大人の都合ではなく、
子どもの未来を考えたら、
止まる理由はありませんでした。

——愛知県豊橋市立大清水小学校

教育DXストーリー

児童自身が考え、選択し、進んで学ぶ
“自立”をキーワードにした余白のある教育づくり

将来,自分の力で歩んでいける子を育てたい。この思いから、2024年度に大改革を行い、自由進度学習や教科担任制をはじめとした、様々な先進的取り組みを進めている大清水小学校。改革の一助として、ミライシードの活用も深められています。
自由進度学習と教科担任制のなかでどのような授業をつくられているのか。その背景にある学校の理念とあわせ、福井校長先生、村上先生、櫻井先生にお話を伺いました。

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自立した児童を育むための、2024年の大改革


——貴校の教育ビジョンと近年のお取り組みをお聞かせください。
福井校長先生
本校の教育目標は、「自立の礎を築く ~自分で考えよい判断ができる子 心の体幹がつよい子の育成をめざして~」です。自分で考えよい判断ができる子とは、主体性や思考力、判断力を持った子。心の体幹がつよい子とは、たしかな自己肯定感を持った子。こうした子どもたちを育てるための方策として、とりわけ今重視しているのが、「子どもたちが選択できる教育」の実現です。

ただ教員から言われたことをやる、言われた通りにやるだけでは、子どもたちの主体性を育むことにはなりません。あらゆる場面で、子どもの自立を促すには、選択できる余地をつくることが重要です。そのために、2024年度に自由進度学習・教科担任制・40分授業5時間制・帯タイムの導入と、学校のあり方を大きく改革しました。

自由進度学習は言わずもがなですが、その他の改革も、子どもたちの学習の自由度を高めるうえで欠かせない改革です。教科担任制を取れば、先生方が教材研究にかけられる時間が増え、協働的で双方向な授業をつくりやすくなります。40分授業5時間制は、これまでの45分の授業を総合的な学習の時間をはじめとした探究の時間と、帯タイムによる児童が自分で考えて学習に取り組む時間に分けた仕組みなんです。従来の教育のあり方を変えるために、みんなで挑戦しているところです。

ミライシードは、これらの改革を進めるためのツールに位置づけています。オクリンクプラスによる協働的な学習の実現はもちろんですが、宿題の代替物としてドリルパークを活用し、その子にあった学びを選択できるようにしています。

象徴的な変化ですが、子どもたちの声から、今年度、マラソン大会の設計を変更しました。これまでは順位を競うだけだったのですが、順位を競うチームと自己タイムの更新をめざすチームに分けてそれぞれ大会を実施します。重要なのはマラソン大会を通じて自己を高めることであって、順位をモチベーションにしても、自己タイムをモチベーションにしてもいい。これこそ、選択の余地をつくり、児童が考え判断し、自己肯定感を持って学習に臨む教育のあり方だと考えています。

——大きな改革ですが、保護者の方にはどのようにご理解いただいたのでしょうか。
福井校長先生:年度前に「大清水作戦会議」という説明会を開いて、国や先進自治体の取り組みや調査結果のエビデンスをもとに改革の必要性を説明し、一緒に子どもを見守る仲間になってほしいと発信しました。

学校の改革に必要なのは、「大人の都合で考えない」ことだと思います。本来、子どもの未来のためであれば、変えるべきことはたくさんあります。ただ、大人は「便利だから」「今やっているから」「今特別な問題があるわけではないから」と、自分たちの都合で思考を止めてしまいがち。そうではなく、教員も保護者の方も、子どもにとって何が大事かを正面から考えることが必要です。そのための説明は何度も行いましたし、今も情報を発信し続けています。

大清水小学校のグランドデザイン。「デジタルドリルの導入」は、ミライシードのこと。

児童が選択しながら“自分の学び”を深める、大清水小の授業づくり

——「本日、村上先生と櫻井先生の授業を拝見しました。村上先生の算数の授業は、教科書の部分部分をオクリンクプラスでカード化し、問題の解き方を児童同士で協働的に考えるものでした。どういったねらいで、授業をつくられたのですか。
村上先生
GIGA例題と解法、解答など、すべてセットで見せてしまうと、その通りに解くだけで学びに広がりがありません。一方で、問題だけを見せると、教科書通りではない解き方で立ち向かう子どもが出てきます。その考える過程こそが重要で、普段からこうした“教科書を隠す”授業を行っています。もちろん、困ったら教科書を見ていいと児童には伝えていますし、教科書通りに解く子もいます。ただ、児童の考え方を狭めないことは大事にしています。

村上先生の授業の様子。児童は教科書から切り取った問題のカードに取り組んでいる。

——“教科書を隠す”授業を始めてから、子どもたちに変化はありましたか。
村上先生
一方通行で、教科書通りに授業を行っていると、どうしても受け身になりがちな子が出てくるものですが、そうした子どもはほとんど見られなくなりました。従来の授業ではなかなか授業に入っていけない子も、教え合っている別の子たちを見て、「これ教えて」「どうやってやるの?」と自分から聞きに行っています。また、対面でのコミュニケーションとは別に、「みんなのボード」を見て、友達のカードから解き方を学んでいる子もいます。子どもたちがそれぞれのやり方で、それぞれの力を発揮しようとしている姿が増えた、と感じています。

