学びを蓄積することで、
子どもは自分を信じられるようになる
――国語の授業から始まった
対話力を育てる挑戦

——富山県小矢部市立大谷小学校

教育DXストーリー

学びを蓄積することで、
子どもは自分を信じられるようになる
――国語の授業から始まった
対話力を育てる挑戦

学習で身につけた力を、次の学びや生活にどう生かすか——多くの教室に共通するこの課題に向き合ってきたのが、ミライシードAWARD2025 地域賞(北陸)を受賞した、富山県小矢部市立大谷小学校の川村先生です。
川村先生は、オクリンクプラスを活用した「つむぐんBOX」により、子どもたちが学びを蓄積し、自ら取り出して使える環境を構築。ICTを手段として生かしながら、対話力と学びに向かう姿勢を育んできました。今回は、その実践と込められた思いを伺いました。

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国語の学びが、子どもの真の力に積み上がっていないという課題に立ち向かう

――まずは、今回の受賞、おめでとうございます。受賞を聞いたときのお気持ちを教えてください。

川村先生:
ありがとうございます。本当にびっくりしました。校長先生をはじめ、たくさんの先生方やICTサポーターの方に相談しながら進めてきた実践だったので、これまでの積み重ねが認められたようで、とても嬉しかったです。


――この実践を始める前、学級にはどんな課題がありましたか。

川村先生:
子どもたちはまじめで、4月から任せたことに責任をもって取り組める姿が見られました。しかし、話し合いの場面になると、自分の考えをうまく言葉にできなかったり、強い意見に流れてしまったりする姿が多く見られました。自分の考えを持っていないわけではないのに、いざ話そうとすると言葉が出てこない。「伝えたいけれど、伝えられない」子どもが多かったんです。そこに、ずっと課題意識を持っていました。


――今回のお取り組みでは、どうして国語科に着目されたのでしょう。

川村先生:
「話す・聞く」「書く」「読む」。国語科のこれらの力は、「相手に分かりやすく伝える」という点でつながっています。子どもたちは日々の授業や単元に一生懸命取り組んでいますが、次の学習になるとまたゼロから始まるような感覚がありました。本来つながっているはずの学びが、単元ごとに分断されてしまっているのです。特に、「人に伝えるための言葉」や「話し合いの型」が十分に残っていないことや、対話への自信のなさが気がかりでした。このままでは、学年が上がっても力として定着しない。その危機感が、今回の実践の原点でした。


――そこから、どうやって今回の実践にたどり着いたのでしょうか。

川村先生:
きっかけは、樋口万太郎先生の著書「算数カード実践」との出会いでした。学びをカードにして蓄積していく手法に触れ、「これなら国語でも生かせる」「しかもオクリンクプラスなら他者参照ができ、学びを一年分残せる」と感じました。

各単元での学びを“その場限り”にせず、必要なときに自分で取り出して使える環境をつくれば、対話力は必ず伸びる。そう考えて、「つむぐんBOX」の構想が生まれました。

一人ひとり学びを蓄積していく“安心できる場所”

――「つむぐんBOX」とは、どんな場なのでしょうか。

川村先生:
オクリンクプラスの「みんなのボード」に子ども一人ひとりのボードを用意し、ピラミッドチャートを配置しています。この場所を「つむぐんBOX」と名付け、年間を通して使う“知の拠点”と位置付けました。「つむぐんBOX」は、単なる記録の場ではありません。各単元で学んだことを「見える形」で蓄積し、次の学習や話し合いの場面で自分から取り出して使えるようにするための、学習の土台として設計しています。単元の終わりには毎回、「つむぐんBOX」で振り返りの時間を取っています。子どもたちは、単元を通じて学んだことや気づきをカードに記入し、ピラミッドチャートに配置していきます。すべてのカードを俯瞰して眺め、下段には「これまでに身につけた学び」、上段には「今、特に意識したい学び」を、子ども自身が並べ替えていきました。


――「つむぐんBOX」を作成するにあたり、どのようなことを意識されましたか?

