ICT支援員と共に挑む、
東彼杵町の個別最適な学びと教育DX
——長崎県東彼杵町
ICT支援員と共に挑む、
東彼杵町の個別最適な学びと教育DX
長崎県東彼杵町では、町全体で教育DXを推進し、小中学校における「ミライシード」およびベネッセのICT支援事業を精力的に活用しています。本記事では、東彼杵町教育委員会の山口教育長、彼杵小学校の吉永校長、現場で指導を行う山口紗英子先生、そして学校現場に伴走するICT支援員の馬場さん、中田さんにお話を伺いました。 ミライシードの活用を通して、子どもたちの個別最適な学びと教員の授業改善をどのように実現しているのか。教育委員会、学校現場、そしてICT支援員がチームとして一丸となって取り組む教育DXストーリーをお届けします。
教育委員会・学校・ICT支援員の連携
—— 長年にわたりICT支援事業を利用されていますが、ICT活用状況や先生方の意識にはどのような変化がありましたか?
山口教育長:
導入当初は「どう接していいかわからない」というのが先生方の本音で、機器の基本操作やトラブル時の相談が中心でした。しかし、継続して支援員さんに入っていただく中で人間関係が深まり、相談しやすい環境が生まれていきました。支援員の馬場さんからフランクに「こんなことができますよ」と提案していただいたり、先生方が知らない活用法を示唆していただいたりしながら、一緒に授業を作り上げていく形へと変わっていったと感じています。今では私たちが想定していた以上に授業づくりの奥深くまで入り込んで支援してくれており、大変ありがたく思っています。

馬場さん(ベネッセICT支援員):
最初から山口教育長をはじめ教育委員会の皆様、そして学校の先生方が温かく迎えてくださったことが大きいです。山口教育長は、ご自身が誰よりも率先して学校に足を運び、先生方や私たちICT支援員にも気さくに声をかけて下さります。こうした信頼関係があるからこそ、私たちも現場のニーズに寄り添った提案ができています。私たちのスタンスは「学校現場で先生がやりたい授業や校務をサポートすること」です。先生方や子どもたちの思いを叶えるために全力で伴走しています。
—— 東彼杵町では学期に1回、定例会の中で「報告会」を実施しているとお聞きしました。どのような内容でしょうか?
山口教育長:
学期に1回程度、教育委員会や指導主事、推進室の担当者、そして支援員の馬場さんや中田さんが集まり、直近3か月ほどの活動内容についての報告会を行っています。現場の実情が本当によくわかりますし、「じゃあ次はこうしてみよう」とその場で率直な意見交換ができるのが非常に面白いですね。ICT活用における学校のリアルな姿を知るには、ICT支援員さんに直接聞くのが一番早いです。
馬場さん:
ICT支援員が教育長や教育委員会の皆様と直接情報交換を行うことができる機会はとても貴重でありがたいです。実際に現場の授業に入り、先生の試行錯誤や子どもたちの様子を見ている支援員が、現場の生の声やICT活用の手応えを報告することで、教育委員会様にも学校のリアルな現状を把握していただけていると感じています。
情報活用能力を伸ばす体系的取り組み
—— 東彼杵町では、町全体の「情報活用能力育成カリキュラム」や体系表の作成も進められたそうですね。どのような背景や想いでスタートしたのでしょうか?
山口教育長:
ICT活用を進める上で、情報リテラシーや情報モラルを段階的に指導しておかないと、学校現場も保護者の皆様も不安になります。外部の講師を年1回呼んで講座を開くだけでは、その場限りで「やったつもり」になってしまいがちです。何かトラブルが起こった後に後追いで指導するのではなく、9年間を見越して段階的に積み上げて指導できる体系的なカリキュラムが必要だと考えました。そこで、実績のあるベネッセの馬場さんに「情報活用能力育成体系表」やカリキュラムのたたき台作成を依頼したのが始まりです。

