもたちは自発的に問題に取り組み、どんどん進めるようになりました。これまでのプリント学習では絶対にできなかったことです。実際に子どもたちの中には、1000万点ためたという子もいるほどです。ペーパーレス化もかなり進められました。
1日あたり平均20~30分の業務時間短縮に
柏原先生:
中でも、ドリルパークを選んだ最大の理由は、教員が個別の学習履歴をリアルタイムで確認できることでした。教員が離れていても一人ひとりの学習状況と理解度がわかるので、必要なサポートを出すことができ、「個別最適な学び」を提供することができます。また、宿題提出のチェックやコメント返信なども簡単で、教員のプリント準備や丸つけの時間が不要になり、必要な指導に時間を割くことができるようになりました。
児童生徒の学習履歴が一覧で確認できる先生用機能
教育委員会が2022年1月に実施した教員へのアンケート調査では、1日あたり平均20~30分の業務時間短縮につながっているという結果が50%を超えました。「漢字の書き順の指導も自動でできる」「学習履歴の把握が可能なので個別指導に活かせる」「児童生徒の学習意欲が向上する」などの声も届いています。現場の働き方改革を推進するという意味でも、これからも活用を推進していきたいと思います。
市内の先生のアンケート結果
私が学校で子どもたちに直接教えていたのは4、5年前なのですが、その頃には教員がパソコンを使用することも稀で、一人一台の端末を子どもたちが使いこなすなんて夢にも思っていませんでした。導入から2年以上が経ち、今では、子どもたちはみんな端末を使いこなしています。教員がデジタル教科書などを使用して教材を提示し、子どもたちがそれぞれに調べ、端末を突き合わせてやり取りをするという姿は日常の光景になりました。
子どもたちが文房具のように活用できるようになった背景には、ベネッセのサポートがあります。実は、ドリルパーク導入当初、活用率は20〜30%でした。そこで、ベネッセの担当者に相談し、活用促進のための手引きを作ったのです。朝学習、自習時間、放課後の宿題などの活用モデルを作り、それぞれの場面で教員と子どもたちにどのような効果があるかをわかりやすく提示しました。
活用促進のため学校に配布した実際の資料
どのようなことができるかを具体的に伝え、指導主事が全校を月に一度訪問する際、指導や助言を行うことで、これまで苦手だった教員の利用率も上がってきました。学外の外国のかたとつないで英語の授業を行ったり、総合的な学習の時間に学年を超えた意見の共有などに使われるなど、使い方もどんどん広がっています。
特別支援学級や不登校の子どもたちも学習が楽しくなる
柏原先生:
2022年度からは、市内の教員がクラウド上で指導案を共有することもできるようになりました。違う学校の先生の指導案も参考にすることができますから、教員が切磋琢磨することや業務改善としても役立っていると思います。
2023年2月の段階では、教員に対するアンケートの「子どもたちにICTを使って授業が出来ますか」という項目では、「ある程度指導が出来る」と答えた教員が小学校では92%、中学校では85 %となりました。
柏原先生:
2023年度は『先生が教える学び』から『すべての子どもが自ら考え行動する学び』へというキャッチフレーズを設定し、全小中学校でさらに次のステップへと進めることを目指しました。新たな目標は「すべての児童生徒が、ICT端末の活用場面や活用方法を自ら考え、選択し、活用できる」というものです。
私は現在、特別支援の担当となりましたが、通常級はもちろん、特別支援学級や不登校の子どもたちにも端末導入の効果は高いという手応えがあります。特別支援学級では連絡帳を書くことが難しい子どもとご家庭への連絡や、教科書にルビをふり読み上げてくれる機能、音声入力で文字の入力ができるようになったことは大きいです。そうした機能は通常級の学級でも使えるようにしています。不登校の子どもに関しては、自在に学年を超えて学べるドリルパークもとても使いやすいと思います。
ICT端末を導入したことで、インクルーシブな形で学習が進められるようになってきています。「これがあれば僕も勉強できる」「学校が楽しい」と思ってくれる子も増えています。ICT端末は、全ての児童生徒が学びに向かうサポートをしてくれるツールだと実感しています。
【編集後記】
三原市では市長が積極的にICT活用を推進していらっしゃるとのこと。子どもたちは、端末を自宅に持ち帰り、小学生は21時まで、中学生は22時まで自由に学ぶことができます。教員が指導案をクラウドで共有できるということも画期的です。2年と数ヶ月の間に、先生がたの活用率が上がっただけでなく、活用の方法もどんどん広がっていることが伝わってきました。
撮影/株式会社 デザインオフィス・キャン 加藤武 取材・文/太田美由紀
※取材の内容は2023年3月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。
所在地:広島県三原市
学校数:小学校20校、中学校10校(令和4年度)
児童・生徒数:小学校4,136人、中学校2,077人(令和4年度)
特色:三原市教育委員会は「みはらGIGAレボリューション」としてICT活用の目標を毎年設定している。2022年度はセカンドステージとして、「先生が教える学び」から「すべての子供が自ら考え行動する学び」へを大きなテーマとした。ステップ1「全教員がICT端末を使った授業を日常的に実施」、ステップ2「主体的・対話的で深い学びにつながるICT端末活用」、ステップ3「ICT端末の活用場面や活用方法を自ら考え、選択する場面の設定」と、ステップを3つに分けて取り組んでいる。