
「子どもたちのよさや
可能性を引き出し伸ばす」
そのためにできることを、
これからもみんなでやっていきます
——千葉県八千代市立八千代台西小学校、千葉県八千代市立八千代台西中学校、千葉県八千代市教育委員会(教育センター)
小学校、中学校、教育委員会… 三人四脚で、ICT活用の歩みを進める
千葉県八千代市は、2024年度より八千代台西小学校・八千代台西中学校をICT活用推進校に指定。同二校で効果的なICT活用の授業モデルを構築し、市全域へと広げる研究に取り組んでいます。
同市の取り組みの特徴は、教育委員会(教育センター)がハブとなって両校をつなぎ、三人四脚でICT活用を盛り上げていること。いかにして三者が結びついたのか、研究における教育センターの働きかけや、二校のご実践の状況について、教育センターの竹内大迪先生(指導主事)、八千代台西小学校の佐々木校長先生、石田先生、八千代台西中学校の󠄂片󠄂波見校長先生、成田先生に伺いました。
教育センターからの提案で実現した、三人四脚
——今回の取り組みに至った経緯をお聞かせください。
竹内先生:
八千代市は教育重点目標の一つとして「子どもたちのよさや可能性を引き出し伸ばす教育」を掲げています。シンプルに言えば、子どもたち一人ひとりが活躍する授業、子どもたち同士の関わりを重視した授業の実践と捉えていただいていいでしょう。
コロナ禍以前は、こうした授業の実践に向けて、ICTの活用が市内各校で盛んに行われました。しかし、コロナ禍以来、チョーク&トークの従来的な一斉授業へ逆戻りしている向きがあります。従来的な一斉授業が悪いわけでは決してありませんが、それだけで、果たして子どもたち一人ひとりが活躍し、子どもたち同士の関わりが重視され、子どもたちのよさや可能性を引き出し伸ばす教育が実現できるでしょうか。教育委員会は市の校長会でも積極的に授業改善を訴え、先生方の理解も得られていましたが、現場に浸透するにはまだ時間が必要なようでした。
右が竹内先生。ICT活用推進校に指定された二校を、強力にバックアップした。
これらの状況を重く見るなかで、折しも八千代台西小学校・八千代台西中学校の二校が、ICT活用推進校に指定されました。両校の取り組みをICT先進校としてモデル化し、市内に実践事例としてまとめて広げていけば、市全体の授業改善が期待できる。二校としても、教育センターが積極的に支援に入ることで、効果的な授業づくりをめざしやすくなる。三者全員にメリットがあることから、私から西小学校・西中学校に対して「研究をお手伝いしますよ」とお声かけしました。
——具体的には、どういったご提案を行われたのでしょうか。
竹内先生:
大きく分けて「研究計画の策定」「授業改善の直接的な支援」「研究指標の提供」の3つが挙げられます。「研究計画の策定」では、2024年度の取り組みの目標と、それに向けたスケジュール、授業改善の方向性を示しました。目標はいくつかありますが、特に大きかったのは11月に八千代台西小学校で行われる「合同訪問」、2月に八千代台西中学校で行われる「公開授業」です。ここで両校の先生方が、授業を展開することを大きな目標としました。
「授業改善の直接的な支援」は、オクリンクプラスに関する研修の実施、授業づくりの参考となる教育センター発行のレポート『Yachinishi Edu Bridge』の提供、それから各校が自由なタイミングで教育センターに授業を公開する「授業提案」の実施が中心です。
「研究指標の提供」は、授業改善の方向性を探るためのアンケートを年3回実施して、教育センターで分析した結果を提供する予定でした。道しるべがないと、先生方も授業改善の方向性で迷ってしまいます。そのため、「こういった授業を行うと、児童・生徒のこういった資質・能力が伸びる」と把握できるように、学習意欲・授業改善・自己肯定感の3つの項目からなるアンケートをつくって二校の児童・生徒に受けてもらおうと考えました。
——竹内先生からのご提案をどのように受け止められましたか。
片󠄂波見校長先生:
中学校としては、ありがたいお話だと感じました。私も以前から、ICTの活用について「もっとできるんじゃないかな」と考えていましたので。というのも、例えば子どもたちの成果物を端末で確認するなり、アンケートを集計するなり、そういった活動は見られていたのですが、効果的かどうかは果たしてよくわからない。要は“使う”レベルをなかなか越えていなかったんですね。
