学級力を高めてICT活用したことで、一人ひとりへの支援が細やかに。
不登校もゼロの年が増えてきました。

——京都府八幡市立 中央小学校

教育DXストーリー

ICTはユニバーサルデザインのひとつ
誰もが安心して楽しく学べる学校に

京都府八幡市立中央小学校では、学級力向上やユニバーサルデザインの推進により、子どもたちが安心して楽しく学ぶことができる環境を整えることに力を注いでいます。そのベースの上に端末の一人一台配備が進んだことで、全ての子どもたちが集中して学びに向かうようになりました。校長の横山達雄先生、岡村淳史先生(特別支援学級担任、GIGA部 部長)、水谷智明先生(5年生担任、研究推進部 部長)、西村知夏先生(5年生担任、GIGA部)にお話をうかがいました。

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ドリルパークの活用で取り組める問題数が格段に増加

横山校長先生:
本校に私が赴任したのは2014年のことです。教頭として6年、校長として2年が経ちました。自分の思いを表現できる子を育てたいという思いを込めて、赴任したその年に、文部科学省の指定を受けて2年間の国語の研究に取り組みました。その研究への取り組みがきっかけになって、教員が一つの方向を向くことができたと思います。
 
また、2016年からは、学校内の特別活動部を中心に学級力向上プロジェクトにも取り組みました。八幡市は、一人ひとりの子どもの成長過程を大切にする「学校UD化(ユニバーサルデザイン化)構想」も掲げています。学級力を高め、全ての子どもたちが安心して楽しく学べる環境を整え、職員も安心して新しい試みにチャレンジできるようにと心がけてきました。一人一台端末の配備とその活用がスムーズに進んだのは、これらのベースがあったからです。


校長室には児童が贈った手作りのカードがたくさん飾られ、床にはふかふかのマットも。誰でも気軽に校長室に入り、安心して話ができる空間がつくられている。

横山校長先生:
はじめはタブレット導入に少し心配もありました。しかし、情報教育主任でGIGA担当部長の岡村先生と研究推進担当部長の水谷先生を中心に、教員たちがとても頑張ってくれました。岡村先生はGIGA以前からパソコンを使いこなし、八幡市の成績処理システム開発や教材開発などもしていたので心強かったですね。

岡村先生:
GIGA部の先生は私を含めて3人です。オクリンクの活用例やペンの使い方、カードの並べ替えを使った授業例など、さまざまな実践を紹介するプリントを作り、2週間に1度教員に配布しました。そのデータも共有しています。月一度の職員会議の後には10分ぐらいのミニ研修も行い、年3回のタブレット公開授業も実施しました。
 
校内の研究体制を整え、便利な使い方をみんなで共有し、実際に授業で使ってみる。その手応えをまた共有し、柔軟に改善してきました。


中央小学校には、5つの特別支援学級がある(肢体不自由1、知的1、情緒3)。岡村先生は1年生を担当している。

――タブレットを使うことでどんな効果がありましたか。

岡村先生:
私は今、特別支援学級の1年生の担当です。筆圧の弱い子もタブレットならすいすい字が書けるのでストレスがありませんし、ドリルパークはとても楽しみながら使っています。授業中はドリルパークとノートとプリントをハイブリッドで使っていますが、ドリルパークを活用すると、取り組める問題数が格段に増えました。ICTは特別支援学級の子どもたちにとって、とても相性がよく、少人数の特別支援学級で先行して活用することで通常級にも参考になっています。

横山校長先生:
今では学校の子どもたちが空気のように自然にタブレットを使いこなしています。タブレットを使って本当に良かったと思うのは、授業中、子どもたちが学びに向かっていることです。以前は授業に入り込めない子も見られましたが、タブレットを使うことで一人ひとりに合わせた授業の展開もできるようになり、「勉強が苦手」「勉強嫌い」と言っていた子も、集中して取り組むようになりました。


端末の操作も授業の内容も、子どもたちが教え合いながら取り組む姿があちこちで見られる。

横山校長先生:
学級経営として、「間違ってもいい」という雰囲気を大切にしていることも大きいでしょうね。誰がどんな発言をしても、認めて拍手する。担任も一人ひとりの声を拾って授業に生かす。その雰囲気があるから、子どもたちが安心して学びに向かうことができるのだと思います。ここ数年は不登校児童がゼロの年が増えてきました。
 
自分の考えや思いを文章にして、オクリンクで共有することも当たり前のように行われています。「表現するのは恥ずかしいことじゃない」と子どもたちが思えるようになり、お互いの理解にもつながっている。これもタブレット活用のおかげです。

子ども自身が成長に気づけることがタブレットの大きなメリット


――授業ではどのように活用しているのですか。

水谷先生:
例えば私の理科の授業では、まず一人ひとりが自分で仮説を立て、ムーブノートで共有します。そして、みんなの仮説を読んだ上で自分の仮説を再構築しています。以前はクラス全体なら1:30、班活動なら1:3でしたが、今はみんなの意見を双方向に見てコメントもできる。30:30で意見交換ができるようになりました。
 
子どもたちは失敗や間違いを恐れずに意見を書き込めるようになってきました。紙に書いて消して書き直すのは大変ですが、気軽に書き直せますから、推敲もできる。色々な意見に触れることができるので、それを見るだけでも思考は深まり、意見も多面的に広がります。学習意欲も間違いなく上がっています。