——櫻井先生は、特に提出BOXを活用した独自の授業を実践されていました。ねらいや、詳細を改めてお聞かせください。
櫻井先生
私は授業で、児童自身による振り返りを特に重視しています。そのための一つの手段が、提出BOXを使ったノートテイクです。今私が担当している授業では、紙のノートは必須ではありません。代わりに、「国語で大事にしたいこと」「自分のめあて」「自分で考えたこと」「友達と考えたこと」「振り返り」「学習の進め方」「先生見てねBOX」といったフォルダを提出BOXにつくり、いつでも好きなタイミングで提出していいことにしています。

授業内でも、めあての確認や振り返りを行う時間は多めに設けています。児童は毎回の授業で、めあてを考え、前時や本時の振り返りを行い、自分の思考の軌跡をたどりながら、次のめあてに向かっていく。この小さなPDCAサイクルを、提出BOXを起点にした振り返りで回すよう心がけています。
私なりのポイントは、提出BOXのフォルダを複数設けていることです。自由にいくつも提出できる場所があると、子どもたちは興味を持って積極的に提出してくれます。すでにオクリンクプラスは、子どもたちにとってノート代わりの気軽なツールになっていますね。ある子は、手で入力するのが苦手だからと、音声入力ですべて記入していました。子どものモチベーションを様々な方法で引き出せるのも、オクリンクプラスのよさです。

——提出BOXの活用で、先生ご自身に変化はありましたか。
櫻井先生
見取りの方法が大きく変わりました。ノートで子どもの学習を見守っていたときは、子どもにとっての完成形しか見られませんでした。子どもは直したい、間違えたと思ったら、すぐに消しゴムで消してしまいますから。 提出BOXで、好きなタイミングで提出できるようになってからは、子どもたちはいったんでも完成したタイミングで自由に提出してくれます。すると、こちらも好きなタイミングで確認。あとでブラッシュアップさせたものを再提出してくれたら、変化が見て取れるようになります。いろいろな見取りの仕方ができるツールだなと感じています。

櫻井先生の授業の様子。この日は戦争が題材の文章に向き合う授業を行った。

ドリルパークで、宿題のあり方も本質から変化した

——今年度から、宿題のあり方も変えられたと伺いました。
村上先生
授業と同じように、宿題も自分で選択する中で学ぶべきという考えから、毎回の授業で宿題を出すのではなく、1か月単位で児童が自由に進める形に変更しました。

はじめに、教員から単元名などが書かれた1か月間の授業の計画表を渡します。そこから、児童が個別に「いつ頃、どのくらいの宿題をやるか」という自分用の計画表をつくります。とにかくどんどん進めるのも自由ですし、習い事のない日に詰め込むのも自由。1週間ごとにクラスで進捗の振り返りを行い、必要があれば教員から個別に声かけします。

この宿題について、3年生以上の学年は、紙のドリルではなくドリルパークを使っています。児童用の計画表には問題を解いた回数を「正」の字で記す欄を設けていて、複数回取り組んでもいいと伝えてあります。何度でも自由に取り組める、デジタルドリルの特性を生かした学習の促しです。小テストも設けているので、なかには10回以上同じ範囲に取り組んでいる子もいます。

ただし、子どもたちが紙で学習することを否定しているわけではありません。「漢字は紙で覚えたいから」と、別に紙で書いて持ってくる子もいます。そうした子の努力はもちろん認めています。あくまでデジタルドリルであれば回数をこなしたり、取り組んだ回数を見てモチベーションを高めたりと、子どもの学び方の選択肢が広がる点に注目しています。


櫻井先生
あり方が変わったことで、宿題の“苦しさ”は大幅になくなったと思います。以前、毎日宿題を出していた学校にいたときは、児童たちが「提出しなきゃ」「わからなくても、なんとかやらなきゃ」とつらそうでした。今は逆で、少しでも進めたら「今日はできた」と、喜んで計画表に記入ができる。

村上先生
宿題が、めあてをはじめとした目標に向かって取り組むためのものに変わったのは、大きな変化です。福井校長先生は、「児童が自走するように」とよく私たちに話すのですが、まさにその通りになってきました。宿題に限らず、普段の授業も同じで、まだまだ児童の自走に向けてできることはたくさんあります。これからも、児童と一緒に、工夫して授業づくりに臨んでいきます。

村上先生と櫻井先生。お二人とも、いかに児童を前向きにするか、ひたむきに考えられていた。

【編集後記】

取材当日は、村上先生、櫻井先生の授業に加え、福井校長先生が保護者の方に向けて実施された「学校改革計画」説明会の資料もご紹介いただきました。授業時間の短縮など、進め方次第では、地域や保護者の方からの賛同を得づらくみえる施策でも、対話を重ね独りよがりではなく進めていかれるその推進力に圧倒されました。そんな校長先生の先導を受け、各先生方の新たな授業へのチャレンジがあり、児童の素直でキラキラした反応につながっているのだと納得。地域を巻き込み、子どもたちの未来に向けた改革に乗り出される学校のこの先が楽しみです。

撮影/株式会社 デザインオフィス・キャン 加藤武
取材・文/株式会社オンソノ 鈴木康介

※取材の内容は2024年11月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しています。

■学校プロフィール
所在地:愛知県豊橋市
学校名:豊橋市立大清水小学校
児童数:250人
1クラスの人数:18人〜34人
特色:愛知県の公立小学校。「自立の礎を築く ~自分で考えよい判断ができる子 心の体幹がつよい子の育成をめざして~」を教育目標に、2024年度に学校全体を改革。保護者を巻き込みながら、自由進度学習・教科担任制・40分授業5時間制など、様々な先進的取り組みを進めている。
  • 小学校
  • 公立
  • 主体的・対話的で深い学び
  • ドリルパーク
  • オクリンクプラス

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