子どもの「もっと知りたい!」
「もっと見てみたい!」
という意欲を刺激したいです

——長崎県佐々町立口石小学校

教育DXストーリー

教科を横断。意見を往還。
枠を越えてふるさとを学ぶ、新しい社会科

「ミライシードAWARD2025」九州・沖縄地域賞に輝かれたのは、佐々町立口石小学校の教壇に立たれている津田信先生のご実践です。
津田先生は、4年生社会科「地域で受けつがれてきたもの」の単元で、長崎県の伝統的な祭礼である「おくんち(長崎くんち)」と、その催しものである「龍踊(じゃおどり)」を、教科横断的に学ぶご実践でミライシードAWARDにエントリーされました。
今回は、受賞者インタビューとして、津田先生のお取り組みの詳細や、ご実践に至った背景、普段から授業で大切にされている想いをご紹介します。

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教科を横断し、“みんな”でふるさと長崎を学ぶ

——はじめに、ミライシードAWARDにエントリーされたご実践について、詳細をご紹介ください。
津田先生
4年生社会科の「地域で受けつがれてきたもの」という単元の授業でエントリーしました。この単元は、地域の伝統・文化について、社会的な物の見方や考え方を働かせながら、地域の発展に関わる人々の想いや自分にできることを考える単元です。

本校が位置する長崎県では、地域の大切な伝統・文化として「おくんち(長崎くんち)」という祭礼と、「おくんち」の催しものである「龍踊(じゃおどり)」が継承されています。この「おくんち」と「龍踊」に対する人々の願いや龍衆(演者)について、教科書で題材とされている徳島県の「阿波踊り」と比較しながら考えることを、単元における活動の大きな方針と定めました。


津田先生。ミライシードAWARD2024にエントリーされ、九州地域賞を受賞された。

本実践は、教科横断的な学びを前提にカリキュラムを設計しました。というのも、4年生で学ぶ教科全体を見渡したときに、互いに関連して学べる要素が多かったんですね。例えば、音楽の「ちいきに伝わるおどりやまいの音楽を調べよう」の単元では、教科書上で龍踊が紹介されています。また、「地域で受けつがれてきたもの」では地域の伝統・文化を見学したり、調査したりする活動が求められるのですが、ちょうど同じタイミングで、国語の「いろいろな手紙」や「メモの取り方」を通じてインタビューの作法を学ぶことができそうでした。

指導案の一部。他教科での学習内容と関連させて、各単元の指導案が検討されている。

社会科は社会科、音楽は音楽、国語は国語と、分けて考えるのもいいかもしれません。ただ、同じテーマで各授業を展開すれば、教員も子どもたちも思考がシンプルになり、ゆったりと授業に臨めます。何より、実質的な時間数が増えることで、活動の幅や学びの視野が広がります。こうした考えから、社会科で9時間、音楽で3時間、国語で5時間、計17時間を使って横断的に「おくんち」と「龍踊」を学ぶことにしました。

17時間の大まかな流れは以下の通りです。まず、社会科の時間に阿波踊りや「おくんち」「龍踊」の歴史や文化的側面を調べつつ、音楽の時間に「龍踊」の音楽性を学び、実際に「龍踊」を体験します。続いて、国語の時間に手紙やメモの書き方を学習。その内容を生かして、社会科の時間に「龍踊」の龍衆(演者)へとインタビューします。最後に、これまで学んだ内容を国語の時間にアウトプット。「作ろう学級新聞」の単元で、「長崎伝統新聞」づくりに挑戦します。このように、各教科を横断しながら、基本的なインプットから調査、アウトプットまで、一連の流れの中で学ぶカリキュラムを設計しました。

——ミライシードAWARDでは、このうち特に社会科の5時間目に焦点を当てて、ご実践を紹介いただきました。
津田先生
5時間目は「龍踊」の龍衆(演者)に行うインタビューの質問を考える時間としました。授業は個人活動からスタート。前時までに調べたことやわかったことを元に、各々の「マイボード」に、インタビューの質問内容を書いたカードをつくります。子どもたちが多角的に質問を考えるように、教員は5W4H(いつ、どこで、だれが・だれに、何を、なぜ、どのように、どのくらい、いくらで)を意識するよう繰り返し伝えます。

