子どもたちにより大きなものを返す。
そのために活用するのが、ICTです。

——大阪府茨木市立山手台小学校

教育DXストーリー

学年、学校、そして他校…
ICTを軸に、教室外へと学びをつなぐ

大阪府茨木市立山手台小学校の松波健太郎先生は、「ミライシードAWARD2025」関西地域賞に輝かれました。
松波先生の取り組みを一言で表すと、「オクリンクプラスから広がる、つながる学校と子どもたちの新たな学びの姿」。学びを1学級の1教室で行われる閉じたものから、学級・学年・学校の垣根を超え、家庭学習にまでつながる、広がりのあるものへと変えられた、チャレンジングな取り組みです。受賞者インタビューとして、実践の詳細や実践に至った経緯、授業への想いを松波先生に伺いました。

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新たな学びを築く、ICTの可能性

——はじめに、ミライシードAWARDにエントリーされたご実践を始めた経緯についてお聞かせいただけますか。
松波先生
実は、私はもともとICTにそこまで大きな期待を寄せていませんでした。例えば協働学習に効果的と言っても、単に意見を共有するだけなら、黒板に意見を書いたり、作品を貼ったりするのでも大きな違いはありませんよね。

ただ、端末の持ち帰り学習が始まったのを契機に、考えが変わりました。ICTを活用すれば、振り返りや学びの蓄積が容易になると気づいたからです。例えば、それまで図画工作の作品は画用紙をポートフォリオとしてまとめていたのですが、立体作品など、どうしても学びの記録が難しいものもありました。それが端末を用いれば、写真として記録するだけでなく、いつでも、家庭からでも、「あんなことをやった」「こんなことをやった」と振り返りまで簡単に行えたんです。こうした新しい学び方ができるのかと身をもって知ってから、どんどん新しい活用法を模索するようになりました。


松波先生。ミライシードAWARD2025にエントリーし、関西地域賞を受賞された。

そうしてこの数年間、自分なりにICTの活用を深めていく中で、3つの課題にぶつかりました。1つ目は、端末を授業で用いると、子どもたちが画面だけに注目してしまい、個人作業になってしまいがちだったこと。2つ目は、オクリンクやムーブノートなど自分のクラスで活用していても、その内容を他のクラスや学年・学校全体で共有するのは難しかったこと。3つ目は、ICTの活用に教員間でムラがあったことです。

児童個人やあるクラス、熱心な教員だけでなく、もっと学校全体でICTを活用したいが、どうすればよいのか。もどかしさを感じるなか、オクリンクプラスの研修を受けたとき「これだ!」と感じました。この新たなアプリなら、これらの課題を全部解決できると直感したからです。そうして1年間かけて、今回の実践に取り組みました。

学びを教室の外へと広げる3つの挑戦

——実践の詳細をご紹介ください。
松波先生
大きく分けて、3つの取り組みに挑戦しました。

1つ目は図画工作(図工)での「学年鑑賞会」の開催です。これまで児童が図工で作品をつくった際は、学級の掲示板に掲示したり、学級通信に写真を掲載したりして、学級外の生徒や保護者に伝えていました。しかし、子どもからすると他学級の掲示板というのは気持ちが遠いもので、じっくり鑑賞する子は多くありませんでした。そこで今年度の図工は担任間で連携し、オクリンクプラスに各学級のボードを用意し、そのボード上に各学級すべての作品を掲示して鑑賞することに。これまでよりもずっと手軽に、広い範囲で、他者の作品から学びを得るよう促すことが可能になりました。

2つ目は、オクリンクプラスで行う「自主学習ノート計画」づくりです。本校は3年生から、学習する内容を保護者と一緒に決めて取り組む自主学習ノート活動が始まります。図工と同様に、こちらも校内に「自主学習掲示板」が設けられて、高学年の優れたノート例が掲示されているのですが、自主学習は基本的に家庭で行うものです。当然ながら、家庭から掲示板を見ることはできません。

今年度はこの「自主学習掲示板」も、オクリンクプラスの「みんなのボード」上で展開しました。高学年の児童に協力してもらい、例を写真に撮って掲載したところ、「すごい!」「僕も(私も)こんなノートをつくってみたい!」と、大反響。ノートづくりに意欲的になり、実際に保護者の方に手伝ってもらいながら、多くの児童が自分なりの自主学習ノートをつくって提出してくれました。単に自主学習ノートをつくれただけではなく、「高学年ってこんなことをしているんだ」「高学年ってすごい」と、自分たちの学びの先にある姿をイメージさせられたことも、この取り組みの収穫と捉えています。

