子どもたちの考えたいことと
指導事項をどう近づけるかを、
考えました。

——北海道札幌市立山鼻小学校

教育DXストーリー

子どもたちの考えを否定することなく
自由かつ着実に、指導事項の修得を深める

「ミライシードAWARD2024」北海道地域賞に輝かれたのは、札幌市立山鼻小学校の守屋先生です。自由進度学習が全国的に注目されるなか、守屋先生は学びを子どもたちに委ねることと、子どもたちが確実に指導事項を身につけていくことの両者のバランスを取る実践に取り組まれました。守屋先生に伺った実践の詳細をお伝えします。

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主体的な学びと指導事項の獲得の両立に向けて

——実践の背景にあった、指導の課題をお聞かせください。
守屋先生
本校が位置する札幌市は、「さっぽろっ子「学ぶ力」の育成プラン」において、「学びのコントローラーをもっているのは子ども自身」と、子ども一人ひとりの主体性に委ねた学びの推進に力を入れています。例えば自由進度学習は、こうした学びとして最もイメージしやすいものでしょう。

しかし、子どもたちに委ねた学びというのは、何を・どこまで子どもに“委ねる”のか、そのバランスが難しい。あまりに自由度が高いと、指導事項を獲得することなく単元が終わってしまうでしょうし、逆に教員が話しすぎるようでは従来的な教え込みの授業と変わりません。それはそれで問題です。教え込みの授業では、瞬間的な記憶にとどまって、時間が経ったら忘れてしまいますから。児童が指導事項を自覚し、その獲得に向かって、楽しみながら主体的に学習をコントロールする授業ができればと考えていました。


守屋先生。ミライシードAWARD2024の北海道地域賞に輝かれた。



——具体的には、どういった授業をイメージされていたのでしょうか。
守屋先生
教員と子どもが一緒になって単元計画を立てていく授業です。単元の導入時に、子どもたちが「こんな力を身につけたい」「これができれば、相手に伝えられる」と、単元のゴールを考える。そして、そのゴールに向かって探究していく方法や単元全体の構成の見通しを立てる。ただし、そのゴールや構成が必ず指導事項と重なるとは限りませんから、必要に応じて授業の中で単元計画を見直す。この流れを実践してみようと考えました。

児童とともに単元計画をつくり、児童とともに計画を見直す

——ご実践された単元の例と、実際の流れをご教示ください。
守屋先生
4年生国語「ごんぎつね」の単元での授業を紹介します。

単元の導入の時間では、初めに子どもたちに対して狐に対する「よい印象」と「悪い印象」を挙げるよう呼びかけ、出された意見を黒板にまとめました。そして板書を見ながら、子どもたちの意見は身近なものから受けている印象と、物語から受けている印象に分かれていると私の方でまとめつつ、物語に出てくる狐のイメージをさらに話し合ってもらうことに。「悪いイメージが多い」「狐は怖いイメージが多いから、悪く描写されがち」といった意見や、「(教室に置いてある本では)よい狐として描かれていた」といった意見が出ました。

このような話し合いを行ったうえで、初めて単元の学習計画の検討へ。「物語に出てくる狐は、どのように描かれているのか」を探究することをゴールにしようとみんなで決めたうえで、調査の方法も検討しました。初めは「図書館や家の本を手分けして調べる」案に決まりかけたものの、単元の時数を伝えたところ、「調べきれない」という結論に。教科書の「ごんぎつね」をみんなで調査することに決まりました。

調査対象が決まったので、次は調査の方法である読み方を議論しました。私は「『ごんきつね』全文を読みながら、個々の児童が自分に合った視点でごんが「よい狐」か「悪い狐」かを探究し、『どのように探究すると狐性(人間性の狐版)がわかるのか』を見出す」流れになると考えていたのですが、子どもたちの意見は違いました。「物語の結末がわかったら、それで狐性がわかる」という意見に、ほぼすべての児童が賛成したんですね。なので、子どもたちの意見に合わせて、「ごんぎつね」と教科書付録の「手袋を買いに」の結末から狐性を探究していこうと、単元の流れを決めました。


導入の授業での板書。狐について探究する方法から、児童とともに検討した。

守屋先生
導入後の授業では、「ごんぎつね」の終わりを読んで感想を書き、その感想をもとに「よい狐」か「悪い狐か」を考えていきました。子どもたちの感想は「よい狐」に偏っていましたので、私から「じゃあ、よい狐ということでいいね?」と問いかけたところ、「やっぱり最初から読んで、物語のつながりを見ないとわからない」という意見が。そこで、今度は場面を比較しながら物語全体を読解していこうと、単元の学習計画を修正しました。

物語全体の読解には、オクリンクプラスを活用しました。まず、「みんなのボード」に教科書の全文を掲載。児童は「ここではよい狐」「ここでは悪い狐」と、教科書の画像に思い思いのカードを貼っていきます。当然、どこでよい狐と感じるか、悪い狐と感じるかは児童によって異なりますので、自然と「どうしてそこに貼ったの?」「なんでそのカードなの?」と、話し合いが生まれていきました。同時に、物語の途中で狐性が変わっているという、指導事項にもつながる気づきを得ることができました。