水谷先生の理科の授業風景。黒板、モニター、タブレットなどを自在に使いながら授業が進む。


それぞれに仮説を立て、クラス全体で共有する。「間違っても大丈夫」という雰囲気があるため、失敗を恐れずに考えたことを自由に書き込める。


水谷先生:
その場その場で考えたことが記録できるので、子どもたちにとっては、ゲームのデータをセーブしていく感覚なんだと思います。自分が学習した1年間の履歴が振り返りやすい形で残りますから、それを各自でアルバムにまとめることで、学年の最初に取り組んだ学習が今の単元につながっていることが視覚的にも理解できたと思います。

西村先生
私は、国語の授業で、詩の創作に長期間にわたり取り組みました。1年に3回詩を作り、最初に作った詩、2回目に作った詩を個人のボックスにためておきます。ムーブノートのみんなの広場で他のクラスの詩も鑑賞し、多くの作品に触れることができました。
 
子どもたちは、過去の自分と比較しながら、「前よりも比喩表現が使えるようになった」「反復表現が多くなった」「連を上手に使えるようになった」などと振り返りを書いていました。以前の詩と今の詩を比べて、自分の成長に気づくことができる。これも、タブレットの大きなメリットだと思います。


冬休み明けには、冬休み前にはじめて詩を書いたときの自身の取り組みも思い返しながら取り組むことができた。

西村先生:
例えば家庭科で、玉結びや玉止めの動画をオクリンクで送っておけば、手元のタブレットで何度でも再生できますから、とてもわかりやすいですよね。一度でわかる子もいれば、何度も見直したい子もいます。そうして自分のペースで進められるのはとても便利です。タブレットがない授業にはもう戻れません。


タブレットで個別に学びを進める時間、一人ひとりに細やかに声をかける西村先生。支援やサポートの先生が入ることも多い。

水谷先生:
タブレットが配備された1年目、子どもたちは、「あ、おもちゃが現れた!」という感覚で楽しそうに触っていましたが、今では授業の中で当然のように使う文房具になりました。次の段階として、慣れてきたことで学習意欲が下がる可能性もあると考えています。今こそ、工夫をしながら楽しい授業を続けていかなければと思います。
 
2022年度の研究テーマは、使うべきところを見極めることでした。引き続き、「ほんまにそのタブレットの使い方でいいの?」「タブレットを使うメリットは?」という問いを立て、研究しています。タブレットがあるからこそ授業がわかりやすく、意見を構築するときになくてはならないものだと思える使い方を極めていきたいですね。

今の子どもたちは社会に出たら「ICT活用必須世代」


横山校長先生:
私が八幡市のこの地域に入ったのは、30年以上前になります。本校の隣にある男山中学校に入りました。当時の中学校は大変荒れていて、生徒指導が大きな課題で、困難な状況に置かれた子どもたちが多い地域だったのです。荒れた学校で生徒指導主任を長く経験してきたので、学校全体の生徒、保護者にていねいに寄り添ってきました。
 
実は、いま本校に通っている子どもたちの半分くらいは、当時見ていた生徒たちの子どもたちです。いまでは保護者のみなさんも学校にとても協力的ですし、子どもたちも学校で楽しく過ごしながら学んでいます。


(エントリーシートより)

学内でのタブレット使用についてのアンケート結果。タブレットを活用した授業はわかりやすく、楽しいと答える子どもたちが多い。 (2022年5年生の児童を対象にアンケートを実施)

横山校長先生:
私自身は、ICTには詳しくはありませんが、先生たちに自由にチャレンジしてもらっています。ただ、先生たちが失敗したら必ずフォローし、校長として守るべきところは守るというスタンスでやってきました。また、温かい雰囲気をつくることも心がけています。子どもたちが帰った後の夕方の職員室は笑顔が絶えず、とてもいい雰囲気です。
 
「しんどい地域、しんどい学校だった」からこそ、一人ひとりの子どもたち、先生たちを大切にしたい。今の子どもたちは、社会に出たら「ICT活用せなあかん世代」です。タブレットを積極的に活用しながら、社会で生きていくためのさまざまな力を身につけてほしいと願っています。

【編集後記】

「職員室にも、教室にも、笑顔と温かい雰囲気があふれる学校にしたい」と何度もお話しくださった横山校長先生。毎日、給食の時間には、エプロンをつけて教室に入り、子どもたちと一緒に配膳し、給食を食べているそうです。放課後になると、職員室では先生たちがお菓子を食べながら楽しそうに話し合う姿が見られます。「失敗してもいい。責任は僕がとるから」という横山校長先生の言葉が、先生方のチャレンジを支えています。

撮影/株式会社 デザインオフィス・キャン 加藤武・TAKASE OFFICE Inc.ヨウイチ 取材・文/太田美由紀

※取材の内容は2023年3月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。

■学校プロフィール
所在地:京都府八幡市
学校名:八幡市立中央小学校
生徒数:272人
1クラスの人数:22人〜33人
特色:平成28年度の文部科学省の研究において、「学びのテーマパーク化構想(学ぶことが「楽しい」と子どもたちも親も地域も感じる実践)」に取り組んだ。学校全体ですべての子どもたちに「わかった」「できた」「楽しい」と実感できる授業・活動を展開している。支援員やサポーターの数も多く配置されており、空き時間の先生が他のクラスにサポートに入ることもある。
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