八千代台西中学校の片󠄂波見校長先生。
佐々木校長先生:
私自身は、「ICTが苦手な先生」「ICTを使っていない先生」が、使えるようになることが重要だと考えていました。実際にあった例ですが、2年生のある学級では2学期から自分で端末にログインし、授業を待つところまでできるようになっている。一方、別の学級ではまったくそうした指導が行われていない。そうすると、3年生に進級したとき、3年生の先生は後者の児童にあわせて一から教え直す必要に直面します。これではICTを使いたい先生も、使いづらいでしょうし、何より子どもたちの学習機会が減ってしまいます。
かといって、ただ使う回数を増やせばいいものでもないでしょうから、指標を活用しながら授業改善の方向性を示してくれる竹内先生のご提案はありがたかったです。
八千代台西小学校の佐々木校長先生。
フィードバックからどんどん広がっていった、活用の輪
——2024年度の取り組みの、実際の流れをお聞かせください。
竹内先生:
1学期の間、教育センターは主に研修と授業づくりの情報提供に注力しました。その間も両校には授業実践を積み重ねてもらいつつ、夏休みに石田先生、成田先生と集まって「情報活用能力の育成計画書」を作成しました。また、2学期以降本格的に進めていく提案授業への準備として、小学校・中学校の9年間で身につけるべき情報活用能力とは何か、ICT活用推進校としてめざすべきところは何か、合同訪問等でどのような授業を行うべきか、三者の視点を合わせました。実際に、2学期から授業提案の機会をいただく頻度が増えた印象です。
合同訪問等で行ってほしい授業については、私が特に強調してお伝えしたことです。先にお伝えした通り、11月に行われた八千代台西小学校での合同訪問、2月に行われた八千代台西中学校での公開授業は、いわば1年間の集大成の場です。研究指定校としての取り組みですから、ICTを使わないという選択肢はない。かといって、単にICTを使っているだけでは、そこに学びがあるのか疑問に思われる。めざすべき授業は、「活用場面を吟味して」「効果的に活用し」「子どもたちの学びが見られる」「子どもたちが学びの中心にいる」授業であると、改めてお伝えしました。
——八千代台西小学校さんでは、授業提案はいかがでしたか。
石田先生:
情報主任ではありますが、私自身、そこまでICTが得意だったわけではありません。そうしたなかで、竹内先生はじめ教育センターの先生方から「こう使うとこんな授業ができる」とたくさんインプットしていただいたおかげで、授業の引き出しが増えたと感じています。
授業提案を行った教員は、みなセンターの先生方から何かしらフィードバックを得ます。そしてその後も、職員室で「こうしたらいいんじゃない?」「ああしよう」と、教員同士の話し合いが続くんですね。そして翌日以降の授業に反映し、また職員室で話し合い…。授業提案がない日も、ICTについて話し合う機会がどんどん増えて、また授業提案を行ってと、竹内先生のフィードバックを起点に授業提案のいいサイクルがつくれました。
八千代台西小学校の情報主任・石田先生。
11月に八千代台西小学校で実施された、「合同訪問」。「合同訪問」では子ども主体を実現するにはICTをどう活かすかが考えられた授業実践を見学することができました。ICTツールの特性から授業での目標の実現に最適なツールを選択し、学びを豊かにするための取り組みが展開されていました。

小嶋先生が実践された、総合的な学習の時間。課題について、端末を活用して児童が考え合っていた。
家庭科、輪島先生の授業。若手もベテランも関係なく、端末を効果的に活用した授業が全校で展開された。
合同訪問後、佐々木校長先生は、「教育事務所の先生方から、『全クラスでICTが使われて、先生方も子供たちもICTにとても慣れている印象的だった』『資料を提示・配付するタイミングが適切で、児童が主体的に学習に取り組めるよう生かされていた』『グループの考えや結果を共有するために、学習支援アプリ(オクリンクプラス)が効果的に活用されていた』とご講評いただきました。」とお話しされました。
——八千代台西中学校では、どのような形で授業提案を進められましたか。
成田先生:
1学期にも実施していたのですが、2学期からは月に1回、定期的に実施するよう努めました。授業を行うのは1回につき2~3名。「今月は1年生からお願いします」と、毎月学年ごとに実施してもらいました。
