「声なき熱意」に、光をあてる。
データと対話が繋いだ、
管理職と現場の「共鳴」の物語

——東京都葛飾区立青葉中学校

教育DXストーリー

「声なき熱意」に、光をあてる。
データと対話が繋いだ、 管理職と現場の「共鳴」の物語

学校の実態調査の結果から、管理職の先生方は「もどかしさ」を感じられていました。意欲はあるのに、それを表現できていない生徒たち。 時を同じくして、現場の先生からも「まずは教師自身が変わらなければならない」という熱い相談が——。 管理職が抱いた「願い」と、現場から湧き上がった「情熱」が重なり合い、結成された『校内研究PT』。受験や多忙な業務という壁を越え、職種や立場の垣根を越えてワンチームでつくり上げた、授業改革の軌跡を追いました。今回は、工藤 和志校長先生、髙橋 正一副校長先生に加えて、校内研究PTメンバーの西田 桐先生、及川 正明先生、荻原 裕治先生、石川 篤史先生、山本 絢子先生、ICTサポータの野口 美咲さんにお話を伺いました。

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管理職の「危機感」と、現場の「情熱」が重なった

同校の改革は、学校全体で行った「実態調査」の結果を、先生方全員で真摯に受け止めることから始まりました。

——まずは、今回の取り組みの出発点となった課題意識についてお聞かせください。
工藤校長先生
調査結果を見て、私たち管理職は大きな課題を感じていました。本校の生徒は非常に素直で、学習意欲も高い。しかし、「自分の考えを表現する」という数値だけが伸び悩んでいたのです。 彼らの中には確かに「意欲」がある。けれど、それをアウトプットする場を、私たち学校側が十分に用意できていないのではないか。そんな自問自答を繰り返していた矢先でした。



西田先生
私は現場の立場として、多くの授業で従来の教師主導の授業が行われており、ICT活用が進んでいないことに課題を感じていました。「使わなくても授業はできるから」と、従来のやり方にとどまっていては、生徒たちに新しい学びの可能性を示すことはできないと考えていました。そのため、「先生が変われば、生徒も変わるはずです」と、髙橋副校長先生に相談に行きました。



髙橋副校長先生
西田先生から相談を受けたとき、まさに「我が意を得たり」という思いでした。 ちょうど「オクリンクプラス」が導入されたタイミングでもありました。ただ、年度の途中から新しい組織を作るのは難しい。そこで、工藤校長先生と相談し、西田先生を中心に、ICTに知見のある石川先生、ICT主任の及川先生を招集し、有志による「校内研究PT(プロジェクトチーム)」を発足させたのです。



——トップの課題感と、現場の熱意がタイミングよく共鳴したのですね。
髙橋副校長先生
ええ。特別講師の平井先生を招き、最先端の授業デザインについての講話によって、生徒が思考する授業の大切さへの理解が進み、管理職と現場が同じ方向を向いて走り出しました。

「強制」はしない。デジタルとアナログの“いいとこ取り”を

PT発足後、まずはメンバーが率先して活用を開始。しかし、全校への普及には、先生方の心情に寄り添った配慮がありました。

——中学校は教科も多岐にわたり、ICT活用に慎重な先生もいらっしゃったかと思います。どのように浸透させていったのでしょうか。
西田先生
まずは私が校内で複数回研修を行い、ひとまず「オクリンクプラス」を使ってもらうことから始めました。「「オクリンクプラス」を使うと、こんなことができるんだ」という実感を持ってもらいたかったからです。決して無理強いはせず、「まずはやってみようよ。使い方は一緒に考えるから」と声をかけ続けました。また、様々なアプリケーションを併用して使うと中々浸透しないと考え、あえて「オクリンクプラス」に絞って活用を進めました。



山本先生
私はOJT主任として、若手やICTに少し苦手意識のある先生方をサポートする立場にいます。そこで大切にしたのは、「これまでのやり方を否定しない」ということです。 先生方がICTを使わないのは、単に「機会」がなかったり、活用イメージが湧かなかったりするだけです。ですから、「全部デジタルにする必要はありません。アナログの良さとデジタルの良さを比べて、効果的なほうを選びましょう」と伝え続けました。その結果、多くの先生が「これなら自分にもできる」と安心して踏み出せたのだと思います。



及川先生
そうですね。実際に使ってみると、デジタルには「暗黙知の共有」という圧倒的なメリットがあります。 生徒の頭の中にあるイメージや、クラス全体の理解度が、瞬時に可視化される。この「質の向上」を一度体験すると、先生方は自然と「次はこう使ってみよう」と前向きになっていきました。

落語を英語で!?「静寂」の中で起きている熱い対話

改革の成果は、生徒たちの姿に表れ始めています。取材班も実際に西田先生の英語の授業を拝見しましたが、そこにはICTならではの「対話」が生まれていました。



——提出BOXに並んだクラス全員の音声を、生徒たちが真剣な表情で聞き入っている姿が印象的でした。誰の音声か分からない状態で聞き合っていましたね
西田先生
あえてパッと見では誰の音声か分からないようにしています。そうすることで、生徒たちは先入観なくフラットに友達の音声を聞き、「この発音いいな」「自分より上手いな」と純粋に学び合うことができるからです。より良い音読をするためにはどうすればいいかを考えるきっかけになったと考えています。

