「ふつう」を問い直す1時間
――ICTで無意識の思い込みを可視化し、対話へつなぐ道徳の授業

——北海道平取町立平取小学校

教育DXストーリー

「ふつう」を問い直す1時間
――ICTで無意識の思い込みを可視化し、対話へつなぐ道徳の授業

学級の中にある「当たり前」をどう問い直すか——。 この問いに向き合ってきたのが、平取町立平取小学校の高橋先生です。「ふつうって何だろう?」という一つの問いから始まった授業は、ICTの力を借りて、子どもたちの無意識の思い込みを可視化し、価値観を揺さぶる学びへと発展しました。本記事では、その実践と背景にある思いをご紹介します。

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授業に取り組んだきっかけ

――今回、この授業に取り組まれたきっかけを教えてください。

高橋先生:
子どもたちはとても素直で優しいですが、教室での何気ないやり取りの中で、「男だから」「女だから」という言葉が、ごく自然に使われていることが以前から気になっていました。悪気があるわけではないけれど、その一言で選択肢を狭めてしまったり、自信をなくしてしまったりする子がいるかもしれない。そうした思いから、見過ごすことができませんでした。
子どもたちは、テレビやSNS、広告などを通して、さまざまなイメージを無意識のうちに受け取っています。でも、それが社会の不公平さや誰かの生きづらさにつながっているとは、なかなか実感しにくいものです。だからこそ、ジェンダーを「知識」としてではなく、「自分の考え方」として問い直す授業にしたいと考えました。

正解を教えず、「問い続ける」授業にしたかった

――今回の授業では、どのような点を大切にされましたか。

高橋先生:
一番大事にしたのは、「正解を教えない」ことです。「こう考えなさい」「これが正しい」と示してしまうと、子どもたちは他人事になってしまいます。ジェンダーについて正解を伝えるのではなく、自分の中にある思い込みに気付くことを大切にしました。答えを与えるのではなく、「なぜそう思ったのか」と問い続ける授業にしたかったのです。
そこで、「ふつうって何だろう?」という答えのない問いを軸に据えました。直感で選び、理由を言葉にし、友達の考えに触れる。その中で立ち止まり、自分の考えを見つめ直す時間をつくることを意識しました。


――授業の導入では、どのような活動をされたのですか。

高橋先生:
最初に行ったのが、オクリンクプラスを使った「いきなりクイズ」です。「1週間だけ住むなら、どちらの家に住みたい?」という二択問題を提示しました。子どもたちは直感で選び、その理由を入力します。
集計すると、「かわいいから女子っぽい」「かっこいいから男子っぽい」といった理由が並びました。自分では何気なく選んだ理由が、同じような言葉としてクラス全体に広がっていることが見えてきます。そこで、「今の考え方に思い込みはなかったかな?」と問いかけることで、自分の考えを振り返るきっかけをつくりました

 

――そこから、どのように学びを深めていったのでしょうか。

高橋先生:
同じ建物を使って、「この建物をデザインしたのは男性?女性?」という問いを投げかけました。最初の印象のまま判断する子が多くいましたが、実際の作者を知ると予想が外れます。そのときに、「なんで自分はそう思ったんだろう?」という問いが自然に生まれてきます。
オクリンクプラスの「みんなのボード」に理由を集めると、子どもたちは互いの考えを見合いながら、「同じ理由で考えている人が多い」「違う考えの人もいる」と気付き始めます。個々の感覚だったものが、クラス全体の傾向として見えることで、自分の考えを客観的に捉えることにつながっていきました。


――意見の可視化が子どもの主体的な気づきにつながっていくと。

高橋先生:
意見が可視化されることで、「みんなはどう考えているのだろう」と自然に対話が生まれます。書く活動のため、発言が苦手な子も含めて全員が参加できるのも大きな特徴です。
また、子どもたちは友達の意見を見ながら、「そういう考え方もあるのか」「自分はなぜ違うのか」と考え、自分の意見を書き直す姿も見られました。こうした「見る・考える・更新する」という過程の繰り返しが、学びを深めていったと感じています。