——教育センターからは、どういったアドバイスを受けられましたか。
成田先生:
授業の組み立て方からめあての捉え方、生徒に対する声かけの仕方など、あらゆることをご指導いただきました。授業を実施した教員によってアドバイスはまちまちだと思いますが、ICTのいわゆる「使い方」だけを教わったわけではありません。根本的な部分からご指導いただいたおかげで、ICTが苦手だった先生も、授業での活用方法を着実にマスターしていっていました。
八千代台西中学校の情報主任・成田先生。
八千代台西中学校も、1年間の集大成として2月に公開授業を実施。市内の情報教育主任の先生方が見学するなか、4名の先生方が授業を実践されました。
八千代台西中学校で1年間を通じて「個別最適な学び」「協働的な学び」を実現するための授業変革に取り組んできました。公開された授業は、他の学校でも実施しやすい授業実践。授業見学をしていた先生方は、子どもたちが主体的に学ぶ姿を興味深く観察されており、新たな学びのスタイル実現へ向けた新たなアイデアや方法が広がることが期待されています。

社会科、成田先生の授業。タブレット端末の持ち帰りを効果的に生かした授業を実践。

音楽科、加藤先生の授業。マインドマップ機能を用いて、生徒が自ら合唱のポイントをピックアップしたうえで、合唱に臨んだ。
理科、辻先生の授業。みんなのボードを活用し、単元全体の学習問題を生徒が自ら作り上げた。生徒の自律した学びの土台づくりにつながる授業と言える。
数学、竹内圭太先生の授業。課題配信機能を活用し、生徒が協働しながら課題を解決。先生は主体的な学びの場づくりを意識し、必要なときだけ支援に加わった。
研修会の最後に、教育センター長の向先生は、「教員の役割は『前に立って教える』から、『学ぶ子どもたちを支える』ものへと変わっています。いかに学習者主体の授業を実現するか、端末の活用はその視点からスタートしてほしいです。ヒントが今日の授業に散りばめられていました。ぜひ、今日の授業を各校内で共有し、話し合いながらアレンジして、実践につなげてもらえたら嬉しいです。」と願いを託されていました。
先生も、児童・生徒も。1年間で得られた、たしかな手ごたえ
——研究指定校として1年目のお取り組みが終わりますが、成果は感じられていますか。
成田先生:
子どもたちの様子が変わった実感はとても大きいです。例えば、以前はノートと教科書を準備して授業を受けていて、端末は教員からの指示があって初めて取り出すものでした。それが、今は何も言わなくても端末を机に出し、調べ学習など、使うべき場面で自分から使えている。子どもたちが進んで「今、端末を使う場面」だと理解して学習に向き合えるようになったのは、それだけ授業で活用する頻度が上がり、かつ最適な使い方ができているからではないでしょうか。
佐々木校長先生:
小学校でも、似た変化が見られます。例えば、端末を使ったグループ学習を行う際、以前であれば、子どもたちは自分の端末だけを見て会話するのが普通でした。端末は使えても、使いながら話すことまではできなかったんですね。それが、今は相手の目を見て話せるようになっています。協働学習のレベルが一歩進んだなと感じました。
竹内先生:
両校ともに、特に協働的な学習を行う場面がとても増えたと感じています。それも、ICTが得意であったり、好きな若手の先生だけではなく、全学年・全先生方の授業で、です。先日、中学校の授業を拝見した際も、春の時点では端末の操作も全然わからなかった先生が、グループで成果物をつくり、端末で発表し合う授業を行っていました。また、合同訪問で小学校を訪問した際、その先生の授業提案は終わっているのに、次の時間の授業でも、端末を使った別の活動を行っていたんですね。あれには驚きました。先生方のなかで、端末の活用が日常化し、子どもたちの活動量が増えていっているのは、すばらしい成果だと思います。このような素敵な事例は、市内の財産として伝えていきたいですね。
二校の実践を、市内各校に発信する取り組みとして、学校ごとに「ICT活用研修会」が開催されました。みどりが丘小学校での研修に参加したところ、二校の実践が紹介されるだけでなく、オクリンクプラスの使い方や活用場面、「個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実」させるための授業について、各校の先生方と考え合う研修会となっており、特に参加した先生方の反応していたのが二校での具体的な授業実践の共有。二校の取り組みを自らの授業に取り入れたいという参加した先生方の強い思いが感じられました。
