「自分で決め、共に高まる」
算数科授業の再構築 —— オクリンクプラスを軸に主体的な学びの「型」を展開
——長崎県諫早市立喜々津小学校
子どもたちが学び合い
お互いを褒め合うことが増えました
「ミライシードAWARD 2025」九州・沖縄の部を受賞されたのは、長崎県諫早市立喜々津小学校の名切先生、上妻先生たちです。同校では、算数科の授業プロセスを抜本的に見直し、「オクリンクプラス」を主軸に据えることで、子どもたちが自ら学び方を選択し、互いの良さを認め合う「主体的な学び」を実現されました。今回は、その実践の詳細と、背景にある教育観についてお話を伺いました。
「自己決定」が主体性を育む —— 算数の授業を4つの「場」に再構成
——はじめに、今回の実践の概要と、背景にあった課題感についてお聞かせください。
名切先生:
本校が抱えていた最大の課題は、子どもたちが授業に対して受動的になりがちで、自ら考え、判断し、学びを進める機会が十分に確保できていないことでした。その結果、学習への主体性が育ちにくく、また「分かった」「できた」という達成感を実感しにくい状況にありました。
これらの課題を克服するために、私たちは「主体的に学ぶ姿」を「自ら考え、自ら選択し、自ら解決する姿」と定義し、授業の中に意図的な「自己決定の場」を組み込むことにしました。具体的には、算数科の授業を「①ふり返る」「②向き合う」「③高め合う」「④高める」という4つの場に整理し、各場面で子どもたちが自分自身で選択、判断できるように設計しています。
——授業を見学しましたが、冒頭から非常に活気がありました。
名切先生:
はい。授業開始後に取り組む「ふり返る」の場面では、前の授業までのポイントをクイズ形式で出し合ったりするのですが、その際に「画面共有のスピード」を競わせる工夫を取り入れています。身構えてしまう子でも、スピードで勝てればそれだけでテンションが上がり、その勢いのまま発表に臨めるんです。この「スタートダッシュ」が、子どもたちの授業に向かうモチベーションを大きく変えています。

授業中の名切先生
ノートか、タブレットか。子どもたち自身が「最適な手段」を選択するハイブリッド学習
——授業が始まって15分ほどすると「移動していいよ」とおっしゃっていましたね。
名切先生:
一人で解く子もいれば、離れた席まで教えに行く子もいます。「向き合う」場面では、子どもたちが「誰と学ぶか(一人で・友達と・先生と)」、そして「何にまとめるか(ノート・タブレット)」を自分自身で選択します。2学期は「分からないから友達と解く」という子が多かったのですが、3学期に入ると「一人で解けそうだから」と、自分の理解度に合わせて自律的に選ぶ子がかなり増えました。
上妻先生:
ふり返り自学も同じような感じで、主体的に内容を決めながら進めているのですが、自学ノートにこんなことを書いた子がいました。テストの結果がとても悪かったことについて、「授業中に友達に頼りすぎていたと思ったから、次からはもう少し一人の時間を増やしたい」とふり返っていたんです。最初は「わかるから一人で解く、わからないから友達と解く」というだけの視点だったものが、「わからないけど一人でやってみる」「何のために学ぶか」という視点が少しずつ生まれてきたのかなと思っています。
——子どもたちが自由に選べる環境や時間を作ることに、不安はなかったですか?
名切先生:
子どもたちに委ねることの難しさはありますし、安心して任せられる環境づくりについては、まだ完全にできているとは言い切れません。ただ、子どもたち自身が自己決定において大切なことを少しずつ学んでいく機会になると思っています。
——ノートとタブレットの使い分けについても、面白いデータが出ていますね。
名切先生:
ええ。アンケート調査では66%の児童が「問題によって、ノートかタブレットかを使い分ける」と回答しました。筆算や複雑な計算はノートで行い、図解や考え方の説明にはオクリンクプラスのカードを使うといった「ハイブリッド型」の学習スタイルが、子どもたちの間で自然に定着しています。
さらに新しく導入されたCanva(キャンバ)を活用して、自分なりのカードデザインにこだわる子もいます。授業外の時間にテンプレートやスタンプを準備し、季節に合わせたデザインでまとめるなど、ICTが子どもたちの表現意欲を刺激しています。

どうやって学ぶか、誰と学ぶかを自分で選び、考えの伝え方を工夫する
「友達の考えを借りて発表できた!」認め合い、高め合う学級風土の醸成
——「高め合う」場面での、子どもたちの変化はいかがでしょうか。
上妻先生:
ノートでもいいし、タブレットでもいいという形にしてから、「ノートを開いて」「書くよ」という声かけが全くいらなくなりました。参加していない子がいないというのが、授業をしていて一番大きく感じるところです。また、提出ボックスでクラス全員の考えが即時に共有されることで、子どもたちは自分とは違った視点に触れることができます。

