「みんな同じ」「だからやってみよう」。
活用を広げられた最大のポイントは、
教員同士の団結感です

——石川県金沢市立森本中学校

教育DXストーリー

ICT先進校も、はじめは試行錯誤から。
活用に火をつけた、協働的で個別最適な“教員”の学びとは

石川県金沢市は、市内小中学校の学習方法や指導方法の基軸として、2016年より「自分で みんなで 考える 金沢型学習スタイル」を掲げています。生徒が自ら課題を発見し、協働的に探究し、学びの質を深める金沢型学習スタイル。その研究指定校として、ICTの活用を研究し続けているのが、金沢市立森本中学校です。
森本中学校のお取組も、GIGAスクール構想当初は、右も左もわからないところからの試行錯誤でした。ICTの活用を深めていった過程や、現在の課題意識、具体的な授業の在り方を、濵中校長先生、徳田教頭先生、松原先生(主幹教諭)、𠮷田先生(研究主任)、国語科の酒井先生、家庭科の番匠先生に伺いました。

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「使ってみる」から始まった、個別最適な学びへの道

——貴校の教育ビジョンについてお聞かせください。
濵中校長先生
本校は生徒にめざしてほしい人物像として、かねてより次の5つの「森本プリセプト」を示しています。
1. 仲間を大切にする生徒(仁)
2. 責任を持って行動する生徒(義)
3. 進んであいさつする生徒(礼)
4. 真剣に学習に取り組む生徒(智)
5. 進んで奉仕活動をする生徒(徳)
先生方や保護者の方のご協力のおかげで、素直で落ちついた生徒が多く、特に3の「進んであいさつする生徒」については、来校者の方からもよくお褒めの言葉をいただいています。
一方で、学力面に目を向けると、課題も少なくありません。特に、「複数の情報から自分の考えをまとめる」「相手や目的に応じて表現を変える」点や、「リーダーとして先頭に立つ」「人前で堂々と発表を行う」点に苦手意識を持っている生徒が多い。従来から、課題視していました。
コロナ禍に端末が導入されたとき、これら思考・表現や主体性を伸ばすチャンスが来たと感じました。以来、本校は4年間にわたり、「主体的に学び、実践につなぐ生徒の育成~効果的なICTの利活用~」を研究主題として全校的な目標に据えています。



そうは言っても、端末の導入当初は誰も、何もわからない状況でしたから、「とにかく使ってみる」ことから取組をスタートさせました。教員も生徒もタイピングに時間がかかり、一時は「端末を活用する方が非効率的だ」との声が上がったこともあります。しかし、先生方に対しては比較的ICTの習得が早かった先生を中心に校内研修を繰り返し実施する、生徒には対しては生徒会中心のタイピングコンテストを実施するなど、試行錯誤の中で、「使ってみる」考えや、ICTスキルの普及に努めていきました。

特に有用だったのは、校内研修をおおらかに進めたことです。本校の校内研修は、上意下達ではなく草の根的に行うもの。「みんなできないんだから、みんなで一緒に使えるようにしよう」と、ポジティブな雰囲気の中で実施し続けました。そうした雰囲気の中で、「やればできる」と“みんな”で達成感を味わいながら少しずつ前に進んでいったことが、多くの先生方の心理的な負担を下げる要因になっていたと感じています。

現在は、程度の差こそあれ、すべての先生が端末を活用してくれています。「使ってみる」目標は十分に達成できました。次のステップとして、研究主任である𠮷田先生を中心に、今年度から「ICTを活用した個別最適な学びの深化」に挑戦してもらっています。ICTの発達に伴って、学習内容をわかりやすく学べる動画がインターネット上にあふれるようになりました。同じことをしているのでは、学校で学ぶ意味がありません。今一度、学校でしかできない学びの意味を掘り下げて、“みんな”で個別最適な学びの実現に挑戦していく所存です。

校内推進のポイントは「縛らない」「“みんな”で学ぶ」

——これまで、ICTの活用をどのように推進されてきたのか、ご教示ください。
𠮷田先生
私は昨年度まで、3年間GIGAスクール推進リーダーを務めてきました。これまでの校内推進で意識してきたことは、大きく言えば「活用の型を示すこと」に集約できます。
いきなり「使おう!」と言っても、右も左もわからない状態では、個々の先生は動けません。ですから、例えば国語科の酒井先生をはじめ複数の先生に提案授業を実施してもらう、北陸学院大学の村井万寿夫先生をお呼びして活用のポイントをご紹介いただく、といったように、大枠で「どう使えばいいか」を示すよう心がけました。同僚が授業の見本を示すと、先生方は「このくらいなら、自分でもできそうだ」と思いやすいものです。それに、わからないことがあったらすぐに聞ける。そこに、村井先生から本質的な活用のポイントをアドバイスいただくことで、先生方の挑戦のハードルを下げることができました。村井先生には継続してご協力いただき、今もアドバイスをいただいています。