川村先生:
ひとつは、「子どもそれぞれが大切にしたい学びを可視化できる、自由度の高いフレーム」。もうひとつは、「自分の学びに気づき、言語化する」ことを支える声かけです。話す・伝える力を育てるために始めましたが、初めからうまくはいきませんでした。何を書けばよいか分からず手が止まる子や、私の言葉を書き写す子もいました。そのたびに「分かったことでも感じたことでも、まずは学んだことを何でも書いていいよ」と伝え、安心して書ける場を大切にしました。私は「学びにも旬がある」と考えています。ある子にとっては基礎でも、別の子にとっては「今必要な学び」です。だからこそ、子ども自身が「今の自分に必要なもの」を選び、言語化できることを大切にしました。


――校長先生から見て、川村先生のこの実践をどのようにご覧になっていますか。

校長先生:
川村先生の実践の価値の一つとして注目しているのは、ICTを使うこと自体が目的になっていない点です。「つむぐんBOX」も、子どもたちが「自分の学びをどう残すか」「それをどう使うか」を考えるための土台として、授業の中に自然に溶け込んでいます。その結果、子どもたちが自分の学びを振り返り、考え直し、言葉にしていく姿が前面に出てきていることを感じます。「先生、これで合っていますか」と正解を確認するのではなく、「今は前に学んだこれを使ってみたい」「こう考えたんだけれど」と、自分の考えを確かめながら話す場面が増えてきました。

「他者参照」をきっかけに、子どもの学びが変化した

――校長先生もおっしゃっていたように、学びの幅も深さも広がっているように見受けられます。このような変化のきっかけは、何だったと感じていますか。

川村先生:
一番大きかったのは、オクリンクプラスで友達の学びを参照できたこと、「他者参照」です。取り組みの中で「友達のボードを見ていいよ」「よいと思ったら真似していいよ」と繰り返し伝え、「真似ぶ(まねぶ)は学ぶ」という言葉で学び合うことそのものを価値付けてきました。すると、友達の工夫に触れて「これいいな」と参考にし、自分のカードを書き直す姿が自然に見られるようになりました。中には工夫したカードを紹介する子どもも現れ、「こんな書き方もいいんだ」「こういう視点もあるんだ」と、表現や着目点が広がっていきました。先生に言われたことを書くのではなく、「自分で考えて書いていい」という空気が、少しずつクラスに生まれていったように感じています。


――他者参照が広がる中で、子どもたちの学びに向かう姿勢や意識には、どんな変化がありましたか。

川村先生:
大きな変化は、子どもが主体的に自分の学びを選択するようになったことです。単にカードの数が増えたのではなく、「これも大事だった」「今はこっちを大切にしたい」と、自分で振り返る姿が見られるようになりました。ピラミッドチャートの中でカードの位置を入れ替えたり、頂点に置く学びを考えたりしながら、「今の自分にとって何が一番大事か」を吟味しています。そうした姿から、学びが本当に自分のものになりつつあると感じています。


校長先生:
学期の途中から、教室の雰囲気が少しずつ変わってきたのを感じていました。子どもたちが、先生に正解を求めるのではなく、友達の考えに目を向けたり、自分の考えを立ち止まって確かめたりする姿が増えてきたんです。「つむぐんBOX」を通して、「学びは一人で完結するものではない」という感覚が、自然と子どもたちの中に育ってきているのだと思います。

 


――特に印象に残っている子どもの姿はありますか。

川村先生:
年度当初、「話す・聞くの授業が嫌い」と話していた子どもがいました。発言すること自体に苦手意識があったのだと思います。ですが、カードを書き貯める中で、自分の中に「使える技」が増え、少しずつ自分の考えを言葉にする自信をもてるようになり、「話す・聞く授業が楽しい」と言ってくれました。また、自然と聞き手の反応を意識し、「問いかけ」をしながら発表したり、自ら委員会の長に立候補したりする姿も見られるようになりました。国語の学びを通して「前に出てみよう」と思えるようになったのだと感じています。

「国語は人を変える」——そのことを改めて実感しました。


――この一年を通して、「つむぐんBOX」は子どもたちにとってどんな存在になったと思いますか。

村先生:
学びが「自分の中に残っている」と、子どもたち自身が感じられる場所になったと思います。「つむぐんBOX」を見ることで、「ここまで学んできた」と立ち止まって確かめることができる。その感覚が、安心と自信につながっていきました。「つむぐんBOX」は、積み重ねてきた自分の学びを信じるための拠りどころになっていったのだと思います。


――今後、挑戦していきたいことは。

川村先生:
「つむぐんBOX」で蓄積してきた学びを、国語の授業の中だけにとどめず、教科を越えたり、学校生活や日常の場面につなげたりしていきたいと考えています。学びを「その時間に分かったこと」で終わらせるのではなく、「前に学んだことを、今ここで使える」と子ども自身が気づけるようにすること。それができたとき、学びは本当に自分の力になるのだと思います。これからも、子どもたちが自分の学びを振り返り、つなぎ、更新していけるような環境づくりに、丁寧に取り組んでいきたいです。


【編集後記】

「つむぐんBOX」で学びをつむぎ、言葉を通して自分の学びを広げていく。
川村先生の実践は、子どもたちが自分の学びを自分の力にしていく、その確かな歩みを伝えてくれました。

※取材の内容は2026年3月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。

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