工藤校長先生
その時の教室の様子が、非常に印象的でした。 一見すると、生徒たちはヘッドホンをしてタブレットに向かい、教室は静まり返っています。しかし、彼らはただ黙っているわけではありません。友達の英語を真剣に聞き、分析し、ペアの相手にどう伝えれば上達するかを必死に考えている。話し合うことだけが協働ではない、ICTがあるからこそ実現できる「深い対話」がそこにはありました。

「表現力」を支えるのは、確かな「基礎学力」。データで見えた学力向上と、働き方改革の両立

西田先生の授業のように「表現力」や「協働性」を高めるためには、その土台となる知識や技能。いわば学習の「基礎体力」が欠かせません。同校では、その定着に「ドリルパーク」を活用しています。

——表現力を支えるための基礎基本の定着において、「ドリルパーク」はどのような役割を担っていますか。
荻原先生
基礎計算や漢字などの反復練習を効率的に行える場として機能しています。 やはり表現をするためには土台が必要です。「ドリルパーク」は、生徒一人ひとりの習熟度に応じて問題が提示されるため、苦手分野を重点的に克服し、表現力を発揮するための「基礎体力」作りに貢献してくれていると感じます。



——実際に「基礎学力」の向上という点で、変化は見られていますか。
荻原先生
今年度から朝学習に本格導入したばかりなので、まだ確実なことは言えませんが、データ上で一定の傾向は見えてきています。 「ドリルパーク」を継続的に活用している生徒ほど、1学期と2学期の定期考査を比べた際に、基礎計算の正答率が平均で5%程度向上しました。 「ドリルパーク」を継続しているということは、それだけ「学習習慣」が定着しているということでもあります。ツールを使って自ら学ぶ習慣が身に付いた生徒は、結果として学力も伸びているのだと推測しています。

——「ドリルパークの」活用は、先生方の「働き方」にも変化をもたらしましたか。
 荻原先生
大きな変化がありました。以前はプリントの印刷・配布・採点が必要でしたが、ICTなら準備不要ですぐに取り組める上、学習履歴が自動で記録されます。 私たち教員は、スキマ時間にデータを確認するだけで、弱点分析や指導計画の立案が容易になりました。「働き方改革」と「指導改善」が同時に進められるのは、非常にありがたいですね。

支援員もワンチーム。先生の「やりたい」を形にする

現在では、ほぼ全ての先生がICTを活用している同校。その背景には、先生方の挑戦を支える温かいバックアップ体制がありました。

——先生方が安心して新しいことに挑戦できる要因は何だと思われますか。
髙橋副校長先生
やはり、石川先生と、支援員の野口さんの存在が大きいですね。 先生から「授業でこんなことをしたい」という相談が出ると、それを野口さんが技術的に形にし、石川先生が専門的な知見で支える。この連携があるから、先生方はアイデアを出しやすいのです。



石川先生
実は私も「オクリンクプラス」を使うのは今回が初めてでした。ただ、過去にICTマイスターを取得した経験から、デジタルの基本的な考え方は理解していました。 私の役割は、先生方が「分からない」と立ち止まってしまった時に、一番近くで安心感を与えることだと思ったんです。支援員の野口さんと連携しながら、先生方の不安を取り除き、挑戦を後押しできるよう心がけました。



——現場を支える立場として、野口さんは先生方の変化をどう見ていらっしゃいますか。
野口さん
石川先生がいらっしゃる安心感は、私にとっても非常に大きかったです。 そして何より、先生方の「熱量」がすごいんです。西田先生をはじめ、先生方自身が「この授業楽しい!」と感じながら実践されているのが、ひしひしと伝わってきます。 以前は操作方法の質問が多かったのですが、最近は「こういう授業を実現したいんだけど、どうすればいい?」という“相談”に変わってきました。私はその想いを技術で翻訳し、サポートしているだけです。先生方が楽しんでいる姿が生徒にも伝わり、それがまた他の先生へ……と、良い連鎖が起きていることを実感しています。



——最後に、今後の展望をお聞かせください。
西田先生
ツールは進化し続けます。ミライシードも進化する。だからこそ、私たち教員も「とりあえずやってみて、ダメなら変えればいい」というスタンスで、常にアップデートし続けたい。大人が挑戦する姿こそが、生徒への一番の教育になると信じています。



工藤校長先生
目指すのは、「自ら考え、他者と議論できる生徒」の育成です。「青葉中の生徒は、やっぱり生き生きしているよね」と言われるような、主体的な学びの姿を、これからもチーム一丸となって追求していきたいと思います。そしてそのためにはICTの活用は必要不可欠だと思っています。「オクリンクプラス」も「ドリルパーク」も、青葉中ではこれだと1つに決めて使い倒しています。生徒も先生も、使い慣れていくことで本来の学びや教材づくりに集中できる。
ICTでの学びを通して意欲をもつこと自体も学力の1つであると考えており、ICTの良さをうまく取り入れながら自分で考えて判断して行動できる力を身に付けた生徒を育成したいと考えています。

【編集後記】

取材前に拝見した西田先生の授業。落語の動画を見て笑い、真剣な表情でペアの音声を聞き込み、アドバイスし合う生徒たちの姿が目に焼き付いています。 「静寂」に見える時間の裏側で、彼らの頭と心はフル回転していました。 管理職の信頼、リーダーの情熱、支援員と推進担当の強力なサポート、そして生徒たちの意欲。それら全てが「ICT」という接着剤で結びつき、学校全体が心地よい音を奏でている。そんなハーモニーを感じる素晴らしい事例でした。

※取材の内容は2025年12月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。

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