校長先生からお話しいただいた通り、研修には力を入れました。はじめは、オクリンクで従来の授業を実践する方法から始めました。このように、「こうすれば〇〇ができる」と、そのアプリケーションで何ができるのかを示すことを心がけました。中学校は教科担任制で、受け持つ教科によって様々な特性があります。当然、ICTの活用においても使い道が変わってくるでしょうから、大きな形は示すにしても、「これが正解」と使い方を縛るのは危険だと考えたからです。教員の学びもまた、個別最適である必要があるのです。
「〇〇ができる」をベースに研修を実施し、「これは私の教科でもできる」と、ピンときたものからどんどん授業に取り入れていただく。こうした流れを期待して、研修を組み立てていました。

松原先生
中学校は小学校と違って、教科担任制です。私は小学校での教歴もあるのでよくわかるのですが、よく言えばそれぞれの先生が各教科のエキスパートであり、悪く言えばその人なりの指導のスタイルが確立されているわけですね。校長先生からもお話があったように、例えば実技系教科の先生から「どうやって使えばいいんだ」という声はありましたし、書くことを重視する英語や国語科の先生が二の足を踏んでしまう可能性も容易に想定できました。だからこそ、𠮷田先生が言うように、「これが正解」とスタンダードを決めて上から下ろしていくやり方では、活用を広げられない。要素ごとの例を示して、部分的にでも、できることから、関心を持ったことから、先生方に自主的に試していただく必要がありました。


徳田教頭先生
私をはじめ、管理職の教員は活用法を共有する“ハブ”として動くようにしていました。教科担任の先生に比べて、管理職教員は授業見学の頻度が高いですし、個々の先生方と日常的に面談も行います。面談の際に「先生のこういう使い方はいいですね」「あの先生の使い方もいいので、ぜひ見学してください」と、よい実践をどんどん紹介するよう心がけました。先生方は、教員になるくらいですから、どの方も授業が好きです。根本的には授業改善に意欲的で、方法がわからなくて迷っているだけですから、管理職教員が積極的に情報をおろしていくことが重要です。

𠮷田先生
今年度は校長先生からお話しいただいた通り、「ICTを活用した個別最適な学びの深化」について研究を進めていますが、それとは別に「デジタルとリアルの使い分けもみんなで進めているところです。例えば理科の場合、顕微鏡をのぞく、実験を行うというのは、ICTだけでは完結しない“リアル”な学びです。この伝統的なリアルの学びにも、当然魅力がある。これまではできることを全部デジタルで進めていこうと必死になっていたのですが、活用が深まった今、あえてリアルに戻す部分があってもいいのではと考えました。オクリンクプラスをはじめ、ICTにはたくさんの可能性があります。その可能性を、デジタルとリアルの往還でさらに充実させる。これからもどんどん挑戦して、子どもたちに還元できる学びを増やしていきます。

ICTの活用でアウトプットが増え、生徒の主体性が向上

——授業実施者として、酒井先生に伺います。普段の授業で大切にしていることをお聞かせください。
酒井先生
インプットとアウトプットのサイクルをバランスよく回すことを意識しています。ICTを活用するようになってから、生徒のアウトプットの機会は倍以上に増えました。アウトプットを通じて、自分の意見を表現し、他者と相互に評価し合う。そして自分の意見を振り返り、推敲し、意見の質を高める。同時に、インプットにも意欲的に取り組む。アウトプットを盛んに授業へ盛り込むようにしてから、生徒の主体性や学びの質は大きく向上しました。



オクリンク時代から同様の取組は行っていたのですが、オクリンクプラスで「みんなのボード」が実装されてから、より取り組みやすくなりました。「みんなのボード」は、カードを個別に保存できます。私は毎回の授業の「みんなのボード」を残し、授業を移動することで各時間の学びをつなげているので、生徒自身が「昨日はこんなふうに意見を書いた」「前々回はこんなふうに書いた」と、いつでも過去の自分の意見を参照できます。授業の連続性が高まり、生徒が成長を実感しながら学べるようになりました。