子どもたちの話し合いの内容は、どのような視点から検討しているかとともに、私が板書。「(兵十は気づいていないが)兵十視点では悪い狐」「ごん視点ではよい狐」など、出来事や登場人物の行動、気持ち、様子など、探究の視点を整理してまとめました。

守屋先生 最後に、教科書付録の「手袋を買いに」を、「ごんぎつね」で得た探究の視点から読解。「よい狐」「悪い狐」には分類できない記述もあったことから、新たな分類である「その他の狐」を設けて、「よい・悪い」とは別の視点から物語を読み解いていきました。


「手袋を買いに」の授業時の「みんなのボード」。教科書の本文に、児童が思い思いにカードを貼り付けている。


子どもたちの考えと、指導事項が重なる瞬間のうれしさ

——子どもたちが気づきを得て、積極的に発話しながら、自分たちで学びの方向性を決めているのが印象的でした。どういった工夫がポイントになっているのでしょうか。
守屋先生
考えるための種まきはたくさんしています。例えば「ごんぎつね」の場合、導入の時間より前から、教室に狐の物語の本や狐に関するグッズを置いていました。それから、私の家に狐が来ることも話していましたね。今日の授業では、今後、他の学校でも活用できるかが大切でしたので、種まきをしませんでした。しかし、普段の実践であれば、アパレル会社を題材にしようとしましたので、あらかじめその会社の広告動画を流したり、その会社の代表の話をしたりすると思います。

また、私は日頃から子どもたちに「授業に関する“つぶやき”なら、授業中でもいくらでも発話していい」と伝えています。すると、子どもたちは思うがままに、どんどん“つぶやく”んですね。そこから「いや、これはこうだ」「私はこう思う」と、子どもたち同士でどんどん話し合いが広がっていく場面も少なくありません。協働のこうした土台ができていたのも、今回の実践が成功を収めたポイントかもしれません。


取材当日の授業でも、児童の“つぶやき”がたくさん見られた。

——実践を振り返って、印象的だった場面はございますか。
守屋先生
子どもたちは初め、「ごんきつね」の最後を読んだら、次の「手袋を買いに」へすぐ移るつもりでした。これでは本来、本単元のねらいの一つである「場面を比較しながら登場人物の気持ちの変化や性格、情景を具体的に想像する」学びは得られません。しかし、「じゃあ、よい狐でいいね?」という私の問いかけから、「やっぱり全体を読んで場面を見比べてみたい」と単元計画を見直し、再度「ごんぎつね」を読解する流れへと舵を切り替えました。

子どもたちの「もっとこうしたい」「もしかしたらこうかも」という考えを的確に捉えたり、教員が子どもたちの考えを整理して提示することさえできれば、子どもたちの考える方向性を否定することなく、指導事項とその考えを近づけることができる。そう自信を深められた場面でした。

——最後に、今後のご指導のご展望をお聞かせください。
守屋先生
子どもたちに学びを委ねるうえで、私は教員が“考える場”を設定することがとても重要だと考えています。例えば今日の授業でも、子どもたちにどうやって学習を進めるか聞いたところ、「プレゼンテーションがしたい」と言われました。ではプレゼンテーションしましょう、と言って進めるだけでは、学習が指導事項に結びつくかは未知数ですよね。そこで、「じゃあ、どんなプレゼンテーションをしたらいいかな」と問いかけたところ、目的意識を持って、改めて話し合いに向かっていました。

子どもたちの「やりたい」と指導事項が重なったとき、子どもは自走し、実り豊かな学びを得ていきます。そのために教員が投げかけるべき言葉は、そう難しいものではありません。今後も実践を重ねつつ、若手の先生を中心に、こうした授業のあり方を広めていきたいです。

【編集後記】

守屋先生は授業中、子どもたちが黙り込む時間もあるとお話しされました。若手の頃はその時間が嫌で教科書の内容を教え込むことに必死になっていたものの、最近はそのシーンとした瞬間こそ、子どもたちが考えを深めている時間なのだと気づかれたとのこと。コーディネーターとしての役割を意識されている先生方にとって、ぜひ知っていただきたい気づきだと感じました。

撮影/株式会社 デザインオフィス・キャン 加藤武
取材・文/株式会社オンソノ 鈴木康介

※取材の内容は2025年3月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。

■学校プロフィール 
所在地:北海道札幌市
学校名:札幌市立山鼻小学校
特色:「感じる・つながる・自ら未来を切り拓く 山鼻小学校」を学校経営の方針とし、教育・校務両面からのDXに取り組まれている小学校。札幌市の課題探究的な学習推進方針に則り、AARサイクルの視点から取り組む授業づくりにも注力されている。
  • オクリンクプラス

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