何がわからないか。
どう勉強したらいいか。
この自己理解を促せるのが、
ICTの良さだと思います。
——新潟県新潟市立濁川中学校
夏休みの宿題を考えるのは生徒自身
自己調整力を伸ばす「マイチャレンジ」の実現
新潟県新潟市立濁川中学校は、自己調整を働かせる学習の推進として、夏休みの宿題を生徒自身が考える「マイチャレンジ」の取組に挑戦されました。
マイチャレンジを構築するうえで鍵となったのが、ICT。端末とドリルパークを学びの主軸としてご活用いただきました。このチャレンジングなお取組に至るまでの課題感や取組の詳細、成果について、生徒も交えてお話を伺いました。
———新潟県新潟市立濁川中学校
武田 統理 校長先生
和田 麻友美 教頭先生
石井 隆浩 先生(教務主任)
石川 大 先生(GIGA/ICT担当、学習指導部長)
佐川 詩織先生(研究主任)
———新潟市教育委員会 学校支援課
髙橋遼太郎(指導主事)
「自己調整」こそ、子どもたちの未来をつくるために必要な鍵
——貴校の教育方針をお聞かせください。
武田校長先生:
これからの子どもたちが生きる時代は、正解のない問いばかりです。そうした時代であっても、自分の手で進んで新たな価値をつくり出せる人間になってほしい。そんな願いを込めて、本校は「ねばり強く創造的に生きるたくましい生徒」という教育目標を掲げています。
昨日、給食に切り干し大根のナポリタンが提供されました。栄養価の高い郷土料理を残さず食べてほしいと、管理栄養士の方が工夫をこらして創作したのでしょう。初めて食べましたが、本当に美味しかったです。既存の知恵を合体させて新たな価値を生む、創造的な取組の好例です。
こうした創造に取り組めるよう、子どもたちには常に問いを持ち、学校内外のさまざまな人と知恵を持ち合って納得できる解をつくる体験をしてほしいと考えています。また、この対話や議論を通じて、自分自身の長所や短所、得意・不得意を把握し、次の成長の糧としていくことも重要です。こうした観点から、近年本校は「共創・協創」や「自己調整」といったキーワードにもとづく教育改革に臨んできました。
武田校長先生。学校全体の教育像やお取組についてお話いただいた。
夏休みの宿題を考えるのは自分!? 新たな試み「マイチャレンジ」
——お話いただいた「自己調整」を働かせる学びについて、貴校はこの夏休みにドリルパークを使ったお取組を進められました。改めて、詳細を伺わせてください。
石井先生:
さまざまな取組を進めてきましたが、本校の生徒たちの学びの姿勢はまだまだ受け身でした。そこで、従来的だった夏休みの宿題を刷新し、自分の強みを伸ばし、弱みを克服するためにどのような学習が必要か考え、計画的に進めるスタイルの学びを始めようと考えました。これが「マイチャレンジ」です。
取組は夏休み前の準備から始まります。はじめに、生徒は「マイチャレンジ」のプリントに、自分の強み・弱み・必要な学び、チャレンジ、学びの方法や工夫を記入します。必要があれば、「チャレンジミーティング」と称する個別相談の時間に、教員と一対一で内容を相談することも可能です。
夏休みに入ったら、自分で決めた必要な学びを進めながら、「マイチャレンジ」の裏面にうまくいったことや気づきを、計画表に具体的な学習内容を記録します。夏休み中は定期的に担任がオンラインで進捗を確認し、フォローしながら、自己調整にもとづく学びを進めてもらおうと考えました。

石井先生(教務主任)。手に持っているのがマイチャレンジ。
——学習内容は生徒がすべて自分で決めるのでしょうか。
石井先生:
個別相談の時間があるとはいえ、学びの手立てを生徒だけで考えるのは容易ではありません。そこで、生徒がどんな方法で学習するか考えやすいように、教科ごとに「チャレンジカード」を用意しました。チャレンジカードは具体的な学習内容が書かれたカードで、「基礎コース」「標準コース」「探究コース」の3種類を用意。コースの内容をベースに自分でアレンジしたり、全然別の内容に取り組んでも構いません。あくまで、生徒たちが学習内容に迷わないための材料の一つという位置づけです。