データを使って、社会とつなぐ

――授業の後半では、データも扱われていますね。

高橋先生:
職業ごとの男女比やジェンダーギャップ指数を取り上げました。帯グラフを操作しながら予想し、実際のデータと比較する活動です。
子どもたちからは「思っていたより差がある」「イメージと違う」といった声が多く出ました。それまでは身近なイメージとして捉えていた“らしさ”が、社会の中でどのように表れているのかを考えるきっかけになります。自分の思い込みが、社会の仕組みや不公平さにつながっているかもしれないという視点へと広がっていきました。

 


――実践を通して、どのような変化がありましたか。

高橋先生:
授業後、「それって人それぞれじゃない?」という言葉が教室で自然に聞かれるようになりました。係活動や遊びでも、「やりたい人で決めよう」という話し合いが増えています。
オクリンクプラスの振り返りでは、約9割の子が「考え方が変わった」「これから行動を変えたい」と記述していました。短い1時間の中でも、自分の考えを問い直そうとする姿が見られるようになり、確かな気付きが生まれたと感じています。


――校長先生からご覧になって、この授業はどのように映りましたか。

木田校長先生:
高橋先生の授業はICTを使うこと自体が目的になっていない点が印象的です。子どもたちが自分の考えを書き、友達の考えを見て、また考え直す。その流れが自然に授業の中で成立しています。
また、こうした姿は授業だけで突然生まれるものではありません。日頃から安心して考えを出せる学級づくりがあるからこそ、子どもたちが迷わず書き、考え続けることができているのだと感じています。

ミライシードは「考えを見える形にする道具」

――ミライシードを活用してよかった点を教えてください。

高橋先生:
一番良かったのは、子どもたちの考えをすぐに可視化できることです。全員の考えが並ぶことで、「自分だけじゃなかった」「こんな考え方もあるんだ」と、対話が自然に生まれていきます。
正解のない問いでも、全員が関われる環境をつくれる点が大きく、子どもたちの思考を広げるための道具として有効だと感じました。


――松田教育長は、今回のような授業をどのように捉えていらっしゃいますか。

松田教育長:
これからの時代、同じ内容を同じ方法で全員に教えるだけでは限界があると感じています。子ども一人一人が考え、関われる時間をどうつくるかが重要です。
その点で、今回の授業は一方的に教えるのではなく、子ども自身が考え続ける時間が確保されているところが大きな価値だと思います。ICTはあくまで手段ですが、その場で考えを書き、他者の意見に触れられる仕組みは、主体的な学びを支える一つの有効な「武器」だと感じました。
学校は、子どもたちが「分かった」「できた」と実感できる場所であるべきです。その実現につながる実践だと考えています。


――ICTを授業に取り入れられる中で感じている課題はありますか。

高橋先生:
多くの子が参加できる一方で、スピードについていけない子への支援は必要です。支援員と連携しながら、一人一人に合わせた支援を考えています。
これからも試行錯誤しながら、子どもが自分の考えを持ち、それを言葉にできるような授業づくりを続けていきたいと思います。今後は道徳だけでなく、他教科でも「問い直す学び」を広げていきたいですね。


――日頃の授業づくりで意識されていることは何でしょうか。

高橋先生:
子どもが「話したくなるテーマ」を選ぶことです。問いが魅力的であれば、子どもから自然に対話が生まれます。逆にテーマが難しすぎると、表面的なやり取りで終わってしまうんです。また、授業の中で子どもが主体的に動く余白を残すことも意識しています。子ども同士のやり取りから学びが広がるような設計を大切にして授業をつくっています。


――ICT活用や授業づくりに悩まれている先生方へ、メッセージをお願いします。

高橋先生:
完璧な授業でなくてもいいと思います。ICTも、使いこなそうと気負うより、「子どもの考えを引き出すために、何ができるか」という視点で触ってみてほしいです。


※取材の内容は2026年3月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。

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