導入事例

デジタルドリルの活用で、個の学力やつまずきに対応

POINT
  • 「熊本市学力調査」の結果を市教委主導で分析し、指導事例を市内全校で共有。授業改善に生かす
  • モデル校では子ども一人ひとりの学力やつまずきに合わせたデジタルドリルを配信する機能を装備
KEYWORD
  • ミライシード
  • 総合学力調査
  • ICT活用
  • ドリル

熊本県熊本市では、「熊本市学力調査」を活用した授業改善と、ICT導入による学力向上に努めている。熊本市教育委員会と学校現場が連携してPDCAサイクルを構築するとともに、タブレット端末を活用して、子ども一人ひとりの課題に応じた指導を実現し、確かな学力の定着を目指している。

熊本市教育委員会の取り組み

自ら人生を切り拓く力の育成にICTを 教育長自ら主導

授業づくり5つの視点

熊本市教育委員会(以下、熊本市教委)では、早くから新学習指導要領を見据えた教育活動に取り組んできた。確かな学力を育むための「授業づくり5つの視点」(図1)を掲げ、全市立小・中学校で実施している。一方、学力調査やICTを学力向上に活用する動きについては課題が見られていたが、遠藤洋路教育長が就任した2017年4月から、それらの整備・活用が進展し始めた。当時の課題意識を遠藤教育長は次のように語る。

「社会がますます予測不可能になる中、次代を担う子どもには自ら考え行動し、学び続ける力が必要です。子どもは素直で純朴で、基礎学力は全国平均レベルを維持しています。それも、先生方の熱心な指導の成果と捉えていますが、主体性や個性を伸ばす指導には物足りなさもありました。決められたことに従い、教わったことをするだけでなく、自ら人生を切り拓く力を身につけさせたいと考えました」

その実現に向けて強化しているのが、ICT活用だ。

「『授業づくり5つの視点』を実践するツールの1つとしてICT環境を整備し、考えを深めたり、発表したりする場面を増やすことで、子どもの学習意欲が喚起され、先生方の意識も変わると考えました。また、本市の学校におけるICT環境の整備率を高めるというねらいもありました」(遠藤教育長)

授業時数の調整、利用環境の制限緩和などで教員の創意工夫を引き出す

5年間で40億円の予算を確保し、2018年9月にモデル校24校に電子黒板とタブレット端末を配備した。2019年度には全市立小学校、2020年度には全市立中学校にタブレット端末を配備予定であり、全国トップクラスのICT環境の整備を目指す。取材当時は配備から2か月ほど経った時期だったが、モデル校では早くもタブレット端末を様々に活用していた。例えば、小学校の食育の授業で行われた和食のよさを紹介するグループ活動では、市販と自家製の出汁の栄養成分をインターネットで調べて比較。その結果をタブレット端末でグラフや写真にしてまとめ、全グループが授業内で発表した。また、体育の授業では、子どもたちが自ら跳び箱を跳ぶ様子を動画で撮影し、それを見ながら上手に跳ぶ方法を話し合った。

楽しそうにタブレット端末を使う子どもたちに触発されて、教員も意欲的に活用するようになっているという。市教委では、教員がICTを活用した新たな授業づくりができるよう、授業時数の調整にも配慮。多めに確保している予備時数をどの程度減らせるのか、検討会議を設置してシミュレーションしている。また、ソフトウェアのダウンロードやインターネット利用などの制限も、吟味した上で可能な限り撤廃する方針で、家庭学習への積極的な活用も検討中だ。

「使用制限を減らすことで、子どもや教員の創意工夫を引き出し、全国の学校が取り組みたくなるような新しい活用法がどんどん生まれることを期待しています」(遠藤教育長)

学力調査の結果を基に最適なドリルをタブレットに配信

「熊本市学力調査」を中核とした学力向上プログラム

市立小・中学校で年1回行う「熊本市学力調査」も、学力向上に活用しやすいよう改善を図る。以前は、小学校は1月、中学校は4月に実施していたが、特に中学校では前年度の学習内容を復習する時期としては遅く、調査結果を年間指導計画に反映することも難しかった。

そこで、2018年度から小学校での実施時期を12月とし、2019年度からは中学校も12月として、調査結果を次年度の年間指導計画に反映できるようにした。学校教育部指導課の松島孝司課長は、次のように語る。

「文部科学省の『全国学力・学習状況調査』は、相対的な本市の状況を確認できますが、子ども一人ひとりの学力の状況は、単年(小学6年生と中学3年生)でしか把握できません。市の学力調査を毎年実施することで、子どもの学力を継続的に測り、誰がどこでつまずいているのかを明確にし、個々の課題に応じた指導を充実できるようにしました」

学力調査はベネッセの「総合学力調査」を活用。2019年1月に熊本市とベネッセで協定を締結し、調査結果とタブレット学習支援ソフトウェア「ミライシード」を連動させる機能の研究・開発を進めている。これは、調査結果を基に一人ひとりに最適なドリルをタブレット端末に配信するもので、同年7月以降に運用開始予定だ。森江史子主任指導主事は次のように語る。

「調査結果と教材ソフトの連動が実現すれば、苦手分野を重点的に復習できるドリルにタブレット端末を使って取り組むことが可能となり、復習のためのプリント類を印刷する手間も省け、教員の負担軽減にもなります。また、タブレット端末を持ち帰ることで、家庭でもドリルの活用が可能となります」

市教委主導で、学力調査の分析と指導ノウハウの共有を図ることも計画中だ(図2)。以前は、市教委が学力調査の結果を各校に伝え、それを基に、各校が独自に授業改善に取り組んでいたが、2019年度からは、市教委がベネッセと連携して各校の結果を分析し、成果や課題を集約して、改善策を提言するようにする。

