生徒たちに「もっといいものを提出したい」という意欲が生まれ、
「あきらめない」という項目が県平均より10ポイント高くなりました。
——埼玉県加須市立 加須平成中学校
積み重ねた経験と結びつけ、他教科とも意見交換
ICTで新しい授業にバージョンアップ
2022年度1年間の取り組みで、教科の壁を越え、ミライシードの活用効果を高めた加須市立加須平成中学校。「見えづらいことを見える化する」という思いを込めて、『星の王子さま』にちなんでICT活用推進を研究する有志のチーム「サン=テグジュペリ」を結成しました。校長の渡邉典孝先生と、「サン=テグジュペリ」のメンバーである村山 俊介先生(国語)、菅谷 優子先生(社会)、野川 由香里先生(理科)、小暮 涼介先生(数学)にお話をうかがいました。
ICTで「見えづらい力を見える化する」
渡邉校長先生:
私はこの春本校に着任したばかりなのですが、若手の教員が多く、職員室の雰囲気もとてもいい。密に連携が図られ、ICT活用が推進されています。生徒たちも、表情が豊かであいさつもできる。学年を超えて新入生歓迎会を企画し運営している姿はたくましく見えます。
先行きが不透明な時代、世の中のさまざまな課題に向き合い、乗り越えていく力を育むためには、やはり思考力、判断力、表現力の育成が大事です。主体的・対話的で深い学びの実現を目指した授業改善が求められる中、ICT活用は非常に有効であると私も考えています。
渡邉校長先生は「前任校は小学校だったので、小中連携にも力を入れていきたい」と語る。
――中学校で教科を超えて連携し活用推進することは難しいという声もあります。
渡邉校長先生:
その通りです。中学校は教科担任制ですので、教科ごとのチームで動いていくことが基本となります。本校では昨年度、ICT活用を共通の切り口にして有志の先生が一つのチームとなり、教科を超えてICT活用の研究を進めてくれました。チーム名の「サン=テグジュペリ」もいいですね。『星の王子さま』に発想を得たチーム名の由来には「見えづらい力を見える化する」という思いが込められている。ICTの本質をつかんでいると思います。
今回、彼らがミライシードアワードに応募したことは、管理職の立場としても大変喜ばしいことです。教員自ら意欲を持って果敢にチャレンジする姿は頼もしく、他の先生や生徒にも影響を与えていると思います。生徒たちの学力も徐々に上がってきたという数値で見える成果もある。今後の生徒たちの変化にも非常に期待しています。
ICT活用研究チーム「サン=テグジュペリ」。左から小暮先生、菅谷先生、村山先生、野川先生。この日は不在だが星野先生(英語)もメンバーの一員。
村山先生:
本校では、平成30年度から2年間、「よりよい人間関係を築き自他を大切にする生徒の育成」という研究委嘱に取り組みました。自分を客観的に見る、つまり、メタ認知の力を高めることで、学力も伸びるのではないかという研究で、実はその時の指導者が、現在、本校の校長である渡邉先生でした。この研究の延長線上にICT活用研究チームの取り組みもあります。
主体的で対話的・協働的であること、そして、深い学びに基づいた発想力・想像力を発揮するためには、まず、生徒が自分自身を客観視することが重要です。提示された授業のめあてや課題を客観視する視点を持ちながら、ICTで交流し共有することで、生徒はお互いに多様な視点や考え方に触れることができ、豊かな発想を活かして学び合うことができると考えました。
これまでの経験と結びつけ、授業をバージョンアップできる
――教科や学年の違いを超えてICT活用が進んだ理由は。
村山先生:
本校では1年生から3年生まで縦割りで活動する「団活動」というものがあります。教員は学年ごと、教科ごとにまとまりがちですが、団活動では教員も縦割りになる。さらにICTで横串を刺すことでそれ以外の先生たちともコミュニケーションが活発になったことが大きいと思います。
菅谷先生:
昨年度、私は教務主任として先生たちの実務に結びつく研修を実施しました。道徳の授業研究や働き方改革などの研修でも、学年の区別なくグループディスカッションする場面を多く作るようにしたのもよかったかもしれません。
小暮先生:
私はまだ教員になって2年目なのですが、ICTを使った数学の授業事例があまりなく、ほとんど活用していませんでした。でも、このチームで動き出してから、校内研修やオンライン掲示板、普段のコミュニケーションなどから、他教科での活用事例に触れることが増えたので、そこからヒントを得て図形の単元で使ってみたところ、生徒たちからもっと数学でも使ってほしいという声が上がるようになりました。
ムーブノートで図形の角度を求める問いに対する考えを生徒同士で共有し、意見交換を実施。
小暮先生:
