子どもは鏡です。だからこそ、
自分たちが挑戦し続けなければなりません。
——静岡県掛川市立第一小学校
先生も、児童も、とにかくやってみる
そして得た経験値をもとに、学びの選択肢を広げられた
静岡県掛川市立第一小学校によるミライシード活用の取り組みをご紹介しています。
「とにかく使ってみよう」を進めるための環境づくり
杉浦校長先生:
本校は一人一台端末の効果的な活用について、掛川市の研究指定を受けています。といっても、最初から先生方がICTを使いこなしていたわけではありません。特に40~50代の先生方は授業でほとんど使った経験がない方ばかりでした。
そうした先生方に、いきなり上手にICTを使った授業をしてもらうのは無理ですし、何より先生方にとって大きなストレスになります。それにICTを使える先生と使えない先生の間で、溝ができてしまう可能性もある。ですので、研究指定を受けた1年目は、「とにかく使ってみよう」をスローガンに、どんな使い方でもいいのでICTを“みんなで”“日常的に使う”ことを先生方に意識してもらいました。
その中で、情報発信や校内研修、組織づくりを積極的にリードしてくれたのが、加藤先生と榛葉先生です。
「教員の間に溝ができないように、みんなで乗り越える環境をつくりたかった」と話す杉浦校長先生。
榛葉先生:
本校にはもともと、授業研究や研修を主導する「学びつくり部」という部署があって、私が部長を務めていました。研究指定を受けてまず部で取り組んだのが、端末の使い方の共有でした。情報共有のサイトをつくり、お便りという形で、マニュアルや基本的な使い方、関連サイトの紹介、それから実践例となる「活用日記」を掲載しました。
ICTの活用に必要な情報を一元化したサイトを制作し、情報へのアクセスをスムーズに。
榛葉先生:
様々な情報に自分でアクセスしてもらうのはハードルが高いですから、「ここさえ見れば、だいたいのことはわかる」という便利なサイトをつくるのが目的でした。学習指導案や研修記録、来校した先生の講演資料などもまとめています。
次に、研修体制を変更し、ICTをある程度理解している先生が研修担当として1学年に1名以上配置されるようにしました。学びつくり部から研修内容を各学年に伝えていくときに、誰か一人でも“わかる”先生がいたほうが動きやすかったからです。杉浦先生に相談したら、すぐに対応してくれました。
杉浦校長先生は基本的に我々を縛らずに、やりたいようにやらせてくれました。本校は児童の端末も、教員の端末も、制限をかけていません。「とにかく使ってみよう」のスローガン通り、子どもたちも、教員も使いながら覚えていく。管理職の先生がそうしたスタンスでいてくれたので、何でもチャレンジしやすかったです。
杉浦校長先生:
子どもたちと同じで、若い先生のほうが発想は豊かなのですよ。よほどダメな理由がなければ、どんどん試してもらいたかった。
榛葉先生:
ICTに慣れていない先生方にとって、ICT用語はほとんど外国語と同じです。横文字が出てくるだけで「日本語で話してよ」と頼んでくる先生や、「タップって何?」「フリックって何?」と基本的な用語からわからない先生もいました。だから、例えば「シュッってやってください」「この人間マークを押せばいいですよ」と、わかりやすい言葉に置き換えて伝えるよういつも心がけていました。結果的に、本校でしか使えないデジタル用語もたくさん生まれました。
一方で、どの先生も、わからないことはしっかり「わからない」と口に出してくれました。それも杉浦校長先生の根回しがあったからだと思いますが、とても助かりました。わからないことは聞く、そしてわかる人がわかるように教える。この関係性が各学年でつくれたから、ICTを“使う”文化を早く広げていけたのだと思います。
榛葉先生は現在、教職大学院で情報活用能力育成の研究に携わっている。
実践例を積極的に共有して、一人の挑戦を教員全体の経験値にする
——サイトの「活用日記」では、特に加藤先生が積極的に実践例を紹介したと伺っています。
加藤先生:
最初は「こんなことをしました」という個人的な記録を取っていただけでした。何か参考にできるものがないと、研究指定校としての報告ができないので。自分としては大したことをしていないつもりでしたが、その実践例をたまたまベネッセの方に見せたときにいたくほめてくださったので、「なら校内でも共有してみるか」と、学びつくり部のサイトに掲載し始めました。
実践例はスクリーンショットやミライシードのツールを使った感想、手順、授業の改善案などで構成しました。最初にテンプレートをつくって使い回したので、つくる時間は10分もかかりません。学びつくり部のほかの先生と合わせて、週に一度は必ず更新し、更新した際はチャットで通知もしました。おかげで目を通す先生は多く、「やってみた!」という先生や、「あのやり方、教えて」と聞いてくる先生もたくさんいましたね。中には校内だけでなく、他校の先生がサイトを見て感想を寄せてきてくれることもありました。
