導入事例

「Small Talkノート」で
全教員の指導力がアップ

POINT
  • Small Talkでは、「知っている英語で伝えたいことが話せた」という手応えを子どもに感じさせる
  • 「Small Talkノート」を全教員が活用し、全校の共有財産にする
KEYWORD
  • 小学校英語
  • 指導力向上
  • Small Talk

今年度から小学5・6年生で英語が教科化されたが、授業の展開方法や英語力への不安など、学校現場からは準備が十分でないと心配する声が多く聞かれる。京都市立朱雀第二小学校では、新学習指導要領で設定された「Small Talk」の活用をテーマに、教員個人ではなく学校全体で指導力を向上させている。

「Small Talk ノート」を全教員が活用し、全校の共有財産に

発話を引き出す7つの工夫

京都市立朱雀第二小学校は、2018〜19年度、国立教育政策研究所から外国語活動の教育課程研究校の指定を受け、①聞く活動の充実、②対話につながる言語活動の充実、③主体的に話を聞く力の育成に重点を置いた研究に取り組んできた。矢野智子校長は、研究実践を通して目指す子どもの姿を次のように語る。

「『対話』を通じた言語活動によって、やり取りする楽しさや喜びを感じてもらい、他者との関係を深めるコミュニケーション手段の1つとして、外国語活動に積極的に取り組むようになってほしいと考えています」

授業の軸は、上記①〜③の重点が含まれる「Small Talk」とした。活発で質の高い活動とするため、教員が留意すべき「発話を引き出す7つの工夫」(図1)を設定。さらに、子どもが推測しながら音声を聞いたり、思考を働かせながら話したりできるよう、次のような工夫もしている。

子どもが話したい、聞きたいと思う題材を選ぶ

最も留意するのが、Small Talkの題材だ。例えば、6年生の単元「外国人に日本を紹介する冊子の作成」では、冊子化を想定して、自分が紹介したい日本文化が読み手に伝わるように伝え合う活動を行った。研究主任の増田悦子先生は、その時の様子を次のように話す。

「子どもたちは、言葉に詰まりながらも会話を続けようとしていました。それは、『この日本文化を相手に伝えたい』という強い思いがあったからです。新学習指導要領で重視されている『互いの考えや気持ちを伝え合う』言語活動とするためには、Small Talkの題材は子どもが話したい、聞きたいと思うものでなければなりません」

教員がSmall Talkのロールモデルになる

取材時に参観した授業では、自分が紹介したい日本文化を伝え合うペアワークを3回実施。相手の表現を取り入れて話そうとする姿が見られ、どの子どもも回を重ねるごとに発話量が増えていった。授業最後の振り返りでは、教員は、発話量が増えたことを褒めるとともに、本活動は次時以降も続くものであり、今日できなくても最終的なゴールに向けて頑張ろうと、子どもたちを励ました。

教員は、英語学習のロールモデルとなるよう、ペアワークにも積極的に加わる。例えば、Small Talkを子どもとペアで行った際には、“You go first.”と子どもに先に発言するよう促した。すると、子ども同士のペアワークでも、同じ言葉を使う姿が見られた。教員が何度も言葉を発して、それが子どもの耳に残れば、表現をまねて使うようになるのだ。

「聞く姿勢についても同様です。子どもの発話に教員がうなずいたり質問したりして、相手の思いを酌み取る姿勢を意図的に見せるようにしています」(矢野校長)

既習表現を使って表現する術を教える

Small Talkの中間指導では、子どもに「伝えたかったけれども、うまく言えなかったこと」があったかを尋ねるようにしている。そして、出てきた言葉に対して「なぜその話になったの?」「例えばどんなこと?」などと質問し、言えなかったことをかみ砕いて表現させた後、知っている英語に置き換えられるかを考えさせる。

「対話を続けるためには、自分が知っている単語や表現を使って話すことがとても大切です。新しい単語や表現を学ばせることだけにこだわらず、伝えたい内容を既習表現で言えるように指導しています」(矢野校長)

教員用「Small Talkノート」で指導の工夫を共有

指導の振り返りや研修のポイントを書いたり、活動の題材になりそうな新聞記事を貼ったりと、「Small Talkノート」の使い方は個々の自由に任されている。教員同士でノートを見せ合うことにも慣れ、指導の共有化も図られている。(朱雀第二小学校提供資料をそのまま掲載)

研究にあたっては、全教員が自分用の「Small Talkノート」を持ち、それにSmall Talkの台本を書いたり、授業での子どもとの対話を記録したりするようにした(写真2)。当初は、英語力に自信がなく、英語を書くことに戸惑う教員もいたため、カタカナでもよいので書くことを呼びかけた。

「子どもの発話を記録することで、英語力の実態がつかめます。また、その実態を踏まえてSmall Talkの内容を事前に考えておくことで、予想外の反応にも瞬時に対応できるようになり、指導力が高まると考えました」(増田先生)

ノートには指導上の課題や疑問も書いてもらい、ALTや研究主任、中学校英語科担当教員が適宜アドバイスしている。また、月1回の「Small Talk研修」では、ノートを見せ合い、アイデアを参考にしたり、疑問を解消したりする。研修担当は輪番制とし、担当者となった時は、研修当日に向けた練習を重ねることでも英語に慣れるようにした。そうして研究1年目の終わりには、各学年のSmall Talk集を作成。同校のウェブサイトにも掲載している。

「ノートを見れば自分の成長を実感でき、自信が持てます。また、各教員の指導のアイデアが学校全体の財産になります。少しずつ積み重ねていきたいです」(増田先生)

教員の努力の成果は、子どもの姿に表れている。子どもへのアンケートでは、「英語が分からなくても推測して考える」の肯定率が全学年とも8割を超えた。

「『知っている英単語でごまかして伝えた』と振り返りをした子どもを『それはすごい力だよ』と担任が褒めたように、テキストに書かれた通りに授業することにこだわらなくてもよいという意識が、教員に生まれています」(矢野校長)

今後は、Small Talkの実践を生かして、低・中学年でも、推測しながら聞き、考えながら話すための指導法を整理していく予定だ。

実践のポイント

京都市教育委員会 指導部 学校指導課 指導主事 光嶋 花英

Small Talkでは、「知っている英語で伝えたいことが話せた」という手応えを子どもに感じさせることが重要です。同校では、子どもが興味を持てる題材を選び、既習表現を選ぶ・使う経験を積ませています。「Small Talkノート」に指導や学びの足跡を残し、既習表現を把握しておく効果も大きいと思います。また、研究主任らが定期的に目を通してコメントを書く等、個人任せにしないように支援していることが、学校全体の取り組みにつながっています。

京都府京都市立
朱雀第二小学校

1912(明治45)年設立。「心豊かで しなやかに生きる朱二の子の育成」を学校教育目標に掲げる。
地区の9小学校、4中学校と小中一貫教育を展開。

校長
矢野智子先生
児童数
317人
学級数
15学級(うち特別支援学級3)
電話
075-841-3202
URL
http://cms.edu.city.kyoto.jp/weblog/index.php?id=103107