「八千代市が端末を導入した当初は、『まずは使ってみよう』の精神でみなさん活用にチャレンジされていました。ですが、これからは『子どもの学びを支えるうえでの効果的な活用』という視点で使うことが求められます。ICTはツールなので、授業の質をより良くする、個別最適で協働的な学びを充実させるために、どう活用できるか考えていただけたら嬉しいです(竹内先生)」とお話しされていたのが印象的でした。

みどりが丘小学校での研修の様子。オクリンクプラスを操作しながら、実際の授業について協議していた。

二校での実践事例を、資料を用いて紹介(一部抜粋)。市内の授業辞令の詳細を見聞することで、先生方の心に火がついたよう。
二校の更なる発展、市内全域への浸透・拡大・深化に向けて
——残り2年間の研究について、ご展望をお聞かせください。
片󠄂波見校長先生:
情報主任同士ということで、現在は石田先生と成田先生が活発に交流してくれていますが、その輪を小学校・中学校全体に広げたいと考えています。西小学校と西中学校は隣同士です。授業時間の関係からまだ実現はできていませんが、日常的に互いの授業を見学する時間をつくれたら、もっともっと、いい刺激が生まれるはずです。
佐々木校長先生:
二校に共通することだと思いますが、学校全体のレベルアップですね。ICTを活用することが得意な先生方は、先陣を切って様々な取り組みを実践しています。ただ、ICTを活用することが苦手な先生方もいるので、はじめは得意な先生方と苦手な先生方との差が広がっていくことを心配していました。ところが、実際は苦手意識を持っている先生方も、できることを積極的に提案したり、実践したりしていました。得意な先生と苦手な先生が一緒に授業を考えたり、話し合ったり、見合ったりしているからでしょう。この風土を大切にしていけば、先生方のICTを活用した指導力はもちろんですが、授業力全般のレベルアップも図れると考えています。
竹内先生:
学校間交流の土台づくりや、学校全体でのレベルアップは教育センターとしてもめざしていきたいところです。もともと今回の取り組みは、ICT活用のモデル校をつくり、市内に広げていくことが目的です。2月の情報教育主任研修会では、八千代台西中学校の先生方に授業を提案していただき、市内の情報教育主任を対象とした公開授業を行いましたが、情報教育主任にとどまらず、今後も積極的に授業提案を行っていただき、優れた取り組みを市内にどんどん広げていきたいです。
また、八千代市は端末の持ち帰り学習を2025年度から始める予定なのですが、八千代台西小学校と八千代台西中学校には先行してスタートしてもらいました。日々の授業は、八千代で学ぶ子供たちが、学校生活を楽しみに思うことや、将来、自律して社会で活躍する力を育むうえで、欠かすことができないものです。端末の活用をさらに広げ、両校から、八千代市にさらなる授業改善の風を起こしてもらえたらうれしいです。
【編集後記】
「八千代市は、学校と教育委員会が協力して、子どもたちが主役になる授業づくりをめざして取り組みはじめています。」竹内先生は取材中、そう何度も強調されました。今回の取材では、現場の先生として石田先生、成田先生にご登場いただきましたが、八千代台西小学校・八千代台西中学校ともに、他の先生方も率先して授業の刷新に取り組まれています。教育委員会だけでなく、学校だけでなく、特定の先生だけでもない。“みんな”で取り組んでいる今回のお取り組みは、まだ研究の途中。残る2年間の取り組みも、注目していきたいです。
撮影/株式会社 デザインオフィス・キャン 加藤武
取材・文/株式会社オンソノ 鈴木康介
※取材の内容は2025年2月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。
所在地:千葉県八千代市
学校名:八千代市立八千代台西小学校、八千代市立八千代台西中学校
特色:両校とも、2024年度より八千代市のICT活用推進校に指定。敷地が隣接する学校として、もともと音楽科をはじめ教員間の交流があったことから、今回の研究指定でも情報教育主任教員を中心に、協力して研究を深める態勢を取っている。