象徴的なのは、発表のシーンです。自信がなかった子が「友達の分かりやすいカードをヒントにします」と発表する姿が見られるようになりました。「何も書けずに時間をやり過ごす子」がいなくなり、オクリンクプラスの提出ボックスに出すために、友達に聞きに行ったり、途中まで一緒に考えてもらったりと、自分で何とかするという変化が生まれました。
校長先生:
私の視点からは、子ども同士が褒め合うことが増えたと感じています。以前は教員が評価するだけでしたが、今は「〇〇さんのカードが良かった」という声が自然に上がります。褒められた子はとてもうれしくなりますし、「自分は次に何を書こうか」と考えるようになります。そういう相互作用が次の授業への布石になって、子ども同士でお互いの良さを認め合う関係ができてきたと思います。
学校全体の資産へ —— 教員間の連携と地域への広がり
——校内での推進活動はどのようにされていますか?
名切先生:
まずこういうことを授業に導入したいという提案を研究授業に盛り込んだり、掃除のない日の15分間の隙間時間にアプリの紹介をしたいと提案したりしています。そういった提案を校長先生に認めていただきながら進めています。
もちろん個人差はあって、板書を大切にしている先生もいらっしゃいます。ただ、オクリンクプラスを使うと授業でこういうことができるということを子どもたちに知ってほしいですね。特に次の学年へ上がるときに、あるクラスだけ全然やっていないとか、形だけで終わっていたというクラス差が生じないように、研究部から呼びかけてもらっています。研究部は3人チームで進めています。

——この実践を継続し、広げていくための工夫について教えてください。
名切先生:
5年生は3クラスあるんですが、国語・算数・社会などで担当を分けて単元ごとにカード作りをしています。国語の時に上妻先生がルーブリックを作ってくれたことで、「自分だけだったらそこまでしないかもしれないけど、他の2クラスのために頑張ろう」という意識が生まれています。
上妻先生:
学年ごとに「1年生はログインから」「高学年は委員会活動でも活用」といった段階的なゴールを設定し、学校全体での活用の標準化を図っています。

——外部への発信にも積極的ですね。
校長先生:
市教委主催の研究主任会にて公開授業を行い、今日のようなスタイルの授業を見てもらう機会を頂きました。「うちはこうやっているよ」「うちの課題はこういうことだから、こんな授業をしています」という形で他校に紹介し、それぞれの学校に合った授業改善をしていただければとお伝えしました。

今後の展望:確かな学力向上と、挑戦し続ける教員集団へ
——今後、どのような教育をめざしていきたいですか。
上妻先生:
今では子どもたちが自分で決めることにかなり慣れてきて、楽しく取り組んでくれていると思います。ここからは「自分で決める楽しさ」だけでなく、学力がしっかり身につくようにしていきたいですね。やっぱり結果につながってこそ子どもたちもうれしいと思うし、次のやる気にもつながると思います。「できた」という実感が授業中だけではなく、毎回のテストも含めて、一緒にレベルアップしていけるようにしたいと思っています。
名切先生:
現時点では、先生たちが「オクリンクプラスを使わないといけない」という縛りを感じているように思います。でも、先生たちに「必要だから使いたい」と思ってもらいたいし、子どもたちも「オクリンクプラスで楽しく効果的に学習できるようになったと感じられるように、先生たちに周知をしていきたいと思っています。
校長先生:
私は、先生方がこのツールを通じて自分の授業を見つめ直し、発問や教材研究といった本質的な改善にチャレンジし続けてほしいと願っています。どんなに優れたツールがあっても、教師の教材研究がなければ教育は成立しません。喜々津小学校が、ICTをきっかけに常に進化し続ける学校でありたいですね。
【編集後記】
インタビュー中、名切先生が「去年までは学習に向きあえず、めあてとまとめしか書かなかったような子が、本当に45分間学びに向かうようになりました」と語った際の晴れやかな表情が印象的でした。ICTは単なる効率化の道具ではなく、教師を「管理」から解放し、子どもたちを「自立した学びの主体」へと変えていく。喜々津小学校の実践から、そんな教育の未来を想像しました。
※取材の内容は2026年3月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。
学校名:諫早市立喜々津小学校
特色:「未来を生き抜く力」を伸ばすために、教育目標に主体的に考え、判断し、行動しようとする児童の育成を掲げる。