3つ目は、総合的な学習の時間「~まち・人・思い~に出会う」学習での実践です。「~まち・人・思い~に出会う」学習は、茨木市についての探究学習。校区探検や社会見学を通じて、自分たちの住むまちの魅力や、まちに関わる人とその思いについて知り、発信する学習です。本学習は従来学級別に展開していたのですが、今年度はオクリンクプラスを活用し、4クラス合同のグループをつくって実施しました。児童たちは「みんなのボード」上で写真を貼り合って発表資料をつくったり、発表に必要な台本をつくったりと、オクリンクプラス上で盛んに別クラスの児童と交流。休み時間も、端末を持って違うクラスへ相談に行ったりと、対面でのコミュニケーションも積極的に行っていました。発表は学年ではなく、学校全体で実施。全校集会の形を取り、各グループがオクリンクプラスの画面をモニターに投影して、調べたことや自分の考え・思いを全児童に伝えました。

「~まち・人・思い~に出会う」では学びを学級から学年へ、学年から学校へと広げたのですが、広げる先はまだありました。市内の他校です。茨木市の小学校で、本校と似た総合学習を行っている学校は少なくありません。そこで、私の前任校と、直接電話して話を持ちかけた2校と連携し、オンライン発表会を開催。本校はオクリンクプラスの画面を、他校はパワーポイントの画面をオンライン会議ツール上で共有し、学んだ内容を伝え合いました。

——他校との発表会まで行われたのですね。子どもたちの様子はいかがでしたか。
松波先生
まだ3年生ですから、他校とのつながりなんて子どもたちに全然ありません。ですから、他校の児童が画面に映っただけでワーッと大歓声が上がりました(笑)。また、本校は山がちな地域に、交流した学校はどちらも街中に位置しています。同じ茨木市でも地域性が違いますので、本校の児童が発表すると、画面からは「イノシシが出るんだ!」と驚いた反応が聞こえてきました。それは本校の児童が聞く側になっても同じ。「お店がいっぱいある!」「学校の近くを電車が通っているんだ」と、興味津々の様子で傾聴していました。終わったあと、多くの児童が「また他校と交流したい」と話していて、うれしかったですね。

取材当日の授業でも、オクリンクプラスを活用した協働学習や、発表が行われていた。


児童にも教員にも、もっともっとICTに触れてほしい

——「学年鑑賞会」では学級から学年へ、「自主学習ノート計画」では学校全体と自宅へ、「~まち・人・思い~に出会う」では他校へと、子どもたちが学ぶ時間や空間をどんどん広げられた取り組みでした。
松波先生
発達段階にもよるのかもしれませんが、特に3年生の子どもたちにとって、隣のクラスは意外と遠い存在なんですね。行くのを恥ずかしがるし、来たら来たで「なんで隣のクラスの人が?」と思う。ましてや高学年のクラスなんて、なかなか行けないものです。だからこそ、その垣根を取り払ったら、今までと全然違った学びが生まれて面白いだろうなと思ったんです。 また正直なところ、本校はICTの活用がそこまで進んでいる学校ではありません。他校は無線でテレビと端末をつなげているのに、本校は未だに有線で、その有線接続すらうまくできない授業だってあります。今回の取り組みは、「共有」を軸に、学級から学年、学年から学校、本校から他校と、1年かけて段階的に規模感を広げていきました。その中で、ICTに慣れていない児童にも、教員にも、ICTを活用すれば思考を簡単かつスピーディーに、そして効果的に広げられることを実感してもらいました。だから無理なく、多くの児童・教員がICTを活用できましたし、特に教員には授業でICTを活用するメリットを浸透させられたと考えています。学校全体で見ると、オクリンクプラスを使った授業は昨年度より相当増えたのではないでしょうか。 

もちろん教室内でも、子どもたちは“つながって”学んでいる。

【編集後記】

先生にとってICTとはどのような存在かお聞きしたところ、「自分のしたいことが、時間をかけずに、それも楽にできる」ツールだとお答えいただきました。理想の授業を短時間で、効率よく実施できる。そうして浮いた時間を、子どもとのコミュニケーションや見取り、さらなる授業準備に生かし、より大きな学びを子どもに返していける。もっと多くの先生が楽をして、たくさんのものを子どもたちに返せるように、校内推進を進めていきたいとお話しされていました。

撮影/株式会社デザインオフィス・キャン 加藤武
取材・文/株式会社オンソノ 鈴木康介

※取材の内容は2025年3月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。

■学校プロフィール 
所在地:大阪府茨木市
学校名:茨木市立山手台小学校
特色:「お互いを認め 学び合い つながろう」を研究テーマに、市が掲げる「一人も見捨てへん」教育や、「茨木っ子プラン ネクスト5.0」を推進する。自主学習ノートの取り組みをはじめ、基礎学力の向上にも意欲的。
  • 中学校
  • ムーブノート

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