実際に生徒が記入したマイチャレンジの例。必要な学びとして、英単語の暗記や、国語のワークの反復演習に触れている。
——学習内容の例をご紹介ください。
石川先生:
例えば、数学のチャレンジカードは、「基礎コース」と「標準コース」の2つとも、ドリルパークの演習を指定しました。基礎コースはドリルパークの「学び直しドリル」を使って苦手な単元を復習する、あるいは小学校1年生から6年生までの単元を全てクリアする、といったシンプルな内容です。「標準コース」は、夏休みまでに習った単元について、「AIドリル」や「共通ドリル」など、どのドリルでもいいから全てクリアする、という内容にしました。
「探究コース」は数学が得意な生徒向けのコースで、「身近な事象を数学的に考えてみる」と、やや難度が高めの内容にしました。

石川先生。GIGA/ICT担当として、濁川中学校のICT活用を牽引。
——取り組まれて、印象的だったことはありますか。
石川先生:
小学校の割り算の計算もあまりできないほど、数学が苦手な生徒がいたんですね。「チャレンジミーティング」で私と話したところ、標準コースの「小学校の全単元クリア」を目標にすると話しました。ややハードルが高いかもしれないと思っていたのですが、目標通り全てクリアして2学期を迎えてくれました。誇らしげにしている生徒を見て、私も本当に嬉しかったですね。
本人のモチベーションには、紙のワークではなく、ドリルパークを教材にしたことがうまく働いたのかもしれません。子どもたちからすると、タブレットさえあればすぐに学習でき、丸付けも自動でしてくれるから勉強のハードルが低い。自分で丸付けを行うのも大切なスキルですが、ICTで情報が瞬間的に表示される時代に生きる子どもたちにとっては、やはり手間がかかる作業のようですから。
また、教員からしても、長期休みの課題にドリルパークを活用するのは最適だと感じました。学習履歴がリアルタイムで見られるからです。
勉強が苦手な子や、基礎コースや標準コースを選んだ子が滞りなく進められているか不安だったのですが、常に進捗がわかるので心配無用でしたし、進捗を見て端末に個別メッセージを送ったり、電話で保護者の方に状況を聞くこともできました。自己調整を働かせる学びこそ、見取りが重要になります。その見取りの効率や質を大いに高めてくれました。
佐川先生:
私が受け持つ生徒の中にも、今まであまり勉強に熱心でなかったのに、この夏休みは前のめりになって取り組む子たちがいました。私が受け持つ部活のとある生徒も、その一人です。ドリルパークの場合、石川先生が言うようにすぐにフィードバックが可能です。夏休み中、進捗を見ては部活のたびに「よくやっているね」と声をかけ、それがまた本人のモチベーションとなり、「これだけは頑張ろう」と立てた目標を完遂する。とてもいいサイクルで、長期休暇の課題に取り組んでもらえたと思います。

佐川先生。実際の生徒たちの様子について、お話いただいた。
ICTが自己理解を支えるから、「もっとやってみよう」と思える
——ドリルパークについて、改めてご評価をお聞かせください。
和田教頭先生:
本校が目指す「自己調整」を働かせる学びにおいては、自己理解が欠かせません。自分は何がわからないのか、どういう状況にあるのか、どうなりたいのかがわからなければ、学びを調整しようがないからです。その意味で、普段の学びが学習履歴として蓄積され、ひと目でわかるドリルパークは、自己調整を働かせる土台として最適なツールです。
また、学びの過程においても、自動採点や解説、AIによるヒントが充実していますから、「本当にこれで合っているのかな」「どうしてこの問題がわからないんだろう」という疑問を抱きづらい。自分の理解度をその都度再確認しながら学習を進められるので、子どもたちも「やってみよう」と思えるのでしょう。石川先生や佐川先生たちが見た子どもたちも、そうして学びへとポジティブになってくれたのだと思います。