馬場さん:
山口教育長から明確な指針を示していただけたので、私たちは現場の先生方が少しでも負担を感じずに実践できる仕組みづくりに注力しました。具体的には、体系表の項目ごとに企業コラボのコンテンツなどすぐにカード化して授業で使える教材をあらかじめ埋め込んだカリキュラムシートを作成しました。先生方が「何をいつ使えばいいか」が一目でわかり、すぐに授業へ取り入れられる設計にしています。「ミライシード」を活用しながら、子どもたちが楽しみながら安全にリテラシーを学べる環境を目指しました。
山口教育長:
このたたき台をもとに各校の担当者と協議して東彼杵町仕様として完成させ、各校に展開しました。交通安全教育と同じで、タブレットという道具を使う以上、安全な使い方やリテラシーを最初にしっかり教えることが不可欠です。毎年振り返りをしながらアップデートを重ねていきたいと考えています。
褒めて伸ばす学校運営とICT推進
—— ここからは彼杵小学校の吉永校長先生にお伺いします。彼杵小学校での学校経営において、児童や教員に対して大切にされているポリシーをお聞かせください。
吉永校長:
本校の教育目標には「故郷に誇りと愛情を持ち、心豊かでたくましい彼杵っ子」という言葉があります。この学校でたくさんのことを学び、自信を持って次のステップへ羽ばたいてほしいと願っています。
教員へのマネジメントで意識しているのは、先生に対して「押し付けるのではなく、頑張っていることをいっぱい褒める」ということです。校長としては、先生方がポジティブに伸びていくことが何より大切だと考えています。私自身、1日2回は各教室を回り、1日1回は先生方に話しかけて褒めることを心がけています。学級通信や週案が出された際にも具体的なコメントを添えて返しています。先生方が主体的に頑張ることで子どもたちも主体的になります。「子どもは先生の鏡」ですから、まずは教員が前向きに挑戦できる環境づくりに注力しています。

—— ICTの活用や生成AIなど新しいテクノロジーに対してはどのようなお考えをお持ちでしょうか?
吉永校長:
子どもたちがスマホやゲームなどのエンターテインメントだけに時間を使うのではなく、学校のタブレットを「自ら調べ、探究し、ドリルで学ぶための道具」として使いこなしてほしいと思っています。ICT機器を学習の道具として使いこなせれば今後の大きなアドバンテージになります。 また、先生方から「生成AIを使ってもいいですか?」と相談された際も、ルールに気を付けながら「ぜひ使ってみよう」と背中を押しています。新しいチャレンジを後押ししつつ、万が一トラブルが生じた場合は私自身が一緒に入って解決する姿勢を大切にしています。東彼杵町が整えてくれたICT環境を最大限に活かし、子どもたちの学びに還元していきたいですね。
ミライシードが拓く主体的な学び
—— 現場で学級担任を務める山口紗英子先生にお伺いします。日頃、子どもたちと向き合う上で大切にされている指導方針をお聞かせください。
山口先生:
私は「誠実さを持って対応すること」を一番大切にしています。児童に対して決めつけたりせず、話を聞く時は同じ目線に立ち、言葉を選びながら真剣に向き合います。また、自分自身が「ありがとう」と「ごめんね」を素直に言える大人でありたいと思っています。また最終的に子どもたちが大人になった時、「自分で考えて生きていく力」を身につけてほしいと考えています。そのためにも、解き方を教え込むだけでなく、自分に合った学び方や相手への伝え方を試行錯誤できる授業づくりを意識しています。
—— 「ミライシード」をはじめとするICTを授業で活用する中で、どのような価値を感じていらっしゃいますか?
山口先生:
実感している価値は大きく3つあります。
1つ目は「他者参照のしやすさ」です。
リアルな場での発言が苦手な子も、「オクリンクプラス」を活用するとクラス全員の意見をデジタル上で閲覧できます。友達の意見に「いいね」やコメントをつけ合うことで、全員が授業に参加し対等に意見を交わし合い、考えを深められます。
2つ目は「学びの蓄積」です。
オクリンクプラスやドリルパークを活用することで、前の時間の振り返りと本時の振り返りを並べて確認でき、学びのつながりを実感できます。「カルテ」のように学習履歴や思考の過程をリアルタイムに把握できるため、個に応じた適切な見取りや指導が可能です。
3つ目は「情報格差の解消」です。
地方特有の情報量の少なさも、タブレットを活用して自ら調べることで、都会との情報格差を埋められると感じています。