私自身挑戦だったのですが、生徒たちからいい反応があり自信になりました。生徒たちも、誰かに認められるといういい経験になったと思います。また、自分が考えた解答をムーブノートの「広場」でみんなに見てもらい、拍手機能でリアクションを得るのはうれしかったようです。普段あまり発言しない生徒の考えが分かるところも素晴らしいと思います。
菅谷先生:
ムーブノートの拍手機能はとてもいいですね。社会でも、各自のノートを写真に撮って共有するようにしたところ、拍手やコメントがほしいという気持ちから、ほぼ全員が一生懸命取り組むようになりました。以前は、まあこれくらいでいいかと済ませる生徒もいましたが、今ではほとんどの生徒に「もっといいものを提出したい」という意欲が見られます。県の学力・学習状況調査の質問でも、「勉強しているときにあきらめてしまう」という生徒の割合が、県平均よりおよそ10ポイントほど改善しました。
自分のノートを撮影してムーブノートで共有。共有されたノートを見て拍手やコメントを送り合う。
――そのほか、ミライシードの機能を使う場面はありますか。
野川先生:
理科では、主に理科の実験の際にオクリンクを使っています。実験の準備について、写真や動画で伝えることで、生徒たちは自分で見て、気づいて、自分から進んで動くことができるようになりました。自ら学ぶ、主体的な学びに近づいていると思います。
オクリンクで理科の実験手順を動画で送信。必要があれば繰り返し見ることもできる。
村山先生:
国語では、人物の属性を数値化してムーブノートでグラフ内にスタンプを置くという機能を使いました。今までも紙でやっていたことなのですが、それがデジタルででき、一瞬で全員分が共有できて、一覧にして見られるようになった。これは本当に価値がありました。
国語では文章から読み取り、人物の属性を数値化。共有することで同じ人物を選んでも異なる考えになることに気づく。
村山先生:
ICTをほとんど使っていなかった私が、チームで1年間取り組んでみて、気づいたことがあります。ICTだからといって、ゼロから新しい授業を生み出さなければならない訳ではない。これまでの経験と結びつけて活用したり、他教科と意見交換したりすることで、さらに新しい授業にバージョンアップできるんだということでした。
菅谷先生:
教員も生徒たちと同じです。他の先生方の授業を見たり、お互いの授業のアイデアを持ち寄ったりすることで、気づくことは多い。校内研修として、「こういうことをしたら面白かったよ」「こういう使い方あるよ」などと情報交換する機会を今年度も増やしていきたいと思っています。
確かな学力と豊かな人間性を育てる一助に
渡邉校長先生:
コロナ禍もあって、学校に来られなくなってしまった生徒たちも増えています。先生たちには、生徒たち一人ひとりにしっかり寄り添って、声をかけ、話をよく聞いてあげてほしいということを繰り返し伝えています。生徒たちが、自分の居場所がある、学校に行きたいと思えるような学級づくりに力を入れてほしいと願っています。
今日も、久しぶりに登校した生徒が、オクリンクを使って面白い意見を出してくれました。そして、それを見たクラスメートが「すごい!」と盛り上がる場面がありました。あのような関わりがあることで、その子の自己有用感や自尊感情も高まっていくと思います。
中学校ではどうしても一方的に講義するような授業が多いのですが、これからは今まで以上に生徒の声を拾い、そこから学びを深める実践を進めてほしい。そのような教育効果を高める道具としてもICTに大いに期待しています。
どの子もきちんと認められて、次の日の学校を楽しみにできる。そんな環境の中で、生徒たちの「確かな学力と豊かな人間性」を育てていきたい。ICTもその一助となるのではないか。そう考えています。
【編集後記】
「団活動」という縦割りの活動があり、先生も生徒も学年を超えてコミュニケーションが活発とのこと。「学年、教科だけでなくICTの串を刺した」という表現が印象に残りました。ICT活用研究チームを率いる村山先生について、菅谷先生は「詩人であり冒険家。突破力がすごい」と言います。「同じ船に乗り合わせちゃったからね」と笑う先生方の信頼関係が強く伝わってきました。
撮影/有田純也 取材・文/太田美由紀
※取材の内容は2023年4月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。
所在地:埼玉県加須市
学校名:加須市立加須平成中学校
生徒数:331人
1クラスの人数:35人〜39人
特色:授業ごとに教科専用の教室に移動する「教科教室制」。生徒は端末と必要な教材を持って移動する。国語や英語は感情を高めるイメージの赤、数学と社会は思考を高めるイメージの青など、教科により机や椅子の色を変えたデザインを採用。職員室の代わりに校舎の中央部のオープンな空間には「学習センター」を設置し、休み時間などにも生徒と教員が関わりやすいつくりになっている。