和田教頭先生。自己調整を働かせる学びと、ICTやドリルパークの親和性をお話いただいた。
石川先生:
ドリルパークのおかげで、子どもたちが以前の学年の復習を厭わなくなったように感じます。紙のワークの場合、2年生が1年生のワークを取り出して復習することは基本的にありませんが、ドリルパークはボタン1つで他学年の単元に移れるので、復習しやすいのでしょう。
また、先にお伝えしたように、ドリルパークは子どもたちの学習履歴を簡単に確認できます。そのため、「次の授業はこの部分の復習を厚めにしよう」「授業中にこのキーワードを使おう」と、小回りの効いた授業改善が行いやすくなりました。
今年度からテストパークの活用も始めたのですが、このツールも大いに活用の余地がありますね。特に、教員の負担軽減に効果的だと思います。本校は小規模校であり、1人の先生が2学年分のテストを作成することもあります。従来のテストの形式だと問題選びから印刷まで多くの労力がかかっていましたが、テストパークへの置き換えが進めば、テストづくりにかかる労力を減らして、子どもたちの見取りにもっと時間を割けるようになるでしょう。
——市の指導主事としては、今回の濁川中学校のお取組をどのように感じていますか。
高橋指導主事:
本市の教育課題に対して、解決策の一つを示してくれた好例だと捉えています。
新潟市は昨年度末に「新潟市教育振興基本計画~にいがた学びのコンパス~」を策定しました。その中で、本市の教育が目指す人間像を「しなやかに世界と未来を創る人」と定めています。この人間像の実現にあたって、個別最適な学びと協働的な学びの充実を重視していますが、特に個別最適な学びについては、なかなか教員間でイメージが揃わない部分が否めません。
子どもたちが課題意識や問題意識を持ち、自分で問題を選んで学びを進める。濁川中学校は、まさにこの個別最適な学びを一つの形で実現してくれました。デジタルドリルをはじめとしたICTは、さまざまな課題を解決するうえで欠かせないツールです。濁川中学校の取組を事例として市内に展開し、全市でICTの活用や、そこから来る個別最適な学びお協働的な学びの充実を図っていきたいと考えています。

髙橋指導主事。濁川中学校の取組は好事例であり、市内に広めていきたいとのことだった。
マイチャレンジ」でドリルパークを使った子どもたちの感想は?
——夏休み中、どのようにドリルパークに取組ましたか。
Aさん:
苦手な数学に、1日30分取組ました。先生からは「毎日やりなさい」など、特に細かい指示がなかったので、自分で考えて、必要な分を勉強するようにしました。

インタビューに応じてくれたAさん。数学が苦手だった。
Bさん:
夏休み中は、これまでに習った範囲のできなかったところや、定期テストで点数が悪かったところを復習しました。ドリルパークは紙のワークと違って、書く手間がないし、何回でも繰り返し取り組めるので復習しやすかったです。

インタビューに応じてくれたBさん。夏休み中は毎日40分程度、ドリルパークに取り組んだそう。
——Aさんは、どんな勉強にドリルパークが向いていると思いますか。
Aさん:
古い内容の勉強を復習するときです。私は数学が苦手なので、夏休みは小学6年生の比例・反比例までさかのぼって復習しました。小学校の内容でも、わざわざ教材を取り出さずにすぐ勉強できて便利でした。
——夏休みにがんばってよかったと思うことはありますか。
Aさん:
AIドリルが自分に合った問題をどんどん出してくれるので、たくさん数学の問題を解きました。おかげで、以前よりも計算がはやくなったと思います!
——最後に、ドリルパークの好きなところを教えてください。
Bさん:
やる気がわかないときでも、勉強しやすいところです。紙で勉強していると、手が疲れたり、丸付けが面倒でやる気が出ないときがあるんですが、ドリルパークなら手間なく勉強できて、「これだけやってみようかな」と思いやすいです。
——お二人とも、ありがとうございました。
生徒様に取ったアンケートのデータ。今年度の取組を通じて、学習習慣が「身に付いた」子どもが約7%、「どちらかと言えば身に付いた」子どもが約7%増えた。
【編集後記】
どの先生にお話を伺っても、校長先生がお話された教育目標に向かってまっすぐに向かわれていることがよくわかり、学校全体の一体感をとても感じました。また、生徒様のお話を伺えたことも印象的でした。生徒様自身が自分に必要なことを考え、学びの計画をつくろうとしている姿勢が伺えました。
撮影/増井 友和
文/株式会社オンソノ 鈴木康介
※取材の内容は2025年9月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。
所在地:新潟県新潟市
学校名:新潟市立濁川中学校
特色:「共創・協創により、生徒一人一人に魅力ある教育活動を展開する」ことをテーマに、教科横断的な授業や、地域を舞台にした探究学習(プロジェクト)など、独自の学びを展開する新潟市の公立中学校。生徒数は3年53名、2年66名、1年69名。