——ICTを活用し始めてからの、生徒様の変容を詳しくお聞かせください。
酒井先生
特に、学びに向かう主体性が大きく向上しました。具体的には、生徒が自分から学習の手段を提案してくれるようになりました。例えば先日も、テスト期間中に「アプリで単語帳をつくったから、クラスに広めてほしい」といった生徒や、「クイズをつくったからみんなで取り組みたい」という生徒がいました。授業でも、「この単元で学んだことを発表するために、〇〇を使いたい」と提案してくる生徒もいます。中には、授業で使うアプリケーションをあえて指定せずに、生徒に選ばせるようにしている先生もいますね。 知識・技能についても、一定の手応えはあります。本校は端末の持ち帰りを許可していて、教員から課題も出しているのですが、課題外で端末を使って主体的に 勉強する生徒も少なくありません。

𠮷田先生
端末の持ち帰り学習は、今年度から全面的に自由化しました。ご家庭で自主的に端末を使った学習に取り組んでいるのは、先生方の促し方が上手な部分もあると思います。典型的には、期間を長めに取って、「自由に進めていいから、1か月後に提出してね」と、計画的に課題を課しているケースですね。生徒が持ち帰りの必要性を自分で考え、計画的に活用するように仕掛けてくれていると思います。 また、持ち帰り学習を自由化したことで、端末を使う課題を先生方が積極的に出してくれるようになったのも大きいでしょう。

番匠先生
私は3年生のクラスを担任していますが、生徒は自分から「先生、今日端末を持ち帰っていいですか」と聞いてきます。各教科で課されているいろいろな課題を、自宅でゆっくり取り組みたい生徒が多いようです。今日も、「保健体育でレポートが出されているから」と話してくる生徒がいました。レポートではなく、ドリル的な課題であっても、時間をかけて反復して取り組みたいからと、持ち帰りを好む生徒が一定数います。



徳田教頭先生
持ち帰りについては様々な議論がなされていますが、我々としては「まずここから始めるべき」ではないか、と考えています。というのも、実際に持ち帰りを実施してみると、当初考えていたような心配ごとはさほど起こりませんでしたし、むしろ校内のICT活用はさらに加速しました。学校の取組状況にも左右されるのかもしれませんが、生徒やご家庭を信頼して、挑戦してみることも重要ではないでしょうか。



酒井先生
私も2年生に、「意見文を書く」課題を課しました。課してみるとよくわかるのですが、生徒はICTを使ったアウトプットはとても積極的です。図表を示し、説得力のある意見文を書いていました。物語を書く単元では、2000字以上の文章を書いて提出する生徒がたくさんいました。手で文章を書くのに対して手軽で、推敲も簡単だからでしょう。校長先生が言うように、本校は意見の表明が苦手な生徒が多かったのですが、嬉しい変化です。

同じ教員としての目線で言うと、先生方がレポートをはじめとしたアウトプットの課題を出すようになったのは、特に推敲が楽になったからかもしれません。例えば私の場合、オクリンクプラスの「みんなのボード」に班ごとのボードをつくり、そこに提出してもらって、生徒同士で推敲してから私が推敲するようにしました。紙で、すべての生徒の文章を推敲するのはなかなか負担だったのですが、かかる時間は大きく変わりましたね。生徒も「先生より先に、友だちが見るなら」と、今まで以上に気合いを入れて書くようになりました。

——今後、授業で取り組まれたいテーマをお聞かせください。
𠮷田先生
ICTの活用で、特にアウトプットの機会は増え、学びの質も高まりました。今後は、学校外でのアウトプットの機会を増やしていきたいです。せっかく端末があるのですから、県外の生徒と同じテーマについて議論するなど、身近にできることはたくさんあるのではないでしょうか。校外に向けてアウトプットする機会が増えれば、子どもたちの自信はさらに深まります。「学んだことを、これだけ人に伝えられるんだ」と、実感してもらえたらうれしいです。

【編集後記】

取材に伺って印象的だったのが、先生方が和気あいあいと、快活にご指導にあたっている姿。我々取材班に対しても、校長先生をはじめ、どの先生方も温かく迎えてくださりました。先生方お一人お一人が、こうした温かい人間性を持っているからこそ、情報共有も盛んに行われていて、誰一人取り残さないICTの利活用が進んでいるのだろうと実感しました。

撮影/株式会社 デザインオフィス・キャン 加藤武 
取材・文/株式会社オンソノ 鈴木康介

※取材の内容は2024年12月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。

■学校プロフィール 
所在地:石川県金沢市
学校名:金沢市立森本中学校
生徒数:446人
1クラスの人数:34人~39人
特色:GIGAスクール構想以降、4年間一貫して「主体的に学び、実践につなぐ生徒の育成~効果的なICTの利活用~」を研究主題に取り上げ続けた。2022年度から2023年度までは、市の金沢型学習スタイル実践推進事業推進校に、2024年度は新金沢型学校教育モデル実践推進事業推進校に指定。2023年度、2024年度の公開研究発表会では、それぞれ100名を超える教員が来校した。
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