子どもが主体になるための
下地を丁寧につくる。
それが教員の仕事です。
——旭川市立末広北小学校
ICTをどう使うか、考えるのは子ども自身
子どもの判断力を磨くデジタルシティズンシップ教育
子どもの主体性を重んじ、子ども自身の判断でICTを活用するデジタルシティズンシップ教育。全国に先駆けてこの教育に取り組み、ミライシードAWARD優秀賞を受賞したのが、旭川市立末広北小学校です。
2023年度は、末広北小学校において、デジタルシティズンシップ教育が大いに発展した年度でした。どのような思いで取り組みを行われているのか、具体的なアクションの一つである「北っ子ベーシックiPadバージョン」や「北っ子ノートコンテスト」の詳細を含めて、野村校長先生、長田先生、山崎先生、樋口先生にお話を伺いました。
日常的な活用が根づいたからこその、デジタルシティズンシップ教育
——貴校の教育ビジョンについてお聞かせください。
野村校長先生:
本校はGIGAスクール構想が始まる以前から、昨年、異動になりましたが、当時の時の教務の先生を中心にICTに通じた教員が複数おり、彼ら・彼女らを中心に、独自にICTの活用を深めていました。そうしたベースがあったなかで構想が始まったものですから、ICTの日常的な活用という点では、ごく早い段階で達成することができました。
野村校長先生。末広北小学校のデジタルシティズンシップ教育について、全体像をご教示いただいた。
——学校全体としての、今後の取り組みの展望をお聞かせください。
野村校長先生:
個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実が課題視されている今、本校は「子どもが主体となるために、教員がファシリテーター役になる授業」づくりをめざして校内研修に取り組んでいます。その中でも、特に力を入れているのがベテラン教員と若手教員の交流です。
そもそも個別最適な学びや協働的な学びは、GIGAスクール構想以降に出てきた考えではありません。ICTの活用で一体的な充実をねらうにしても、ベテランの先生方が持っているノウハウは確実に生かせるでしょう。一方で、具体的な端末操作という点では、若手の先生に得意な方が多いのも事実です。だからこそ、公開授業を軸に刺激し合い、両者の強みを結びつけてもらいたいと考えています。
学校生活のルールやマナーは児童が決める
——「北っ子ベーシックiPadバージョン」について、取り組みの背景や内容をお聞かせください。
長田先生:
GIGAスクール構想が始まって端末が届いたとき、実は私たちも、子どもたちにどのように活用させたらよいのか、学級では教師が端末活用のルールをつくるべきなのか悩んでいました。当時はコロナ禍で、学級閉鎖も相次ぎ、子どもたちに会えない期間が続くと、「このままで大丈夫なのかな」と心配でした。不安でいっぱいの私たちを励まし、支えてくれたのが当時の教務の先生でした。昨年、異動となってしまいましたが、学校全体のICTの推進をしてくださり、オンライン授業の進め方、一人一台端末の活用の仕方など、先生方が一体となって前向きにGIGAスクール構想をスタートすることができたのです。当時の私は児童会を担当していたので、児童会の子どもを中心に全校学活を企画し、端末のルールを作ることにしました。全校学活では、当時6年生の担任の山﨑先生と協力し、子どもたちと一緒に取り組んだのが、デジタルシティズンシップの第一歩です。その時、たくさんの先生方と連携をしながら一人一台端末の活用を進めたことが私にとってとても大きな経験と財産になりました。一人一台端末が先生方の思いを繋ぎ、子どもたちの学びにとっても大切な存在になることを身をもって経験したので、今年度(2023年度)は私が学校の中で一人一台端末の活用を進めるセクションとなりました。日々、やりがいのあることばかりです。
左から樋口先生、長田先生、山崎先生。ICTに堪能かつ積極的で、学校全体での活用をけん引している。
山崎先生:
ルールづくりは大切ですが、ただ教員がルールを設けるだけだと、子どもはそのルールを破りたくなるものなんですね。本校はICTの活用に限らず、子どもを主体にするために、教員がその下地づくりに努めるよう意識する文化が根づいています。このときも、その文化に則って「〇〇をしては“なぜ”いけないのか」、子ども自身に考えさせることが重要だと考えました。
活用したのは、当時全校で行っていた全校学活の時間。4~6年生の各学級で「みんなが気持ちよくICTを活用するにはどうすればいいか」というテーマの議論をしてもらい、それから6年生が司会となって、4~6年生全体で発表会を行いました。そしてそこで決まったことを、今度は長田先生が担当している児童会が中心になって、1~3年生に対して発信してもらいました。
長田先生:
その次の全校学活では、先の高学年の意見をもとに、低学年と高学年それぞれで端末活用に関するクイズを実施しました。そこで得られた感想を児童会が集約してできた学校のルールが、「北っ子ベーシックiPadバージョン」です。
実際の「北っ子ベーシックiPadバージョン」。
樋口先生:
私は1年生の担任だったのですが、子どもたちは最初から端末に興味津々でした。ただ基礎的な学習もありますし、すぐには触らせられませんでした。そうしたときに、高学年が中心となってこうしたルールをつくってくれたものですから、ありがたかったですね。少し上のお兄さん・お姉さんたちがお手本を示すのは、大人が考えているよりも効果的です。「使いすぎたらダメ」だとか、「使う時間を守る」とか、教員が指示しなくても子ども同士が注意し合って端末を活用してくれるようになりました。
紙orデジタル?ノートづくりでも尊重される児童の主体性
——「北っ子ベーシックiPadバージョン」とは別に、ノートの決まりもあるそうですね。
長田先生:
私は、端末でノートを取るメリットはたくさんあると思います。例えばアウトプットのスピード。手書きに比べて入力が早い分、思ったことをすぐに書き留められます。子どもたちは教員が思っている以上に頭の回転が速い。その速さについていけるのは、デジタルならではのよさだと思います。だからこそ、学校として紙のノートにこだわるのではなく、子どもが望むなら自由にデジタルでノートを取れてもいいはずだと考えました。
山崎先生:
重要なのは、端末と紙のどちらでノートを取るか、子どもが選択できること。発達段階にもよりますが、紙に書いたほうが覚えられる子もいますし、書いたノートをなくしてしまう子もいます。よりよい学習のために、子どもが自分で判断し、選択することに意味があります。
そして選択できるようになるには、低学年からどんどん端末に触れて、たくさん経験を積む必要がある。低学年でも、「書くのが楽しい」「かっこいいから」と端末に触れたがる子どもは多いです。そこを「低学年にはまだ難しいだろう」という決めつけで規制するのではなく、子どもの主体性を尊重して、たくさん経験を積ませてくれているから、高学年で端末と紙を選択できるようになっているのだと思います。
長田先生:
また2023年度はノートの意味や意義を児童に考えさせる目的で、情報委員会の子どもが中心になって「北っ子ノートコンテスト」を開催しました。
開催の前に、まず情報委員会の子どもに「よいノート」とは何かを話し合ってもらい、その視点ごとに字や色使いがきれいな「きれいで賞」、キャラクターを使っているなどの「神アイデアで賞」、見やすい工夫のある「わかりやすいで賞」という賞を設定しました。そして各賞ごとにオクリンクの提出BOXのフォルダをつくり、全学年からノートの提出を受け付けました。
北っ子ノートコンテストの告知。このコンテストも、子どもが中心になって開催された。
もちろん、提出されたノートはすべての子どもが閲覧できます。最終的に100件以上もノートが提出され、たくさんのノートづくりのアイデアが可視化されました。子どもはもちろん教員間でもデジタルノートへの理解を深められましたね。
——ICTの活用において、今後取り組まれたいことはありますか。
長田先生:
生成AIの活用とエデュティメント(楽しみながら学ぶこと。エデュケーション+エンターテインメント)の要素をもっと取り入れた授業をしたいです。生成AIは、これからの社会を生きていく上で共存しているものになりますから、子どもの将来を考える大人として、また「先生」という先ゆく大人としても、しっかりと子どもたちに向き合い方を伝えていきたいです。今日の算数の授業は、「生成AIと活用してクイズをつくる」というもので、子どもたちが楽しみながら算数の1年間の学びを活かした問題を考えることをねらいとしました。エデュティメントのよさである「遊びと学びの融合」を意識して取り入れていました。クイズもそうですが、子どもたちのアイデアで生まれてきたものというのは、とてつもなく尊いものだと思います。子どもたちの発想力を妨げずに、支えてあげることのできる先生として、授業づくりに励んでいけたらと思います。
長田先生の授業の様子。2年生ながら、どの子も様々な工夫をこらして、ユニークなクイズをつくっていた。
【編集後記】
取材当日、長田先生が受け持つ2年生の算数を拝見しました。テーマは「算数のクイズをつくる」。その中で、長田先生は細かく指示を出していないのに、進んで課題に取り組んだり、グループをつくったり、できたクイズを先生に見せに行ったりと、子どもが主体となってスムーズに進んでいく授業の様子に驚きました。まさに校長先生が話された、教師がファシリテーターとなる授業そのものでした。北っ子ベーシックや北っ子ノートコンテストのように、子どもが主役となって考える・判断する機会が学校生活にあふれているから、学校生活に浸透していて、ICTを活用した授業にも生かされた授業が成り立つのでしょう。
撮影/株式会社 デザインオフィス・キャン 加藤武
取材・文/株式会社オンソノ 鈴木康介
※取材の内容は2023年12月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。
所在地:北海道旭川市
学校名:旭川市立末広北小学校
児童数:345人
1クラスの人数:31人〜35人
特色:GIGAスクール構想以前から、複数の教員が中心となってICTの活用を進めてきた先進校。児童を中心とした学校づくりが根づいており、ICTの活用に関しても児童が主体的に判断・選択をする「デジタルシティズンシップ」教育に力を入れている。