「総合」が学校DXのハブになる ―
― 12町会アントレプレナーシップで実現した、研修に頼らないICT活用 ―
——東京都文京区立第九中学校
「総合を起点に、学校全体で学び合い、支え合う文化が生まれました」
「ミライシードAWARD 2025」教育DX部門 優秀賞を受賞されたのは、 文京区立第九中学校の森川大地先生を中心とした学校実践です。 同校では、総合的な学習の時間を学校DXのハブに位置づけ、 オクリンクプラスを共通基盤として活用することで、 教員・生徒が学校全体で学びのプロセスを共有し、 互いに支え合いながら探究を深める文化を育んできました。 12町会と連携したアントレプレナーシップ教育を通して、 ICT活用を特定の教員に依存させることなく定着させ、 「研修に頼らない学校DX」を実現している点が高く評価されました。 今回は、その実践の詳細と、 学校全体を巻き込む設計思想についてお話を伺いました。
1.「総合」が学校DXのハブになる —— 九中が向き合った課題意識 ―
―まず、今回の実践に取り組む前、学校としてどのような課題を感じていましたか。
校長:
中学校ではどうしても、ICT活用が特定の教科や先生に偏りがちです。 研修は増えているのに、「現場ではなかなか使われない」「結局、推進役だけが頑張っている」という状況になってしまう。そこに強い課題意識がありました。 総合的な学習の時間は、全校全員が関わる唯一の教科です。 「ここをハブにできれば、学校全体が動くのではないか」と考えたことが、今回の実践の出発点でした。
――研修に頼らないDX、という発想はそこから生まれたのですね。
校長 :
はい。研修を否定しているわけではありませんが、 研修だけでは文化は変わらない。 「使わざるを得ない場」「自然に使い続ける場」が必要だと思っていました。

2.地域12町会をまるごと教材に —— 全校縦割りの探究設計 ―
―総合のテーマとして、「12町会アントレプレナーシップ」を選ばれた理由を教えてください。
校長:
地域には12の町会があり、高齢化や担い手不足といった課題があります。 それなら、「中学生が関われる余地があるはずだ」と思いました。 正直、最初は「中学生には難しい」「現実的ではない」と言われることも多かったです。 それでも、「地域と学校がつながる学びには価値がある」と説明を重ねていきました。 ――実際に動かし始めてみて、どうでしたか。
森川先生:
テーマを「12町会」に絞ったことで、生徒も教員も迷いにくくなりました。 問いの幅は狭くなりますが、その分、 「この地域をどうしたいのか」という本質的な部分に集中できたと感じています。

3.オクリンクプラスを“共通基盤”に —— 誰でも使えるICTの型 ―
―全校・縦割りの探究を支える中で、ICTはどのように活用されたのでしょうか。
森川先生:
意識していたのは、ICTを「難しいもの」にしないことです。 誰でも見てすぐ分かる、誰でも使える。 まずはそこを徹底しました。 オクリンクプラスは、教科書やワークシートに近い感覚で使えるので、 「これだけは通る」という共通の型を学校全体でそろえることができました。 活動カードには、 「やったこと」「考えたこと」「次に取り組むこと」 を書くようにして、PDCAが自然に回る設計にしています。
――発表や評価にもつながっていったそうですね。
森川先生:
はい。カードをそのままポスターセッションの資料として使えるので、 生徒も先生も準備の負担が減りました。 結果的に、「使ったほうが楽」という感覚が広がったと思います。

4.得意を生かして関われる —— 全員が主役になる学びの変化 ―
―全校実践の中で、生徒の変化はどう感じていますか。
森川先生:
探究では、全員が同じことを同じレベルでできる必要はありません。 調査が得意な子もいれば、まとめやデザインが得意な子もいる。 役割をたくさん用意することで、 特別支援学級の生徒も含め、 「自分はここで関われた」と言える場面を意図的につくりました。
――評価の場面も印象的だと伺いました。
森川先生:
オクリンクプラス上で記録が残るので、 その場限りの頑張りではなく、プロセスを含めて評価できるようになりました。 結果として、生徒自身が 「自分はプロジェクトの一員だった」 と実感できたことが、大きな変化だと思います。

5.今後の展望:研修に頼らず、使い続けられる学校DXへ
――今後、この実践をどのように広げていきたいと考えていますか。
森川先生:
正直なところ、大きく変える必要はないと思っています。 初年度で「型」はできました。 来年度は、今年やったことをなぞるだけでも十分です。 特別な研修をしなくても、 必要なときにオクリンクプラスを開く。 それが日常になりつつあることが、一番の成果だと思います。
――校長としては、どんな学校DXを目指していますか。
校長:
ICTを“特別なこと”にしない学校です。 当たり前のツールとして使いながら、 先生方には、授業の本質――問いや教材研究に時間を使ってほしい。 総合を起点にしたこの実践は、 そのための一つの答えになったと感じています。

【編集後記】
インタビューの中で印象的だったのは、森川先生が「特別な取り組みをしたというより、学校として “これを続けていけばいい”と思える軸ができたことが一番大きいです。」と語られた場面でした。
ICT活用というと、新しいツールや高度なスキルに目が向きがちですが、第九中学校の実践が示していたのは、ICTを“特別なもの”にしないことで、学びが学校文化として根づいていくという姿でした。オクリンクプラスを共通基盤に、学びのプロセスを記録し、共有し、振り返る。その積み重ねによって、生徒はもちろん、教員同士も学び合い、支え合う関係が育まれていました。
「研修で変わるのではなく、使い続ける中で変わっていく」。総合的な学習の時間を起点にした第九中学校の実践から、学校DXが“仕組み”ではなく文化として育っていく未来を感じさせられました。
※取材の内容は2026年3月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。
学校名:文京区立第九中学校
特色:総合的な学習の時間を学校DXのハブに位置づけ、地域と連携したアントレプレナーシップ教育を全校で展開。オクリンクプラスを共通基盤として活用し、研修に頼らず、教員・生徒が日常的にICTを使い続けられる学校文化の形成に取り組んでいる。