—— 一方、アナログで大切にしたい価値はどのような点でしょうか?
山口先生:
例えば算数で容積を学ぶ際、「量感」を捉えさせたい時は実際の1リットルマスを使うアナログの指導を重視します。また、社会科で地元の「長崎くんち」に携わる方の想いを学ぶ授業では、実際に人の表情や温度感を直に感じ取る体験を大切にしています。実際のものを使ったり、直接人から話を聞いたり、リアルで感じることができるのがアナログの一番の価値だと思います。デジタルとアナログそれぞれの強みを活かしたハイブリッドな授業づくりを心がけています。
授業のプロを支えるICT支援員
—— 学校現場で日々サポートを行っている支援員の中田さんは、どのような動きをされているのでしょうか?
中田さん(ベネッセICT支援員):
週1回学校を巡回し、訪問時は事前に寄せられた質問・相談への回答やトラブル対応を行います。急遽「この時間の授業に入ってほしい」という依頼があれば臨機応変に対応しています。 授業中のサポートでは、主に子どもたちの操作支援を行っています。低学年の児童をサポートする際も、私が代わりに操作するのではなく「ここを押してみてね」と促し、子ども自身に操作させることを徹底しています。普段から気軽に声をかけてもらえるよう、自分から笑顔で挨拶し、話しやすい関係性を築くことを意識しています。
—— 山口先生や吉永校長先生から見て、ICT支援員の中田さんはどのような存在ですか?

山口先生:
私たち教員は「授業のプロ」でありたいと思っていますが、ICTの専門家ではありません。突然ネットワークが繋がらなくなったりした時に、教員だけで対応するのは困難で、授業が止まってしまいます。中田さんは相談するとすぐに駆けつけて迅速に対応してくださるので本当に助かっています。まだミライシードの活用についても、他の学校での最新情報や活用事例を教えてくださるのも非常に有難いです。
吉永校長:
授業中のわずかなトラブルであっても先生の授業のリズムが乱れてしまいます。支援員の皆さんが迅速に対応してくれるおかげで、45分間の授業を実りある時間に保つことができています。教育DXを推し進める上でICT支援員の存在は必要不可欠です。
—— 今後、先生方の自走化が進んだとしても、ICT支援員の必要性は変わりませんか?
山口教育長:
先生方の自走化が進めば支援員がいらなくなるかというと、全く逆です。むしろ「訪問日数を増やしてほしい」という声が現場から上がるほど需要は高まっています。今後は生成AIや情報リテラシー指導など、新しい領域の指導が増えていきます。現場が求めるレベルが高度化するほど、ICT支援は個人の力に頼るのではなく、組織として常に情報をアップデートしながらサポートしていく体制が必要になります。教育的視点と全国でのサポート実績・ノウハウを持つベネッセの支援員さんと共に授業を作り上げ、強力にサポートしていただくことが今後の東彼杵町の教育発展には欠かせません。
馬場さん:
技術が進歩しても、根底にあるのは「子どもたちの安全を守り、正しい使い方・学び方を伝えること」です。私たちは常に研鑽を積み、先生方が「こんな授業がしたい」と思われた時にすぐに最適なアイデアや引き出しを提示できるパートナーであり続けたいと思っています。これからもチームの一員として教育DXを支えてまいります。
※取材の内容は2026年6月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。