佐方法隆指導主事は次のように説明する。
「学力調査のデータは膨大であるため、市教委が中心となって各教科の分析を行うとともに、成果を上げている教員の指導法を集約し、公開授業などを通して、全校に発信していく予定です。各教科の研究会や識者も交えた検討委員会を立ち上げ、授業改善のPDCAサイクルを回していく体制を整えていきます」

2018年10月には、熊本大学・熊本県立大学等と協定を結び、情報教育の整備も始動させた。現在、情報教育のモデルカリキュラムの構築、プログラミング教育の指導法や大学と合同の教員研修などを研究している。今後も、外部との連携を強化しながら、ICTを活用した授業づくりに一層力を入れていく考えだ。

熊本市立川上小学校の取り組み

熊本市立川上小学校は市北部に位置する中規模校で、タブレット端末を先行導入したモデル校の1校だ。子どもたちは素直で何事にも真面目に取り組み、授業でも活発に発表している。保護者や地域も教育に対する関心が高く、学校と地域が一体となって子どもを育んでいる。

例えば、2018年度の夏季休業中に学校を開放して実施されたサマースクールでは、民生委員などの地域人材16人がボランティアで学習指導にあたった。これは、青木透校長の発案により実施された取り組みで、1回2時間で全23回実施し、延べ5,400人以上の子どもが参加した。

学力向上への思いについて、高学年少人数担当の木村幸子先生は次のように語る。
「子どもは学習意欲が高く、地域も学校の活動に協力的です。教員が授業の質を一層高めることで、さらなる学力向上につながると考えています」

児童それぞれの課題に応じたプリントをタブレット端末に配信し朝学習

タブレット端末で算数の問題に取り組む子どもたち。プリントの配布の手間だけでなく、自動採点で教員の負担が軽減された。

同校では、「熊本市学力調査」を指導力向上の最重要ツールとして活用している。その手順は次の通りだ。

調査実施の翌月、市教委の結果分析を受け、評価担当、教科担当、担任が各クラスの結果を精査。課題の多い単元や領域について、年度内での学習内容の定着を目指し、授業で復習する。それと並行して、学校全体の課題を洗い出し、研究推進委員会で次年度に向けた研究の方向性を決める。例えば、2017年度の調査結果では、基礎・基本の定着が十分でないことによる学力差が拡大し、思考力を問う問題の正答率の低さが、学力の伸び悩みにつながっていることが明らかとなった。そこで、2018年度は、週2回の朝学習「チャレンジタイム」の充実を図り、宿題を徹底させたほか、ジグソー学習やバズ学習など、問題解決型授業に必要なスキルを学ぶ校内研修を実施した。

タブレット端末は、基礎・基本の定着から思考力・表現力等の育成まで幅広く活用している。例えば、子ども個々のつまずきに応じた復習プリントを提供する、「総合学力調査」のウェブ分析システム「SYEN(シエン)」を利用し、朝学習の時間にプリントをタブレット端末に配信して取り組ませている。

「以前は、プリントを印刷して配布していたので、手間がかかっていました。今は、タブレット端末上でプリントに取り組ませ、その状況を担任がタブレット端末で確認できるようになったので、教員の負担は格段に軽くなりました」(木村先生)

単元の最後に行う問題演習や朝学習の復習などでは、「ミライシード」も活用している(写真1)。情報化推進チーム・サブリーダーの長野竜弥先生は次のように語る。「『ミライシード』は自動で採点もしてくれます。教員は、誰がどこでつまずいているのかに注目して答案を見ることで、個別指導もできますし、自身の指導の何を改善すればよいのかも分かります。前の学年のドリルもすぐにダウンロードできるので、子ども一人ひとりの課題に応じたきめ細かい指導が可能になりました」

子どもたちの表現の幅が広がり意欲も向上

子どもたちがタブレット端末を活用して作成した修学旅行で学んだことを伝える新聞。吹き出しをつけたり、文字の色を変えたりと工夫が見られる。(学校提供資料をそのまま掲載)

市教委とベネッセの共同研究が進み、子ども一人ひとりの学力やつまずきに合ったドリルが自動で配信されるようになれば、子どもの主体的な学習がより広がると期待している。タブレット端末の活用により、子どもの思考力や表現力の幅も広がっている。2018年度の6年生は、タブレット端末を活用して、修学旅行の振り返りをまとめた新聞を作成した。以前は、手書きで、掲載する写真も教員が配ったプリントを貼っていたため、写真の内容をあまり選べず、レイアウトも限定されていた。それが、タブレット端末で写真を取り込めるようになったことで、子どもたちは自由に写真を選び、その大きさを変えたり、注目したい部分を拡大したりするなど、見せ方にも工夫を凝らしていたという(写真2)。

「子どもたちの自由な発想には、私自身も学ぶことが多くあります。新聞作りの過程では、修学旅行で学んだことの振り返りにとどまらず、表現力や創造力の面でも学びの深まりを感じました」(長野先生)

子どもの学習意欲の高まりは、子どもへのアンケートからも見て取れる。「授業が分かりやすくなった」「活動に集中できるようになった」「自分の考えを表現しやすくなった」「自分の弱点が分かって復習がしやすくなった」といった声が多く上がっているという。

「熊本市学力調査」の活用により、子どもの学力は着実に向上している。2017年度は市平均を上回る学年や教科があった。一方で、学力差が依然として見られることから、引き続き「SYEN」や「ミライシード」を活用し、より一層個に応じた指導を実施していく方針だ。