具体的な実践例を紹介する活用日記は毎週更新し、先生同士の情報共有を促進
——実際に、どのような授業を行われているのですか。
加藤先生:
一つ、道徳の授業の例を紹介します。道徳では、個々の児童が様々な感想を抱きます。その多様な考えをなるべく共有してほしいと思い、以前は紙に感想を書いて発表してもらっていました。その発表の過程をムーブノートで置き換えられるのではと、紙に書く代わりにスタンプ機能を使って感想を表現してもらいました。
やってみると、このスタンプ機能が非常に便利でした。自分の言葉でアウトプットしづらい曖昧な感情を簡単に表現できて、かつ集計してクラス全体の傾向を瞬時に把握できます。子どもたちも、私も、クラス全体が今何を考えているのか、理解しやすくなりました。
山崎先生:
ムーブノートは今年度の提案授業でも活用しました。5年生の算数の授業だったのですが、座標軸を使って、4つの観点のうち自分の考えがどこに当てはまるのかをクラスメイトと伝えあってもらいました。この使い方は様々な教科で行っていますね。
加藤先生:
ムーブノートは児童同士が相互評価できる点が非常に大きな強みだと思います。「他のクラスへの配信」機能を使えば、クラスを越えての実践まで可能です。普段一緒にいるクラスメイトとは別の友だちから、学び方や考え方への刺激を受けられる。それも時間をかけずに、です。私はムーブノートが“最強のツール”だと思っていますし、一番に気に入って使っていました。
子どもが使うツールを自分で選択できるようになった
——子どもたちの変化についてはいかがですか。
加藤先生:
授業の様々な場面でICTを使うようになった結果として、子どもが自分でツールを選んで学習に向き合うようにまでなりました。例えば授業のはじめに、「今日のめあては〇〇です」というと、「それならムーブノート(オクリンク)を使いたいです」と、授業の進め方を提案する子どもが出ています。
杉浦校長先生:
先生が「これを使え、あれを使え」と指示するのではなく、子ども自身が「このめあてなら、この問題ならこのツールを使えばいいんじゃないか」と、選択できる状態を目指す。まさに我々が目標としている姿が、形になりつつあるなと感じました。
山崎先生:
はじめは端末を使って子どもたちに話し合いをさせても、機器の操作に没頭していました。それが今は、端末を使いつつ、子どもたちが互いの目を見ながら話し合っています。同時に児童自身の意見を表現する力を着実についているように思います。そういった点でも、子どもたちの成長は見られますね。
「1年目の取り組みのときと比べて、今は子どもたちがまさに端末を“使いこなしている”」と、山崎先生はうれしそうに話す。
——先生方が試行錯誤しながら、学校全体でICTに対する経験値を高めていった結果ですね。
加藤先生:
不慣れな先生も含めて、ほかの先生方がそろってICTに向き合ってくれたおかげです。たまたま私が実践例を表に出しているだけで、ほかの先生方も様々な試行錯誤をされています。別の学年の授業を見に行って、「こんな使い方もあるのか」と驚かされたことだってたくさんありました。あるベテランの先生は、最初こそ不慣れでしたが、「一緒に勉強しよう」といってどんどん使いこなしていきました。今は他校に異動されていますが、異動先では他の先生に教える側になっているそうです。
杉浦先生:
夏休み前まで「日本語で説明してよ」と話していた先生が、夏休み明けにはバリバリ使いこなしている様子も見てきました。結局子どもたちが一生懸命にICTに食らいついている様子を見ると、「子どもたちが変わっているのだから」と、熱意を燃やして努力してくれるものです。
加藤先生:
子どもは鏡です。自分が挑戦し続ければ子どもたちも育ちます。まだまだ子どもたちが進んで学びたいと思う選択肢を増やせると思っていますから、一緒になってこれからも挑戦し続けていきます。
終始和やかに話された、4人の先生。立場や年齢を越えて、風通しがよい学校の雰囲気が伝わってきた。
【編集後記】
学校に伺って印象的だったのが、多くの先生が和やかに談笑していた様子。普段から先生同士の仲がいいのだろうと、一つひとつの会話から感じられました。だからこそ、ほかの先生から教わったことを素直に実践したうえで、感想まで伝えることが当たり前にできているように思います。また取材中も、「これを今試しているんですよね」と、新しい挑戦についてたくさんお話しいただきました。
撮影/株式会社 デザインオフィス・キャン 加藤武
取材・文/株式会社オンソノ 鈴木康介
※取材の内容は2023年10月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。
所在地:静岡県掛川市
学校名:掛川市立第一小学校
児童数:643人
1クラスの人数:28人〜31人
特色:一人一台端末の効果的な活用について、掛川市の研究指定を受ける小学校。ホームページ上のコンテンツ「活用日記」を定期的に更新し、端末やツールの活用法を教員間で積極的に共有している。