次は班での活動へ。児童は班ごとの「みんなのボード」上にピラミッドチャートを作成し、優先すべき質問事項を選び、ピラミッドの上部へと配置していきます。

最後に、すべての班でピラミッドチャートを共有。「いいね!」「同じ!」など、「みんなのボード」上で共感的なリアクションを返しつつ、自分の班のチャートについたリアクションを参考に、質問事項をまとめます。

こちらも指導案の一部。協働学習支援アプリ(オクリンクプラス)の活用について図解している。この授業の際は、主に3つの場面での活用を想定している。

ICTによる意見の共有で、学ぶ意欲を最大化する

——ご紹介いただいた時間を含めて、先生が授業で大事にされている価値観は何でしょうか。
津田先生
私は、教員は「子どもが学ぶ手助けをする」役割を担う存在だと捉えています。先ほどの授業も、私が「教える時間」はあまり取っていません。子どもたちが授業の主役として、活動する時間が多くなるように設計しています。

授業中に投げかける言葉も、「こうします」「こうしましょう」ではなく、「どうしたい?」が中心。そうして子どもたちから「あれがしたい」「これがしたい」と意見が聞こえてきたら、「じゃあ、そうしようか」と授業のかじを切る。子どもたちが「自分から学んでいる」と自覚するためです。



——子どもたちが主体的に学ぶ授業を大切にされているのですね。そうした先生の姿勢に対して、ICTはどう役立っていますか。
津田先生
学ぶ意欲を高めるための、起点づくりに貢献しています。例えばミライシードの場合、「みんなのボード」でクラス全員の意見を瞬時に可視化できますよね。ああやってたくさんの意見が可視化されると、子どもたちはつい「他の人はどんなことを書いているんだろう」と、自分と人の意見を比べようとします。すると、今度は意見を交流したり、考えの違いを認め合ったりする。そして、さらに知りたい、もっと見てみたいと、学ぶ意欲が加速していく。

意見の共有というのは、学ぶ意欲を本当に刺激するものです。その過程をごく自然に実現できるのがICT、特に「オクリンクプラス」のよさですね。

学びの主役は児童。学ぶきっかけづくりを、これからも究めたい

——教科を横断的に学ぶ取組は、他の授業でも行われているのでしょうか。
津田先生
例えば、1学期は社会科で「都道府県クイズ」をつくり、そこでの学びを生かして、国語で「都道府県リーフレット」をつくる試みを行いました。理科は専科の先生が授業されるのですが、他の教科はすべて自分で見ていますから、年間の授業計画を考える際に、最初から「この単元同士はリンクさせて授業できそうだ」と見込みをつけていますね。私だけでなく、他の先生方も積極的に教科横断型の授業を展開していますよ。

教科を横断して学ぶことへの子どもたちの反応は、これからも、研究を進めていく予定です。ただ、「おくんち」について学んだ際は、「音楽と社会科で視点が異なっている」ことや、いろいろな教科と教科、教科と自分の生活が関わっていることを、多くの子どもたちが実感している様子でした。子どもたちが楽しそうに「おくんち」への学びを深めていたのは嬉しかったですね。その楽しさこそ、子どもたち自身で学びを進めていく原動力ですから。

——最後に、今後の授業のご展望をお聞かせください。
津田先生
私が理想とする授業は、子どもたちが互いに学び合って力をつけていく授業です。私の役割は、あくまできっかけをつくること。どうしたら子どもたちによりよい一石を投じられるか、その道具としてICTが秘める可能性も含めて、考え続けたいです。

取材当日は、算数の「辺と面」についての授業を見学。先生がただ知識を教えるのではなく、校内で「辺と面」を探し、作問する活動に取り組んでいた。

【編集後記】

津田先生の授業を拝見した際、「〇〇をしたい」「〇〇がいい」と、子どもたちが進んで意見を発信しているのが印象的でした。活動量も多く、先生が促さなくても、課題が終わった子から自然と席を立って話し合いに向かっていました。まさに「子どもたちが主役」の授業です。津田先生が大事にされている価値観が、子どもたちにもよく伝わっているのでしょう。

撮影/株式会社 デザインオフィス・キャン 加藤武 
取材・文/株式会社オンソノ 鈴木康介

※取材の内容は2025年3月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。

■学校プロフィール 
所在地:長崎県佐々町
学校名:佐々町立口石小学校
特色:1874年創立。校訓は「ゆめに向かう『やる気』」「夢をかなえる『本気』」「何度でもやり直す『根気』」の3つの『気』であり、敷地内の大木にも名札として掲げられている。
  • 小学校
  • オクリンクプラス

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